キミとボクの距離 〜ジャッカル編〜 完










靴もうまく履けずに前のめりになりながら昇降口を出た。
周囲を見渡してもの姿を見つけられず、とにかくと校門から外へ飛び出す。
出たところでバスが走り去るのを見て、直感が背を押した。


バス停にはを追って行った女子がいて、俺の姿を見つけて目を丸くしている。



「あれに乗ってるか!?」



主語もなく反対側の歩道を駆け出しながら叫ぶと、呆気にとられた女子たちが慌てた様に頷いた。
そんな姿を最後まで見る余裕もなく俺はバスを追いかける。
バスが交差点を曲がっていく。


次の停留所は・・・


目まぐるしく考えるが思考がまとまらない。
の泣き顔ばかりが頭に浮かんで、なんとかして追いつかなくてはと焦るばかりだ。


下校する学生たちの間をすり抜けて走る。
普段から走っている俺でも車を追いかけるとなると話は別だが、むこうは幸いなことにワンマンバスだ。


それでも交差点を曲がるたびに焦りが募る。
ひとつ目の停留所は逃した。
それでもテールランプは視界から逃していないから、絶対に追いつけると確信を持ってアスファルトを蹴る。


自分の荒い呼吸を聞きながら夢中で走っているうちに、俺の頭の中から細かなことが零れ落ちていくようだった。
浮かぶのは『ごめんな』という気持ちと、小さなが俺を見上げて浮かべた笑顔。


笑顔に嘘などなかった。
見抜けなかったのは俺のせいだから、それを取り戻すのも自分だ。
あの笑顔を俺だけのものにしたい。
そう、強く思う。



赤信号でバスが止まり、すぐに次の停留所がある。
バスの広告がはっきりと見える距離まで追いついてきた俺に、後部座席で項垂れるの後ろ姿が見えた。



ゴメン。もう絶対に泣かさない。



キミがそこにいる。
あんなに離れていたキミの背中が近くなる。
もっと距離を縮めて、絶対に捕まえてみせる。










ぼんやりとバスの揺れに身を任せていた。
泣いたと一目で分かるだろう顔を上げることもできず、バスの後部座席に身を隠す。


明日から、どうしよう。
後悔ばかりが頭の中を巡り、握りしめたハンカチとお守りは皺になってしまった。


バスが止まる。
扉が開き、人が出入りする気配を聞くともなし聞いている。
どんどん学校から離れていっていることだけが救いだと思う。


ブザーの音がして、扉が閉まりかけた時だ。
鈍い音と共に、一度は閉じた扉が再び開いた。


その音につられて顔を上げた私は、息を切らせながらステップに足をかける人の姿を見て呼吸が止まりそうになった。



・・・」



声にならない声でジャッカル君が私を呼んだ。



どうして。
だって、こんな離れたバス停で彼が乗り込んでくるなんて信じられない。
それも声が出ない程に息を弾ませ、額に汗を浮かべて。
緩んだネクタイも裾の出かかったシャツもそのままにジャッカル君は近付いてきた。
走りだしたバスは揺れ、それでも彼の眼差しは私に見据えられたまま動かない。


考えもまとまらない私の前まで歩いてきたジャッカル君は前の座席に手をかけ、大きく一つ深呼吸した。



「悪かった」



言うなりジャッカル君が勢いよく頭を下げた。
驚きが重なって言葉も出ない。
周囲の人たちもいるはずなのに、そんなことも目に入らなくなっていた。



「お守り・・本当はすごく嬉しかった」



頭を下げたままジャッカル君が小さく言った。



「けど・・俺はに付き合ってる奴がいるって聞いてたから、その・・・どうしてって思って」



胸に痛みが走った。
私のついた嘘がすべてだ。
あきれただろうなと思うと、また涙がこみ上げてくる。


反応のない相手をうかがうように顔を上げたジャッカル君は私の表情を見て眉を寄せた。



「な、泣かないでくれ。に泣かれるのは俺にとって本当に辛いから。頼む」



焦って身を乗り出すジャッカル君に申し訳なくて、私は唇を噛んで涙を堪える。
うんと頷くと、彼のほうが泣きだしそうな顔で小さく微笑んだ。



「大切な人を・・もう泣かせないから」



そうジャッカル君は言ってくれた。
勝手にぐるぐると考えて、迷って、落ちこんで、空回りしていた私を慰めるように、
彼は一つ一つ丁寧に今までのことを説明してくれた。


彼女のこと、丸井君のこと、自分のこと、そして私のこと。
ずっと特別に想っていたんだと時には口ごもりながら、照れながら、ジャッカル君の言葉で話してくれた。



「それで・・えっと、そのお守りをくれるだろうか」



言って、ちょっとだけ恥ずかしそうに頭をかいた彼。
私は握りしめていたお守りの皺を伸ばし、想いをこめて差し出す。


ちょっぴり泣いてしまったけど、嬉し涙はいいよね?



「明日、応援に来てくれるか・・な」
「うん。行く」


「そっか。ありがとう」



やっと彼の手にお守りが渡った時、バスは終点目前だった。
ジャッカル君は遠慮がちに私の隣へと腰を下ろし、指のひらで優しくお守りを撫でる。


終点までは数分もないだろう。
学校に折り返し戻って部活するという彼との僅かな時間。



ジャッカル君と私は肩が触れそうな距離でバスの心地よい揺れに身を任せていた。




















キミとボクの距離 〜ジャッカル編〜 完 

2010/10/24




















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