キミとボクの距離 1
「俺さ、あのコと」
付き合うことになったんだ。
ブン太が満面の笑みで報告してくれた。
うん、そっか。そうだよね。いつか、そんな日が来ると思ってたんだ。
「おめでと。よかったね」
「おう」
照れくさそうに鼻をかいたブン太に、私は精一杯の笑顔を向けた。
友達と入ったコンビニで、レジ前の棚から新発売のガムを手に取る。
そこで自分の行動に気付き、溜息と共にガムを棚に戻す。
駅までの道でも、つい目で追ってしまうスイーツの店。
期間限定のパフェやケーキの案内を見るたび、立ち止まってしまいそうになる足を無理に動かした。
『ブン太、ほら。新発売のガムだよ』
『おっ、さんきゅうな。うんうん、うめぇ』
『あとね駅前のケーキ屋さんで期間限定のシュークリームが出てた』
『そりゃ行かねぇと。、今日の放課後つきあえよ』
『ジャッカルも誘おっか』
『行かねぇんじゃね?奢らされると思って警戒してるだろぃ』
『思いっきり期待してたのに』
『ぜってぇ来ないと思うぞ。俺も奢らないからな』
『ケチ』
『どっちが!?』
楽しかったな。
友達って呼ばれるのが嬉しいだけじゃなくなっても、傍にいられるのが幸せだった。
テニスコートへと続く道に長い髪の女のコが待っていた。
あれが丸井クンのカノジョなんだよと誰かが噂する。
慌てたブン太が駆けていき、それは嬉しそうに話すのを校舎の三階から見下ろす。
「」
呼ばれて振り返れば、カバンを肩に担いだジャッカルがいた。
ジャッカルは物言いだけに瞳を細め、私の隣に並ぶと窓の外に視線を移す。
雨が降らなければいいけどなと、とってつけたように言うと軽く私の肩を叩いた。
つんと鼻の奥が痛くなったけど、私は泣かない。
ブン太が大事だから失いたくない。
そのためにちゃんとする、友達としていられるように。
だから・・今は笑っていられるよう頑張るんだ。
カノジョができた。
今までだってモテまくってきた俺だけど、とにかくテニスが最優先の毎日。
恋人はジャッカルだろうとからかわれるほど、俺の生活はテニスを中心にまわっていたんだ。
そんな俺にも運命のコが現れた。
可愛い、一っコ下の女のコ。
一目惚れってマジあるんだぁって感動した。
しばらくはグズグズと片想いしてたけど、
俺がガン見しているせいか彼女の視線とよく合うようになって、なんとなく笑顔を向けたら返してくれたりして。
で、とうとう俺から思い切って告った。
そしたらアッサリ頷いてくれて、悩んだ時間が馬鹿みたいだった。
いやぁ。やっぱ、行動力だ。
一緒に喜んでくれると思ったジャッカルが微妙に渋い顔をしていたのが気になったけど
真面目なアイツのことだから俺がテニスに集中しなくなるんじゃねぇかとか心配してたのかもしれない。
カノジョができてもテニスは別だし、かえって情けないとこ見せないようにと頑張るつもりだ。
そう心配するなってジャッカルには言っておいた。
「、ナンか持ってねぇ?」
「はい?」
ぼけぇっと窓の外を眺めてる横顔に声をかけると、目を丸くしたが振り返る。
何を驚いてるんだか。
いつもなら俺が催促しなくても小腹が空いた頃に何がしか食い物をくれてた奴だが、
最近は俺から声をかけないと近づいても来ない。
「腹減った」
「わざわざ隣のクラスまでやってきて、それ?
なんかあったかなぁ。あ〜、のど飴しかないけど」
「お前さぁ、最近品揃えが悪いぞ」
「私はお菓子屋さんじゃありません。はい、のど飴」
ごそごそとカバンをあさったが出してきたのは、のど飴ひとつだ。
俺は不満いっぱいだったけど渋々と飴を口に放り込み、空いているの前の席に腰を下ろした。
「それはそうとよ。ベイホテルのケーキバイキングが新しくなったの知ってるか?」
「知ってる・・っていうか、先週行った」
「ガチか?なんで!!」
さらりと言われた言葉に俺は腰を浮かせた。
コイツ、俺より先に行っただと?
「なんでって言われても」
「なんで俺を誘ってくれないんだよ!?」
俺が詰め寄ると、は心底困ったような顔をして溜息をつく。
の短い髪が日に透けて秋の枯葉色に見えた。
「フツーさカノジョ持ちを誘えないでしょ?カノジョと行けばいいじゃない」
「それが駄目だからお前を誘ってんだろ」
今度はのほうが「なんで?」って目で俺を見る。
俺のカノジョはモデルみたいに細くて可愛いコだ。
それはそれで嬉しいのだけど、ちょっと困ったこともある。
デートにいってもカノジョはあまり食べない。
直ぐにお腹がイッパイになったと箸を置くし、甘いものも多くは口にしない。
体重とか気にしているらしいんだけど、もちっと太ったほうがいいんじゃねぇって俺は思うんだけどな。
理由を話すとが目を吊り上げた。
「どうせ私は体重も気にしない大食い女ですよ」
「そ、そこまで言ってないだろ?ほら、お前は俺と一緒でバリバリ動いてるし」
は女テニのエースだ。
立海は女子も男子並みの練習量をこなすから、食っても食っても太らない。
女子の中では身長があり無駄のない筋肉の付いたの体型はスレンダーだ。
「とにかく私は行かないからね。ジャッカルなら行ってくれるんじゃない?」
ツンとソッポをむいて冷たく言われてしまった。
男ふたりでケーキバイキングはイタイだろうよ、オイ。
なんだよ。友達がいのない奴だ。
ふたたび窓の外に視線を向ける不機嫌な横顔に文句をたれる。
風に吹かれて伏せるの睫毛が僅かに震えた。
その時の俺は気付いてなかったんだ。
どんどん開いていく俺とアイツの距離なんて。
キミとボクの距離 1
2009/09/23
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