キミとボクの距離 2











小さくて可愛いコ。
ふたりはとてもお似合いだ。


長く目で追ってきたから、見たくないと思っていても視界に捉えてしまう。
カノジョと話すブン太の横顔に『シマッタ』と思っても遅い。
視線を逸らし、自らの身を人の中に紛れ込ませる。


痛みは人に知られることもなく静かに私の中へと積っていき
捨てたいと切に願っている恋心は溶けない氷のように固まって消えない。



誰か助けて。
確かに、そう願った。



「おっ、か」
「あれ・・ひとり?」


「まあ、な」



偶然にコンビニの前で会ったのはジャッカル。
ホカホカと湯気の立つ肉まんを手に店から出てきたところと鉢合わせした。
いつもなら隣で何かを食べているはずのブン太がいない。
尋ねておいて、直ぐにその理由に思い至って気まずくなった。



「あ、肉まん。いいなぁ、美味しそう」
「半分やろうか?」



場をもたすために言ったのに、ジャッカルは返事も待たずに肉まんを半分に割り始める。


彼は驚くぐらいに優しい人なのだ。
ブン太はジャッカルに甘えきって、なんでも当たり前のように受け入れる。
だけれど彼の他人に対する見返りを求めない優しさは誰もが持っていないものだ。



「い、いいって。私も買ってくる」
「まだ口をつけてないから大丈夫だ」



見当違いな心配をして、ほらほらと二つに割った肉まんを差し出してくる。
ほんわかと揺れる湯気の向こうに穏やかな笑みを浮かべたジャッカルがいた。



この人に想われる人は幸せだなぁとしみじみ思う。



「ありがと。ジャッカルのこと、うまく売り込んどくから」
「えっ」



多分そうじゃないかなと前々から思っていたクラスメイトの名前を出すと、ジャッカルの頬が赤くなった。


みんな誰かを想っている。
うまくいかないことも多いのだろうけど、誰かを想う気持ちは一緒なんだ。



はえらいな」
「うん?」



分けた肉まんを食べながらの会話。
のんびりと駅までの道を話しながら歩く。



「ちゃんと笑ってるからさ」
「そうでもないよ」



ジャッカルに私がブン太に向ける気持ちを打ち明けたことはない。
だけど多分知っている。
だからこそ、その優しさを惜しげもなく私にも与えてくれる。



「そっか。そうだよな」



呟いて、ジャッカルは幼子にするみたいに私の頭を軽く撫でた。
大きくて温かい手。人の痛みも癒す手だ。



ジャッカルを好きになればよかった。



喉まで出かかった言葉だったけど飲み込んだ。










女のコと付き合うのって、こんなにも面倒なんだっけ。
溜息をついたら『憂いのモテ男か』と、仁王が話しかけてきた。



「相手が年下だからかな?カッコよく見せなきゃと気ぃはってる感じで疲れる」
「付き合い始めはお互いにそんなもんじゃないか?」


「そうかなぁ。毎日がバラ色で楽しいもんだと思ってたけどな」



部室のスチール椅子にまたがり、背もたれに顎をのせて愚痴る。
仁王はジャージに着替えながらも真面目に俺の話を聞いてくれているようだ。



「傍から見る分には十分楽しそうに見えるがの」
「そうでもないぜ。ジャッカルとも帰れなくなったし」


「はは。カノジョと帰るよりジャッカルと帰りたいんか?」


「そうじゃないけど。毎日だと・・ちょっとな。待たれてると思うと焦るしさ
 その日の練習のコト話したいし、部活のある日はジャッカルと一緒に帰りたいかなぁとかさ」


「わたしとジャッカル先輩、どっちが大事なのとか聞かれたり?」



うわっ。仁王、俺らが話してるのを見てたのか。
ぎょっとした俺の表情を見て、仁王が腹を抱えて笑いだした。



「テニスがそんなに大事なのかと詰め寄られる日も遠くないな」
「笑いごっちゃねぇぞ。んなの比べられねぇってっていうか、やっぱテニスは大事だし」


「終わったな」
「はぁ。どうして分かってくんないかな。と仲良くするのも嫌がるしさぁ
 それに気付いてんのか、も俺を避けてるっていうか前みたいに話せなくなってつまんねぇし」



ジャージに着替えた仁王が唇に笑みを浮かべたまま、俺の前にドカッと座った。



「なら聞くが。お前さんのカノジョが他の男と親しくしてたら、どう思う?」
「男って・・・友達か?」


「そう。お前にとってのみたいな存在じゃ」
「友達だろ?別に何とも思わないけどな」



俺の答えに、仁王が肩をすくめた。



「お前さんに恋愛は早かったな」
「はぁ?なんだよ、それ」


「相手をがんじがらめに縛りたくなるのが恋じゃろ?」



はい?なんかそんなの余裕なくてカッコ悪くね?
仁王に意味を聞きたくて。なのに口を開くより先に開いたのは部室のドアだった。



「コラッ!さっさと出てこい」



真田の怒鳴り声に、会話はそこで終わった。





家までカノジョを送るのが最近の俺だったけど、今日は駅で別れた。
フォーメーションの詰めが途中になってしまったジャッカルと今日のうちに話をしたかったのが理由だけど
どこかで自由になりたいという気持ちがあった。
段々と暗くなる道を俺は学校に向かって戻る。


どこを歩いているんだとメールを打ちながら上げた視線の先。
探していたジャッカルと肩を並べて歩くの姿を通りの向こうに見た。



肉まんを食べながら歩いてくる、ふたり。
見つめ合い、微笑み、そしてジャッカルの手がの頭を撫でた。
とても優しい手つきで、まるで恋人がする仕草のように。


がジャッカルを見上げる。
泣きだしそうに儚げで、それでいて柔らかな笑みを浮かべて。





耳の奥で確かに俺の鼓動が大きく鳴った。




















キミとボクの距離 2

2009/09/23 





















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