キミとボクの距離 完
ブン太と私の距離が少し変わった。
友達の距離は近いようで遠い、私には越えられない距離だった。
今は・・・
遠いようで近いのかもしれない。
「ジャッカル〜、腹減った」
「ああ?しょうがないな。これ、俺の昼飯だけど先に食っとくか?」
相変わらず心優しいジャッカルが、カバンからパンを出してくる。
遠慮のないブン太は嬉々としてそれを受け取ると、包みを開いてパンに噛みついた。
飼育員さながらのジャッカルに苦笑いしていると、パンをくわえたままのブン太と目が合う。
ニカッと音が聞こえそうなほどブン太が笑った。
私も微笑み返す。
それだけ。
ブン太は私に声をかけることもなく、自分の教室へと戻っていった。
その後に「昼飯を食われたよ」ってジャッカルが近付いてきた。
購買に行かなきゃねなんて話してたら、フッとジャッカルが目を細めた。
「なんだかよくは分からないが・・・大丈夫なんだよな?」
「うん。たぶん」
今のブン太と私は友達のままだ。
だけど前みたいに一緒にいられる友達じゃない。
少しだけよそよそしく、だからといって離れていくわけでもない。
「平気だよ」
私の言葉にジャッカルが「そっか。ならいいんだ」と頷く。
多くは訊かない。
ジャッカルが女友達と違うのは、言葉が少なくても許して待ってくれるところ。
その温かな心根に、私はどれだけ救われてきただろう。
「ありがとう、ジャッカル」
心をこめて告げれば、彼はやっぱり穏やかに微笑んだ。
『待っていて』とブン太は言う。
誰にも触れさせないで、誰にも心を渡さないで。
俺だけを・・ただ待っていてと。
だから待とう。
ブン太を信じて。
ヒトの気持ちって難しい。
変わりたいと思って変われるものでもないし、変わりたくないと思っても変わっていくことを止められない。
そんなことも分からなかったのかって自分が情けない。
「嫌、別れない。だってブン太先輩から付き合ってって言ったのに」
そうだよな。その通りだ。
カノジョに泣かれ、俺は今更ながらに自分の身勝手さを知った。
数学のテストみたいに『間違いました』では済まないんだ。
カノジョにも俺に対する気持ちがあって、泣くほどに悲しんでいる。
「ゴメンな。でも・・嘘ついては付き合えない。どんなに謝っても許せるものじゃないと思うけど」
何度も謝る。何度も話す。
だけどカノジョは納得しない。
好きだったよ。ドキドキしたし、とても可愛く思えた。
ちゃんと恋してたんだ。
でも・・・もっと大切な人がいることに気付いていなかった。
俺は途方に暮れる。
ここで心に嘘ついたって、後でもっと悲しませてしまうに違いない。
だったら苦しくても、辛くても、悲しませても、俺の精一杯で伝えていくしかないんだ。
俺はカノジョと別れられるまでと距離を置くことにした。
ジャッカルは心配そうに俺を見ているが何も言わない。
俺が自分でやるって決めたら、なにがなんでもやるって知っているからだろう。
逆に仁王は容赦がない。
「女との上手な別れ方を伝授しちゃろうか?」
「ほっとけよ」
「ひとつ忠告してやるが、の名前は出すな」
「な、なんでの名前が」
「女はダメな男を許し、男の心を奪った女を憎むもんじゃ」
お節介な仁王が、さらりと凄いことを言う。
唖然とする俺に対して、言った仁王は笑顔だ。
「お前がを好きになるのは勝手じゃが、はそれだけじゃすまん
大事にしたいと思うのなら、そこらへんは気をつけてやらんとな」
長い付き合いになるが、初めて仁王という男を尊敬した俺だった。
俺はの気持ちを知らない。
あの日の自分を思い返すと、そりゃあもう頭を抱えて蹲りたくなるんだけど
翌朝に顔を合わせたが笑ってくれたから『言って、ヨカッタ』と思えた。
つかめないとの距離。
でもきっと遠くはない。そう信じてる。
だから待っていて。
必ずお前の手を取りに行くからさ。
俺は馬鹿だけど、今度はぜってぇ間違えない。
誰のモノにもならないで、俺だけを待っていて欲しいんだ。
俺たちの距離、きっと縮めてみせるから。
キミとボクの距離 完
2010/04/25
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