君を探してた 最終話












昨夜はよく眠れなかった。
病気のこと、テニスのこと、部活のこと、そして・・・真田と君のこと。


小さな器に水が一杯注がれているかのような俺。
溺れてしまいそうな思考の中、俺を生かすのは温かな君の手の感触だった。



翌朝、俺は朝練の集合時間より随分と早くに部室に向かった。
鍵が開いてるのか確かめる気はしない。
確信をもって冷たいドアノブを回せば、予想通りの人物がジャージ姿で座っていた。



「おはよう。どうだ、調子は?」


「まぁまぁだよ。」
「嘘をつけ。」


「真田、俺・・・」
「とにかく座らないか。」



真田は少し笑って、テーブルの上に開いていた部誌を閉じた。


顔を見たら最初に「すまない」と謝るつもりだった。
大事な人を横から奪ってしまった人間として、謝るぐらいしか思いつかなかったんだ。
真田からのどんな言葉も受け止めるつもりで来た。


だが真田は俺の言葉を遮り、テーブルの上で手を組むと微笑みさえ浮かべた。
背負っていたラケットバッグをおろし、俺は真田の斜め前に座った。



「はじめに言っておく。俺に謝罪は必要ない。そんなことをされても困る。
 それ以外の事なら、お前からの報告として俺は聞く。いいな?」



先手を打たれた。
謝罪など受け取らないという真田はスッキリした表情で俺を見ている。
それが真田のプライドなのか、俺は図りかねて困惑した。


だが長い付き合いだ。
真田が『必要ない』と言うのなら、俺にどんなわだかまりがあっても口にはできないと思う。


君は真田が俺の口から聞きたがっていると言った。
なら、ただ正直に真実を告げるしかないと腹をくくる。



「昨日、さんに好きだと告げた。彼女も同じ気持ちだと言ってくれた。」



目を逸らさずに一気に言った。
真田は黙って頷く。



「お前に紹介された時から俺は彼女が好きだった、ずっとだ。
 何度も諦めようとした。だけど駄目だったんだ。
 こんな時に病気なのを利用したみたいに告白して、正直気持ちのいいものじゃない。
 お前のこともあるし、素直に喜べないのが本心だ。
 だけど彼女の手も離せない。俺は・・・どうしても彼女が欲しかった!」



真田が息を吐いた。
その吐息が痛くて、俺の胸に波が立つ。
だが真田は穏やかな声で俺に応えてくれた。



「幸村、俺には・・・女を好きになるという気持ちが良く分らん。
 を大事にしてやりたいとは思っていた。
 傍にいるのが当たり前だったし、このまま共に居れば一生だって過ごせたかもしれない。
 しかし、お前たちが言うような強い想いが俺にはないんだ。」



真田はトンと自分の胸を叩き、少し寂しそうに笑う。



「俺は見ての通り器用な人間ではない。
 器が小さいのかもしれんが・・・大切なものを幾つもは持てんのだ。
 俺の心から零れ落ちていくものは多い。それは仕方ない。それが俺だからだ。」


「真田・・・」


を好きかと訊かれれば、好きだと答える。
 だが、きっとお前の言う「好き」とは違う。
 俺はとテニス、どちらを取るかと訊かれれば迷わず『テニス』と答えるだろう。
 だからだ。お前たちからの謝罪など俺には必要ない。」



最後に真田が付け加えた。



を頼む。」



真田の器が小さい筈がない。
こんなにも思慮深く、潔い男を俺は知らないから。


俺が「わかった」と意思を込めて頷けば、真田は椅子から立ち上がった。



「皆が来るまで軽く打とう。それぐらいは大丈夫だろう?」


「ガンガン打っても大丈夫だよ。」
「たわけが。」



俺たちは顔を見合せて笑った。










君をください。
強く願った君は俺だけの君になった。


君は俺の傍で笑い、困った顔をしながらも我儘な俺の相手をしてくれる。
繋いだ手を軽く握れば、すぐに同じ力で握り返してもらえる喜び。


真田が俺のために心から零してくれた大切な人。



大事にするよ。





今日も真田はコートに立っている。
誰もいないコートに一人で立つ真田の背中は孤高の皇帝だ。


俺の気配に気付いた真田は少しだけ横に動く。
いつも自分の隣を俺のために空けておいてくれるんだ。
君が俺のために空けてくれるのと同じように。


恵まれているよね、俺。



「真田、今度の試合だけど俺も出るよ。」
「うむ。」


「負けるつもりはないが、最後の砦は真田に頼む。」



真田は睨むように遠く羽ばたく鳥を目で追っている。
俺も青空を見上げ、降り注ぐ日差しに目を細めた。



「言っとくけど諦めたわけじゃない。今は、それがベストだと思っただけだ。」
「そうか。」


「俺のテニスを必ず取り戻してみせる。それまで・・・待っててくれ。」



真田が視線を俺に戻し、力強く頷いてくれた。










ねぇ、俺は欲深く生きるんだ。
大切なものを何一つ手放さず、守り抜くよ。



そう決めたら、心が強くなった気がした。




















君をください 

2007/09/12



















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