「乾クン、」
呼ばれて振り返った先に君がいた。
あの頃と、ちっとも変わらず。
いや、違う。あの頃より、もっと綺麗になって。
なのに、やっぱり同じ声色で
俺の名前を呼ぶ君がいた。
そして俺は・・・また性懲りもなく恋をするんだ。
君を探してた 1
「乾、紹介しよう。俺の親戚だ。といっても、かなり遠縁にあたるのだが。
コイツは乾。俺と同じテニス部だ。と同じクラスだから、色々と聞けばいい。」
「です。よろしくね、乾クン。」
彼女がニコッと微笑んだ。
春の日差しが彼女を包んで、何もかもが輝いて見えたんだ。
俗に言う一目ぼれというヤツだ。
俺の脳細胞が彼女の何を見て反応し、どういう電気反応が起こり、エンドルフィンが・・・と、
色々と科学的根拠を並べて気持を落ち着けようとしたけれど、
恋っていうのは何もかもを打ち砕く強さで心を侵食する。
その、すさまじい破壊力ときたら驚きだった。
とにかく寝ても覚めても彼女のことばかり考えてしまう。
テニスのデータ分析なんかに集中してられない。
視線は彼女を追い、耳は彼女の声を拾うのに躍起になる。
俺のあらがう意志など無視して、どんどん想いを高めていってしまう。
父親の海外勤務から帰国後に青学へ転入してきた彼女は、とにかく清楚で美しかった。
育ちのよさもあるのだろうが、下手に日本で育たなかったのが良かったのかもしれない。
おっとりとした、穏やかで優しいコだった。
「乾クン、えっとね・・古典の訳を教えてもらってもいい?」
「ああ。海外じゃ古典はないだろうから苦労するね。どこ?」
「これで、あってるかな?」
「どれ?」
さりげなく彼女の肩に近づけば、甘い花のような香りが届いてくる。
くらくらしながら彼女のノートに目を落とせば、
可愛らしい丸みのある文字と一緒に几帳面な別の文字が並んでいた。
それが誰の筆跡かなんて聞かなくても分かる。
「手塚にも教わってるんだ。」
「え?どうして?」
「これ、手塚の文字だろ?」
「スゴイ、乾クン!さすがデータマンね。」
「それも手塚からの受け売りかな?」
「そう、」
彼女が屈託なく笑う。
手塚が勉強を見ている。
親戚なのだから、そんなこともあるだろう。
そう思いながらも、俺はなんとなくスッキリしない。
心の奥に芽生えた疑いは徐々に確信へと変わっていく。
「」
「国クン」
手塚が唯一呼び捨てする女のコ。
手塚を唯一あだ名で呼ぶ女のコ。
「今から帰るのか?遅いじゃないか。」
「委員会で遅くなったの。」
「暗くなる。寄り道しないで帰るんだぞ。」
「うん、分かってる。夜、電話するね。」
「ああ」
手塚がポンポンと彼女の頭を軽く叩けば、彼女はやっぱり花のように笑って肩をすくめる。
そして手塚を見上げ、また嬉しそうに笑うんだ。
鉄仮面と言われる手塚が僅かに瞳を細めるのも、彼女に対してだけ見せる笑顔。
ああ、考えたくないのに俺は数字をはじき出しているんだ。
手塚と彼女が両想いの確率・・・80%強かな、と。
でも好きだよ。
手塚を目で追って頬を上気させる君の横顔に見惚れていたんだ。
君がくれた誕生日プレゼントの栞は俺の宝物だ。
遠足でふざけて写した君の写真は俺の机の中に大事に仕舞われてる。
俺が君の親戚だったなら、俺のことも別の甘えた呼び方をしてくれたのかい?
手塚に出会うより前に、なんで俺が君と出会えなかったんだろう。
好きなんだ。好きなんだ。好きなんだ。
君が・・・好きなんだよ。
知りたくない決定的な真実は思わぬところからだった。
『手塚、風邪か?珍しいな。』
『いや、たいしたことはない。少し咳が出るぐらいだ。』
『ふーん。どうだ?俺のドリンクを、』
『結構だ。』
部活の合間に交わした何でもない会話。
しかし数日後、俺にとっては衝撃的な会話となる。
「、風邪かい?声が変だね。」
「大丈夫。少し咳が出るくらいだから。」
え?それ、どっかで聞いたような。
思いながらも、昇降口まで彼女と並んで歩くトキメキが追求する気力を奪っていた。
昇降口で彼女と一緒には会いたくなかった手塚に会ってしまう。
手塚の隣には不二もいたから、まぁマシかと内心で溜息をついた。
「国クン」
「ん?、声が、」
「は風邪で喉をやられたらしい」
手塚は彼女に訊ねたのに、俺が割り込んで答えた。
ささやかな対抗意識だ。
「風邪?ああ、すまない。俺のをうつしてしまったか?」
天然の手塚。
その言葉の意味を分かって言っているのか?
俺が思うのと同時に、頭の回転が速い不二が笑い出した。
「手塚、それって思いっきりノロケだね。
彼女とは風邪をうつすほど親密に付き合ってますって、宣言してるようなもんだよ?」
唖然と顔を見合わせる二人。
その後は前代未聞の赤面する手塚と可愛らしくはにかんだを目にすることになる。
両想い率100%・・・俺は失恋した。
さっきまで好きだった女のコが友達の恋人だと確定したからといって、直ぐに嫌いになれるはずもない。
嫌いになるどころか、嫉妬して、羨ましくて、手に入らないと思えば益々欲しくなるのが人なんだ。
鈍い二人は俺の気持ちなどコレっぽっちも気づかない。
手塚は部活の仲間として俺を大事に扱ってくれたし、も俺を友人として慕ってくれた。
人が好くて鈍感な二人は腹が立つぐらい俺に優しかった。
俺は内心手塚に勝ちたくて。何でもいいから手塚に勝ちたくて。
死に物狂いでテニスに打ち込んだけど、結局一度も勝つことができなかった。
手が届かない君。
手塚に寄り添い、手塚に微笑みかける。
迷いもなく彼女に触れる手。
俺が触れたくても触れられない髪を慈しむように撫でる手塚の手。
胸がかきむしられるほどの嫉妬。
君を慕う強い気持ち。
二人から惜しみなく注がれる友情が俺を苦しめた。
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