ねぇ、君はどこにいる。
俺はずっと君を探していた。
『です。よろしくね、乾クン。』
手塚に紹介された、あの日あの時から。
俺はずっと君を探していたんだ。
君を探していた 最終回
俺はタクシーを拾うと彼女の家に向かった。
高校時代、遠慮する彼女を説き伏せて何度も送った帰り道。
暗い夜道を心配したのは本当。
だけど一番は、一秒でも長く君のそばにいたかったんだ。
多少の移り変わりはあるのだろうけど夜目には変わらない町の風景。
彼女の家へと続く道すがらにある古びた教会に明かりが灯ってる。
ああクリスマスが近いからだと優しい光りを目で追った。
彼女の家の前で、たっぷり五分は立っていた。
不審者として通報されかねないが、とにかく恐ろしく緊張していて手が震えていたんだ。
タクシーの中、あんなにシュミレーションして繰り返したセリフなのにあやしくなってくる。
『突然だけど、俺もずっと君が好きだったんだ』いや、唐突過ぎるか。
『手塚に聞いたんだけど。俺も君の事を・・・』やっぱり手塚の名前は出したくない。
『好きだ。付き合ってください。』まるで中学生だ。
何をどういえば君に俺の気持ちが伝わるだろう。
君には別れたカノジョも見られてしまったし、もう俺のこと軽蔑してる?
うまい言い訳も浮かばないんだ。
ただ好きだという気持ち、それだけ。
君は本当に俺を想ってくれている?
・・・確かめたい。
深呼吸してインターフォンを押した。
言葉など顔を見たら勝手に出てくる。そう思って。
なんてことだ。
彼女が家にいなかった。
家の前で待つことも考える。
だが、それじゃあ本当の不審者になってしまうと思いなおし、今夜は帰って一度頭を冷やそうと思った。
記憶を辿りながら駅に向かう俺。
行き当たりばったりで計算も予想もせずに行動している自分が愚かしくもあり新鮮だ。
君だけだよ、俺をこんなに必死にさせるのは。
考え事をしながら黙々と歩き、彼女がいつも使う駅が見えてきた。
君が見上げていたクリスマスツリーが今夜も七色の光りを放っている。
自然と足が止まり、懐かしく切ない思い出を噛み締めながら遠目にツリーを眺めた。
あ・・・、
イブは明日だというのに、たくさんの人、人、人。
その中にあって何故、俺は見つけてしまうんだろう。
人の波に見えたり見えなくなったりする横顔は見間違えるはずもない、君なんだ。
「!」
叫んだって聞こえるはずがない。
隣を歩いてた女子高生の方が驚いた顔で俺を振り返る。
彼女はツリーの一番上に飾られている金色の星を見上げながら祈るように手を合わせていた。
この前着ていたのと同じ白のコートを着て、今日もマフラーをせずにいる。
俺は馬鹿みたいに焦ってて、とにかく早く捕まえないと君が消えてしまいそうな気さえしてくる。
遠慮もなく次々と誰かの肩にぶつかりながら「スミマセン、通してください」と繰り返した。
「!」 こんなにも切実に君の名を呼んだことがあったっけ?
「!」 いつもいつも我慢して。心の中で君の名を呼んでいた。
「!」 友達の恋人だから。君の名前は・・・特別だった。
「・・・・、っ!」
人をかき分けて進みながら、彼女の名前を初めて呼んだ。
星を見上げていた彼女が一瞬キョトンとした。
そしてゆっくりと呼ばれたであろう方向を不思議そうな顔で見遣る。
そこには俺がいる。
君の唇が『乾クン』と呟くのを見た。
もう、頭の中に考えていた言葉など全て消えてしまっていた。
「!」
茫然と立ち尽くす君の前に人の中から抜け出せば、精一杯伸ばした手で君の肩を掴んで抱きしめた。
セリフなんて考えても意味がなかった。
俺の口から出てくるのは君の名前だけ。
繰り返す、特別な君の名前だけなんだ。
「乾・・クン、どうして?」
震える君の声が俺の肩あたりから聞こえてくる。
抱きしめてる体も震えてるね、泣いているの?
「会いたくて・・・君を探してた。」
「探して?」
「そう、ずっと。
君を紹介されたあの日から、俺はずっと君を探してた。
今、やっと捕まえたよ。」
そっと腕を緩めて彼女の瞳を覗き込めば、涙を湛えた瞳にツリーの明かりが映って煌いていた。
星みたいで綺麗だ。その美しさを俺は一生忘れないだろう。
「君が好きだ」
彼女の白い指が震える唇を押さえる。
俺は自分の鼓動を聞きながら彼女の美しい瞳を見いっていた。
「あ、だって・・乾クン、恋人が」
「君に軽蔑されるのは怖い。でも・・・正直に言うよ。
俺はね、君と会わなくなってから心を失くしてしまったんだ。
好きも嫌いもなく誰とでも付き合った。カノジョも、その中の一人だった。
君と本屋で出会った日。
あの日に失くしてた気持ちを取り戻した気がしたよ。
だからね、カノジョとは別れた。・・・許せない?」
戸惑ってるね。当然だ。
俺が君の立場でも『ハイ、ソウデスカ』と納得できるものじゃないだろう。
「今すぐ俺を受け入れてくれとは言わない。
これからは逃げないで君に向かうから。
君だけを見つめて、君だけを追う。
もう、誰にも遠慮はしない。全力で君に俺の気持ちを伝えるよ。
だからね。そんな俺を見て君が受け入れてもいいと思ったなら、
君の気持ちを俺に伝えて欲しい。・・・いいかな?」
コクリと頷く彼女の瞳から星屑みたいな涙がポロポロと零れ落ちていく。
拭ってあげたくて指を伸ばせば、自分の手も無意識に震えているのが分かった。
親指で初めて君に触れる。
俺のぎこちない仕草を彼女は目を伏せて受け入れてくれた。
「とりあえず・・・明日のイブを一緒に過ごしてもらえないだろうか?」
緊張してロクな誘い文句も言えない俺だけど、よかったら。
それにもコクリと頷く君の頬が染まるのに感動しながら、俺は自分のマフラーを外した。
ああ、彼女に似合うマフラーを探さなくては。
いや。いつも俺が巻いてやればいいのか?
勝手に緩んでくる口元はどうしようもなく、俺は彼女の首に自分のマフラーを巻いてやった。
「お願い・・してたの」
不意に彼女が小さく言った。
俺のマフラーに顔半分が埋もれてる君の声は微かだけど俺に届いた。
もう一度・・・乾クンに会えますようにって。
私も、ずっと乾クンを探してた。
俺たちをツリーを見る人々が押してくる。
自然と近づく距離に俺は君から目が離せない。
もう一度、君を抱きしめてもいいだろうか。
「君を探してた」
2006.07.27
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