君を探してた 7










俺は何がなんだか分からなくて。


君の涙のわけも。
君の言葉の意味も。
何もかもがオブラートに包まってるみたいで、本当のコトが掴めない。


培った分析力なんか、彼女の前には何の役にも立ちはしない。



     『国クンとは・・・もう三年前に終わったの』



その言葉を苦しそうに呟いた君の泣き顔だけが、やけに鮮明に浮かんでは消える。


もう一度、会わなくては。
じゃないと俺は絶対に後悔する。


会ってどうする?もう一人の俺が訊いてくる。
手塚と終わっているのなら俺と、なんて言えるか?
今の彼女に新しい恋人が居ないとも限らないじゃないか。
知らないヤツなら奪ってもいい?
俺のエゴで彼女をどうにでもしていいわけがない。


だって、俺は自信がないんだ。
どうすれば彼女が俺だけの彼女になってくれる?
その方法が思い浮かばない。
当たって砕けろぐらいの気持ちで想いをぶつけたとしてフラレてしまったら。
街で偶然に会えたとしても、気まずくて話しさえ出来ない関係になってしまうだろう。


大学生になってからの恋は全くスキルアップになってない。
おざなりな恋とも呼べない付き合いを繰り返してきた俺は馬鹿だった。
そんなことを今さら思い知ったって何の解決にもならないけれど。


俺は出口の見えない想いの中で足掻いていた。


唯一つ。
俺にある真実は・・・今も彼女が好きだということだけだ。










『乾!明日、空いてる?クリスマスイブの前日だし、なんとか都合つけてよ。』



珍しい名前をディスプレイに確認して携帯を耳にあてた途端、聞こえてくる男にしては少し高いキーの声。



「不二。俺が今どこで何をしているかの確認もナシで都合を聞くのか?」
『年末だし、こっちへ帰って来てるかな・・・と思って。帰ってなかったら帰ってきてもらおうかな、とかね。』


「先週から帰ってきてるよ。で、何?」
『手塚が帰ってきてるんだ。それで久しぶりに集まろうって大石が、』


「手塚が?」



俺の頭は一瞬、真っ白になっていた。
不二が何処で誰が集まってと話し続けている、
俺は目の前の白い壁を見つめながら手塚と彼女の姿を思い浮かべていた。



『で、乾は来る?』
「あ、ああ」


『じゃあ、明日ね。』
「ああ」


『乾、大丈夫?』
「うん?」


『なんだか、うわの空だね。何か気になることでもある?』
「あ、いや。何でもない。じゃあ、明日。」


『うん、楽しみにしてるよ。』



相変わらず勘の鋭い不二だけれど、いまだに燻る俺の想いまでは気づかないだろう。


明日、手塚に会える。
その事に胃が痛むような緊張感を感じた。





翌日の日中を俺は落ち着きなく過ごした。
何をしても何も手につかない。そんな感じだ。
ノートパソコンの前で無駄に時間をつぶし、ほぼ出来上がっている論文をいじって過ごした。



手塚に会ったら何て聞こう。
何を話せばいいんだ?別れた理由を聞いて何になる?


心は定まらないままに、集まる時刻より少し遅れて店に入った。





「乾、ここだよ!」



呼ばれて顔を向ければ幹事らしい大石が笑顔で手を振っていた。
ああ、と片手を上げて奥の席に近づこうとしたら、柱の影から誰かが立ち上がってくるのが見えた。


手塚?そう認識した途端にドクンと鼓動がなる。


手塚は靴を履くと、他のメンバーが声をかけるのに一言二言を返して俺を見た。
強い視線で真っ直ぐ俺を見るから、ひるんだ俺の足は止まってしまう。


視線を外さないまま大股で俺の前まで来た手塚は「乾、話がある」そう言って俺の脇を通り過ぎた。
唖然とした俺が振り向けば、手塚は既に店の扉を押していた。
皆が集まっている座敷では『どうしたんだ?』と窺う大石たちと、静かに俺を見ている不二が居た。



手塚のしたい話、考えられるのは。
俺はグッと拳を握り締めると手塚を追って外に出る。



もう逃げられない。
立ち向かうしかないんだと覚悟を決めた。



手塚はコートも着ないで、シャツ一枚で俺の前に立っていた。



「手塚、久しぶりだね。話は・・・」
のことだ。」


やっぱり、そうか。
どこで気づいたんだ、手塚。だが、何故それを今さら?


「乾、お前・・何をしている?」
「何って、」


は何故、今も独りなんだ?何故、お前が傍に居ない?」



驚いた。
俺は言葉が出なくて、引き締まって精悍になった手塚の顔を見つめる。



「俺たちは卒業した年の冬には別れた。が・・・お前を好きだと気づいたからだ。」



俺たちは黙り込んだ。
遠くでクラクションが響き、通りすがりの誰かが笑う声がする。



が、俺を?それで二人は別れた?
俺の気持ちは、



「俺こそ・・・が・・好きだった」



声が掠れる。
一生、手塚の前で言うことはないと思っていた言葉を搾り出した。
手塚は眉根を寄せたまま、一つ息を吐く。



「知っていた」
「嘘・・だろ?」


「知っていたというより、そうじゃないのか・・・と後で思った。俺は鈍感だからな。
 俺は自分の事に精一杯で、のことも、お前の事も、見ているようで見えてなかった。
 がお前に惹かれているのも知らず、お前が黙って俺たちの傍にいたのも知らず、
 自分の夢を追いかけるのに必死で何も知らなかった。」


「手塚、」


「離れて、やっと気づく事が出来たんだ。の心が誰に向かっているのか、誰を必要としているのか。
 はあんな性格だから、自分のせいで俺たちの友情が壊れる事を恐れていた。
 俺と乾はそんなことでどうこうなるものではないと言ったし、
 お前ならアイツを受け止めるだろうと思って安心していた。
 なのに久しぶりに帰ってきてみれば、まだは独りだ。お前にも会っていないと言う。どうなっているんだ?」



手塚の目が怒っている。
けど、俺だって情けなくて腹が立ってきた。



「そんな大事なコト、なんで今まで言ってくれなかったんだ?
 俺は・・・俺はずっと、は手塚のことを想い続けてるんだと思って我慢してきたんだ。」


「そこまで俺は親切じゃないぞ。」


「じゃあ、怒るなよ。俺だって、イッパイイッパイだったんだ。」


「乾。俺はを嫌いになったわけじゃない。大事だから手を離した。
 お前にそこまでお節介を焼いてやるほど、俺は心が広くない。」



手塚の本心に口をつぐむ。
お互いが不機嫌な顔で睨み合ってから、どちらからともなくフッと口元が緩んだ。



「お前をに近づけてしまった事を後悔している。」


「俺だって手塚国光という偉大な男を友人に持ったことを後悔していたよ。
 だけど彼女に会わせてくれたことに・・・心から感謝している。」


を・・頼む。」


「ありがとう、手塚。」



手塚が拳で俺の肩を突いた。俺も親愛をこめて手塚の肩を小突く。
微笑みあって、俺たちは別れた。



手塚は皆が待つ店の中へ。



俺は・・・君のもとへ。




















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