キスして良いのは貴方だけ 1












メールの着信音は彼だけに設定した特別なもの。
電話でもないのに調理しかけの火を消して確認すれば、件名が『すみません』だった。
中身を読まなくても分かってしまう件名に意識せず溜息が零れる。
それでも開いたメールの中身は予想通りものだった。



『明日の映画なんですが・・・
 急にクライアントとの打ち合わせが入ってしまって行けなくなりました。
 あの映画、今週末まででしたよね。今週はもう時間が取れそうにありません。
 すみませんが、お友達でも誘って行って下さいますか?』



返信のボタンを押して、暫し手が止まる。
なんて返事をしよう。


言葉を選びながら、観月君の負担にならない理解ある恋人の返事を考える。



「友達となんか行かない。だって、あの映画を見たがったのは観月クンじゃない。
 観月クンが好きだから見に行こうと思ったのに。」



携帯に恨み事を言って、返信を送った。



『分かりました。私も仕事が立て込んできてたから、ちょうど良かったです。
 だから気にしないで。忙しいみたいだけど、無理はしないで下さい。それじゃあ、また。』



緑色に点滅する光と共に観月クンの元へ飛んでいく電波に思う。
会えなくても平気な人間を『恋人』と呼んでもいいんですか、と。










苛々としながら膨大な裁判資料に目を通していたら、充電中の携帯が震え始めた。
片手でファイルが閉じないよう抑えつつ携帯に手を伸ばす。


ウィンドウに君の名前が流れていくのを確認してしまったら、つい手を放してしまい資料が閉じてしまった。



「ああ、もう」



誰に言うでもなく文句を零し、それでも急いでメールを開けば簡単な君からの返事。
予想していた通りとはいえ、気分が滅入る。


はぁ・・と盛大な溜息をつけば、先輩が不味いコーヒーを飲みながら僕の肩越しにメールを覗き込んだ。



「プライバシーの侵害ですよ。」


「いやぁ、まだフラれてないのかな〜と思って。」
「縁起でもないこと言わないでください。冗談になりませんよ。」


「そうだろ?俺なんか、この三年で五人の女に捨てられたんだ。
 弁護士ってモテるんだけど、捨てられる確率も高いよなぁ。だいたいが忙しすぎる。」


「入った事務所が悪いんですよ。」
「そうだよなぁ。ウン。」


「そんな事務所に誘ったのは誰ですか?
 僕が彼女にフラれた日には、あなたに賠償請求を起こしますよ。」



怖ぇ〜と声をあげる先輩に八つ当たりして携帯を閉じた。





ねぇ、君に聞きたい。
僕は貴方にとって会わなくても平気なくらいの人間ですか?
それを君は『恋人』と呼ぶんでしょうか。


僕は君を手にしたはずだ。
なのにまだ高校時代のような片想いを続けている気がしてしまう。



好きなのに。
どうして君の全てが僕のモノになってくれないのか。



不器用なのは自覚済みだけれど、いい歳をして何をしているんだろうと思う。
六法全書は覚えてしまえば答えをくれる。


けれど恋には答えがない。



腕時計を確認し、今日も終電になるだろうと再び溜息が落ちる。
同じ時を君は何を想って、何をして、誰と過ごしているだろう。



考えるだけ虚しくて、僕は閉じてしまったページを探すことに集中した。




















お題 キスして良いのは貴方だけ 1

2007/12/07


フェードインする恋心
コは相手にしないプライド
リードする時は、いつもさりげなく
スして良いのは貴方だけ
ルーされた告白の行方

お題 キミにうたう「すき」のうた 様より




















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