キスして良いのは貴方だけ 2












「観月クン、酔ってるでしょう?」



化粧室に続く細い通路で頭を抱えた観月クンに声をかけた。
誘われて出席した同窓会で、数年ぶりに会った観月クンは立派な弁護士になっていた。
出世頭の様な彼の周囲には人が集まり、なんだかんだとお酒を勧められていたから飲み過ぎたのかもしれない。


観月クンは前髪をかきあげ、視線を伏せたまま唐突に言った。



「あなた、ちっとも変わりませんね。」
「そう・・かな?ね、それより気分が悪いんじゃない?」


「気分がいいんだか、悪いんだか・・・そんなことより少し質問してもいいですか?」
「いいけど」



観月クンは背中を壁に押し付けたまま辛そうにネクタイを緩める。
鬱陶しそうに衿元のボタンも外すと、小さく息を吐いて頭も壁につけ天井を見上げた。



「あなた、結婚してませんよね?」
「結婚?してないけど。」


「今現在、お付き合いしている人は?」
「観月クン?」


「酔っ払いの戯言ですよ。正直に言いなさい。」



ピシッと言われて、つい正直に「いません」と答えてしまった。
なんだか本当に弁護士さんなんだなぁと呑気に思ったのは、ここまでだった。



「よかった。なら・・・いいですね。」
「なにが?」


「僕ね」








     あなたが好きなんですよ。








居酒屋は人の話し声と食器の音で騒々しい。
いくら化粧室前とはいえ、漏れ聞こえてくる音で静かとは言い難かった。


聞き間違えだと、そう思った時だ。


天井を見上げていた観月クンが私を見た。
もう二時間近くをクラスメイトに交じって話していたはずなのに、初めて観月クンと正面から視線が合った気がする。
その真っ直ぐな黒い瞳に捕えられ、私は身動きできず言葉も出なかった。


観月クンの手が自分に向かって伸びてくるのを他人事のように見ていた。
左肩を掴まれたと思った時には、右頬を大きな手に包まれる。



観月クン、絶対に酔ってる。
そう頭が結論を出した時には、自分の唇に柔らかな彼の唇が押し付けられていた。



押しつけられただけのキスなのに、ひどく長い時間だった気がする。
誰かが近付いてくる声がして、お互いが弾かれたように離れた。


観月クンは壁にもたれたまま口元を押さえて視線を外している。
その姿を見たら、どうしていいのか分からずに俯くしかできない私。



目の前を知らない男性客が連れだって化粧室に消えていけば、視線を逸らしていた観月クンが背中を浮かした。



「店を出ましょう。」
「出るって、まだ・・・」


「ここは二時間までですよ。とにかく二人で出ましょう。」



言うなり観月クンは私を置いて歩きだした。
座敷に戻れば、観月クンの言った通りに帰り支度が始まっていて幹事の会計を待っているところだった。



「僕は明日も早くから仕事なんです。二次会なんて行きませんよ。
 さんも帰るそうですから、僕が途中まで送っていきます。それじゃあ、皆も元気で。」



簡単に挨拶すると、視線で私を促し靴を履いてしまう。
引き留めてくる友達に「ゴメンね」と謝りながら、観月クンを追って靴を履いてしまう自分が不思議だった。



さっき、彼とキスをした。
信じられないけれど、唇に残った日本酒の甘い香りを忘れていない。



淡い恋心を抱いた人に会えただけでも嬉しいのに・・・こんなこと。





店を出た途端、観月クンが振り返り私の腕を掴んだ。
驚いて身を引けば、許さないとでも言うように強く掴み直されて「行きますよ」と言われる。



観月クン、酔ってるのに。



そればかりが頭の中を回る。
ここは何もなかったような顔をして彼をタクシーに乗せてしまうのが一番だ。
分かっているのに、昔の恋心が観月クンのなすがままを許してしまった。



繁華街で拾ったタクシーに乗せられて、
降りる、降りないで少しはもめたけれど、結局は降りてしまった観月クンのマンション。
部屋に入るまで一度も離されなかった観月クンの手は私を抱いた。



酔った勢いとか、流れでとか・・・そんなの他人事だと思っていた。
きっと後悔するんだろう。思いながら、観月クンを受け入れた。



酔ってる観月クンに、酔ってない私が身を委ねてしまったら・・・私の方が悪いに決まってる。



思いながらも長い時を経て成就する恋心が抵抗を許さなかった。





観月クン、私はあなたが好きだった。


あなたが広いテニスコートの中央で遠くを見つめている横顔を見るのが好きだった。
制服の背中も、少し癖のある黒髪も、考える時に人差し指に髪を巻きつける仕草も、すべて。
高校時代の私の記憶は観月クンでイッパイだったのよ。



とても・・・好きだった。



だから一夜の夢でも欲しかったの。




















キスして良いのは貴方だけ 2 

2007/12/07

フェードインする恋心
コは相手にしないプライド
リードする時は、いつもさりげなく
スして良いのは貴方だけ
ルーされた告白の行方

お題 キミにうたう「すき」のうた 様より




















戻る     テニプリ連載TOPへ     次へ