キスして良いのはあなただけ  〜最終話 SIDE〜












事務所の電気を消して鍵を閉める。
確認した時計は聖夜が残り僅かなことを教えてくれていた。


早々に帰り支度をする同僚たちを見送りながら、最後まで事務所に残ったのは僕。
夜も遅いというのに駅に近い通りには、陽気な声をあげる若者や恋人たちが溢れていた。


馬鹿な意地を張るんじゃなかった。
君を誘えば、きっと頷いてくれただろう。
そうすれば今夜は君を抱いて眠れたのにと後悔している。


鍵は君の手元に届いただろうか。
この夜を君は誰と過ごしている?


カバンに放り込んだままの携帯を探ろうとして、思い直して止めた。



君からの着信がなかったら、僕はきっと傷つく。
そのうえ電話して君が僕以外の誰かと過ごしているのを知ってしまった日には、
たとえ相手が女友達であっても理不尽な怒りをぶつけてしまいそうだ。


明日、電話するのがいい。
頭を冷やし、ちゃんと言い方も考えてから誘おう。


一時間でもいい。
やっぱり君に会いたいと伝えればいい。


想いの比重は違っているにしても、僕を受け入れてくれる君の中に愛情があると信じたい。
だから伝えるべきことは、言葉にして伝えていこう。



「うまく言えるかが問題ですがね。」



独り呟いて、僕はいつもの駅に向かった。










エントランスの眩しさに目を細め、靴音を響かせてマンションに入ればホッととする。


無駄に多い郵便物を取り出し、差出人を確認しながらエレベーターに乗った。
部屋に着くまでに郵便物を分けて、直ぐに確認すべき内容の手紙について思案しながら部屋の鍵を取り出す。
君に渡したものと同じ鍵に一度は意識を戻し、赤い鈴の音を思い出した。



子供っぽすぎたかもしれないな。



また後悔しながら鍵を回せば、静かな通路に金属音が響いた。
いつものようにドアを開けて手が止まる。


リビングから明かりが漏れているのに、消し忘れたかと一瞬で考えた。
つぎに視界に入った足元には、自分のものではない小さな靴が並んでいる。



まさか。



慌てて靴を脱げば、リビングの曇りガラスに人影が映りドアが開いた。



「おかえりなさい。」



ああ、君だ。



「メール、送ったんだけど。」



今夜に限って携帯を確認しなかったんです。



「迷惑かな・・・とも思って、でも。」



いいえ、と僕は頭を振る。


なにか言わないと、そう思うのに言葉が出ない。
一歩、一歩と近づけば、君の眉が泣きそうに歪められ唇が笑顔を作ったまま震えた。 



「私・・・観月クンに会いたくて」



最後まで聞けずに君の体を引き寄せた。
僕の胸にぶつかってきた君を容赦なく抱きしめれば、放り出したカバンと郵便物が足元に散らばる。
君の体を夢中で力の限りに抱きしめ、柔らかな髪に鼻先を埋めたら息ができないほど胸が一杯になった。




「貴方を・・・愛しています。」



声に出せば、胸が一つ軽くなる。
もう一度、さらにもう一度。


言葉にするたびに、僕の胸にある君への想いが解き放たれていく。


愛しています。
お互いが制服を着て、違う道を歩もうとしていた・・・その時から。
僕はずっと君を愛していた。



僕の胸から顔をあげた君が僕に応えようとする。
震える君の唇から、僕の想いと同じ言葉が零れてくるのを唇で受け止めた。





キスして良いのは貴方だけ。





聖なる夜に君を胸に抱けた幸せを僕は生涯忘れないだろう。













「赤澤たち、きっと驚きますよ。」



観月クンの表情は楽しそうで、私もつられて笑顔になってしまう。
私は観月クンに連れられて元テニス部のメンバーが集まる忘年会に向かっていた。



店の前まできて緊張する私を観月クンが手を引いて促してくれる。
中に入れば直ぐに元気な掛け声がかかり、奥では懐かしい顔ぶれの面々が手を振っていた。




「驚いたなぁ。観月の相手が、だったとは。そういうことは早くに言えよ。」
「それじゃあサプライズにならないでしょう?」



観月クンは悪戯っぽい笑顔を浮かべて、私がプレゼントしたマフラーに手をかける。
気に入りましたとキスと一緒に囁かれた夜のことを思い出すと頬が熱くなってしまう。
落ち着いた赤を基調にしたマフラーは、子猫を懐に入れていた観月クンのしていたマフラーを思い出して選んだものだ。


赤いだろう頬が恥ずかしくて俯き加減の私の前で、木更津君が溜息交じりに話しだす。



「高校の時さ、観月はさんを好きなんだろうなぁとは思ってたけど、
 ここまで執念深いとは思わなかったな。」


「なんだ・・そうだったのか?
 俺こそは観月が好きなんだろうなと、あの当時から思っていたぞ。」



木更津君と赤澤君の言葉に私たちは顔を見合せた。
観月クンが困惑した顔で私を見つめ、溜息一つ吐いてから声を大きくした。



「あなたたち、そういう大事なことは黙ってないで早く言いなさい。」



観月クンが不機嫌に言えば、二人は首をすくめて笑う。



「いいじゃないか、結局はこうなったんだから。運命の人だよな。」
「そうそう。今が幸せなんだからヨシとしなよ。」



私は赤澤君に知られていた恋心に赤くなり、それでいて観月クンの気持ちも知れて嬉しくなる。
そんな私の耳元に口を寄せてきた観月クンが、そっと囁いた。



「後でゆっくりと話を訊かせて貰いますよ?」



きっと擦れ違ってきた想い、全てを白状させられてしまうんだろう。
テーブルの下、重ねてきた観月クンの手を優しく握り返しながら思った。




















キスして良いのは貴方だけ 〜最終話 SIDE〜  

2007/12/10

フェードインする恋心
コは相手にしないプライド
リードする時は、いつもさりげなく
スして良いのは貴方だけ
ルーされた告白の行方

お題 キミにうたう「すき」のうた 様より




















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