キスして良いのは貴方だけ 6












クリスマスイブに好んで残業する人も少なくて、早々に会社を出て帰宅した。
大学生の妹も約束があるとかで、今年は家で特別なことはしないことになっている。
独りで過ごすことは分かっていたけれど、出るのは溜息ばかりだった。


二階に上がれば、直ぐに妹が部屋に入ってきた。



「おかえり。お姉ちゃん、白のコート貸してよ。
 あとさ、これ。お姉ちゃん宛てだったから、こっそり取っといてあげたよ。」



意味深に差し出された封筒に切手はなく、弁護士事務所の名前が印刷されてあった。
その隣には観月クンの名前が走り書きされている。



「変に重いうえに鈴の音がするから、少しだけ覗いちゃった。」



思わず妹から封筒をひったくれば、確かにチリンと鈴の音がする。
勝手に見ないでよと怒りながら、封もしていない中を覗きこめば銀色の鍵が見えた。
慌てて封筒ごと胸に抱きしめると妹を睨む。



「お母さん、見た?」


「私が最初に気付いたから、大丈夫。
 ね、観月さんて誰?カレシでしょ?なんでポストなんかに鍵を入れるの?」


「い、いいから。白のコートは貸してあげる。ほら、出ていって。」


「わかった!今晩は彼の家でデートなんだ。外泊?」
「もうっ」



根掘り葉掘りと聞きたがる妹に白のコートを押しつけて部屋を追いだした。
教えてくれてもいいじゃないと口をとがらせた妹は、部屋の出口で私を振り返って笑う。



「なんかいいよね、愛されてるって感じ。」



言うだけ言うと妹は向いにある自分の部屋に騒々しく逃げた。
私は熱くなる頬を抑えてドアを閉めると、急いで封筒を手に戻る。
そしてベッドに腰かけると、ひとつ深呼吸して手のひらに封筒の中身を出した。


ひんやりとした感触は真新しい鍵の冷たさ。
その鍵につけられた小さな赤い鈴が可愛らしい音をたてる。


ドキドキしはじめた鼓動を抑えるように握りしめた鍵を胸にあて、同封されていたメモを読んだ。
男の人にしては繊細で整った、彼らしい文字。


それは観月クンから初めて貰った短い手紙だった。











流れていく景色は鮮やかで美しい。
やっと捕まえられたタクシーの窓に額をつけるようにして窓の外を眺める。
胸に抱いているのは観月クンへのクリスマスプレゼント。
身じろぎすれば、コートのポケットの中でチリンと鈴の音がする。



気持ちが怯んでしまいそうになる度、鈴の音に背中を押される気がした。





『突然にこんな物を渡してしまって、すみません。
 これは僕の部屋の合鍵です。
 いつ使ってもらっても僕は構いません。
 貴方が僕に会いたいと思った時に使ってほしい。
 我儘ばかりを言いますが、僕はいつでも貴方に会いたいと思っています。』





最後の方は滲んで読めなかった文字だけれど、
何度も何度も指で追うようにして読んだ観月クンの手紙。


思い出しただけでクリスマス色の景色が柔らかく輝いてゆく。


会いたいと言ってくれたのが嬉しかった。
責任を取るつもりだけで付き合う人間にくれる言葉ではないと信じたい。



私は一度だって、観月クンに自分の想いを打ち明けていなかった。


いつも会いたいと思っていること。
とてもとても観月クンが好きだということ。
まるで十代の少女のように、変わらず観月クンのことを想っていること。



観月クンに会いたい。



衝動は抑えようもなく、気付けば下手な言い訳をして家を飛び出していた。


怖くないと言えば嘘になる。
でも、それより会いたい気持ちの方が強いから。





この聖夜に・・・恋人に会いに行く。






















キスして良いのは貴方だけ 6 

2007/12/09

フェードインする恋心
コは相手にしないプライド
リードする時は、いつもさりげなく
スして良いのは貴方だけ
スルーされた告白の行方

お題 キミにうたう「すき」のうた 様より




















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