あなたの声が聴きたい 1

                         Thank you 500000HIT present to みく








手塚君、いた!



手塚君の姿を見つけ自然と笑顔が零れた時、彼が女テニの部長さんと話しているのに気がついた。
女テニの部長さんは小麦色の肌をした健康的な美人。
男女のテニス部部長が並べば絵になる、と噂されているのも頷ける。



お話の邪魔をしたら悪いな。



呼びかけた名前を飲み込み、足をとめた。
隠れることでもないのに、つい柱の陰に身を寄せれば後ろから柔らかな声が掛けられる。



さん、どうしたの?」
「あ・・・不二君。その・・・」



手塚君たちのいる方に視線を向けた不二君が「ああ」と呟いてから私を見る。



「もうすぐ男女共に交流試合があるからね、いろいろと打ち合わせがあるんだよ。
 手塚に用事なんだろ?僕が呼んであげようか?」


「い、いいの。私こそ急ぎじゃないし、後で平気だから。」


「そうなんだ。あ・・その本、さんの?
 読んでみたいなと思ってたんだけど、どうだった?」



不二君がニコニコとして訊いてくる。
なんとなく居心地の悪い気持ちだった私。
だけど不二君の穏やかな雰囲気と話しやすい相槌に段々と気持ちが落ち着いた。



「へぇ、そんなに面白いのなら僕も読もうかな。」
「良かったら・・・これ、どうぞ。」


「いいの?」
「さっき読み終わったの。だからいいよ。」


「ありがとう。すぐに読んで返すよ。」
「そんな、急がなくていいの。」



手塚君が面白いと話してくれた本。
話を聞いた翌日には本屋さんを何軒もまわって探したけれど見つからなくて、
結局は兄にネットで取り寄せてもらった本だ。
手塚君の好みに近づきたくて、初めて手にしたジャンルの本。


その本を差し出せば、視線を流した不二君が「終わったみたいだよ」と笑った。
見れば手塚君がピンクのファイルを手に近づいてくるところ。


不二君は私が貸した本を軽くあげると「手塚は大丈夫だよ。またね、さん。」と言葉を残し、
手塚君が来るのとは反対方向に歩き出した。


手塚は大丈夫って、どういう意味だろう。
咄嗟のことで聞き返せなかったが気になる。
遠ざかる不二君の背中に考えていたら、手塚君が私の隣にやって来た。



「不二と話していたのか?」
「手塚君に勧められた本、あれを不二君も前から読みたかったって。だから貸したの。」



手塚君も不二君の背を追うよう見ながら訊ねてきた。
私は手塚君が傍にいるだけでドキドキしてしまって、彼の顔がまともに見られない。
いつまでたっても慣れないのは手塚君があまりに素敵だから。



「俺が読むかと訊いた時には『興味ない』と答えたのだが・・・」
「え?なにが?」


「いや、何でもない。」



顔を上げれば手塚君と思いっきり目が合ってしまった。
まともに見てしまった手塚君の整った顔に赤面し俯くしかない。


すると頭の上をポンと軽く叩かれる。
おずおずと熱い頬で顔を上げれば、瞳を細めた手塚君の小さな笑顔があった。



あ、笑ってくれた。
大好きな手塚君の笑顔だ。










、良かったら俺と付き合ってくれないか。』



そう告げられたのは体育祭の日だった。


二人三脚のパートナーとしてお互いの足を結び、ゴールした直後のことだった。
息が苦しいのと、言葉の意味が分からずにいる私に手塚君は困ったように微笑んだ。



『この紐をほどいても・・・俺の傍に居て欲しいという意味なんだが。』



彼にしては小さな声で、周囲の歓声に消えてしまいそうな告白だった。
あの困ったような微笑みは彼の照れた顔だったのだと知ったのは最近のこと。


密かに憧れていた手塚君と肩を組んで走れるだけでも夢を見てるみたいな幸運だった。
本当なら背の高さが釣り合わないはずなのに、
生徒会の仕事があるために前の方で走ることになった手塚君と組めた。
これを幸運と呼ばず、何と呼ぶんだろう。



友達にも羨ましがられ、もう夜も眠れないほどドキドキして手塚君と肩を組んだ最初の日。
私ったら、初っ端から転んで手塚君の足を引っ張ってしまった。


足を結んだまま転んだ私たち。
咄嗟に思ったのは手塚君に怪我をさせてないかということ。



『ご、ごめんなさい!手塚君、怪我は?どこか怪我してない?』
『いや。俺は大丈夫だが、・・・膝を擦りむいている。』


『私はいいの。・・あの・・・あんまり運動神経良くなくてゴメンナサイ。
 できるだけ手塚君に迷惑をかけないよう、これから頑張るから。』



尻餅をついたままペコリと頭を下げて謝った私。
手塚君は一瞬瞳を大きくしてから、ふっと唇の端を緩ませた。



『頑張る前に膝の手当てをした方がいいだろう。』



手塚君、呆れただろうなと落ち込んだ出来事。
だけど手塚君は、あの時の言葉が印象的だったんだと後で教えてくれた。



嫌がる兄たちにお願いして二人三脚の練習をして、それを手塚君に知られて笑われたのも懐かしい。
あまり笑わないと言われている手塚君の笑顔を見る回数が増えていくにつれ、私の憧れは恋へと変化していった。


それは片思いだと信じて疑わなかった私の恋。
だけど手塚君の恋でもあった。



付き合い始めた当初はクラスメイトはもちろん、他のクラスや違う学年の人たちにまで噂され戸惑った。
目立たない私の顔など知らない人にまで名前が知れ、食堂や廊下で噂話をされる。
その横を身を小さくして足早に通り過ぎたのも一度や二度じゃない。



全てが完璧な手塚君に私という存在はどうなんだろう?



不安は常にある。


だけど手塚君が笑顔を見せてくれるたび、ふとした時に優しく触れてくれるたびに私は思う。



手塚君が私でいいと思ってくれている間は・・・傍に居させて、と。




















あなたの声が聴きたい 1   

2007.07.08




















テニプリ連載TOPへ     次へ