恋の花咲くこともある 1


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それは偶然だった。



「いらっしゃいま・・・せ」
「お前・・・」



コンビニのレジにスパークリングワインを出し、顔を上げた店員と客が目を合わせた途端に絶句する。
しかし店員の方が立ち直りは早かったようで
とってつけたような営業スマイルを浮かべるとワインのボトルを手に取った。
当然のことながらアルコール度数が目に入る。



「お客様、こちらはアルコールですが。」



チラリと客を見た店員は声のトーンを僅かに落として訊いてきた。
客は不機嫌そうに眉を寄せると、洒落た革の財布から一万円札を取り出し答える。



「知ってるか知らないか知らないが、ウチはアルバイト禁止だぜ?
 それも夜間のバイトなんざ停学もんだ。」


「未成年のくせに堂々とアルコールを買ってる人間に言われたくないですけど、生徒会長。」
「親に頼まれたんだ。」


「そんな言い訳が通るわけないでしょう?」
「通すさ、俺はな。」



は明らかに嫌な顔をした。
高校生が数百円の品物を買うのに一万円札を出すのも気に入らないが、
跡部なら自分の言い分を無理やりにでも通すだろうことが想像できたからだ。
名家に生まれ、氷帝学園の表も裏も牛耳る男だからこそ言える台詞だ。


それにしても、運が悪い。
この場所で氷帝学園の関係者に会うことなどなかったのに。
は大きく溜息をつくと跡部にワインを突き返す。
ムッとした跡部と睨みあいになった時、店の脇から若い男が顔を出した。



ちゃん、お疲れ。レジ、代わるよ。」



そう言うとレジにあったワインのバーコードを迷いもなく読み取った。
平然とした跡部の姿を横目に、は溜息をついてカウンターから出る。


跡部は仕立ての良さそうなスーツを着ているうえに堂々としていて、とても高校生には見えない。
大学三年生というバイトの彼より、よほど大人だ。



「お先に失礼します。」
「お疲れ様〜」



出された一万円札に大量のおつり(さっきで五千円札は使い切ってしまっていた)を
数えているバイトの彼に挨拶をして、は跡部を見る。
跡部はというと返される札の数と小銭に目が釘付けにされていてなど見ていない。
それはそれでいいかとは背を向けた。


バレたなら、その時こそ退学すればいい。
そうしたら諦めもつくだろう。


は自分に言い聞かせながらスタッフルームに続く扉を押した。










翌朝、呼び出し覚悟をして登校しただったが何事もなく一時間目の授業が始まる。
同じクラスの跡部はというと、いつもと変わらぬ顔で休み時間の度に小説を読んでいる。
二時間目、三時間目と時は過ぎていき、気付けば放課後になってしまった。


我慢できなくなったは教室を出た跡部の後を追い、人けの少ない生徒会室前の廊下で彼を呼び止めることにした。
振り返った跡部は待っていたかのように唇の端を上げ、生徒会室の鍵を顔の横にチラつかせる。



「入るか?」
「いい。」


「廊下じゃ不味い話なんじゃねぇの?」



そう言われてしまうとは言葉が出ない。
跡部は意地の悪い笑顔を浮かべると、黙って生徒会室の鍵を開けると中に入った。
扉は開かれたまま。話があるなら入ってこいということだろう。


意を決して生徒会室に入れば、奥の会長席に腰をおろした跡部が顎で扉を差した。



「鍵を閉めてくれ。誰かが入ってくると面倒だからな。」



ひょっとして強請られたり、脅されたりするのだろうか。
逃げ出したい気持ちになったが、それでは追いかけてきた自分が馬鹿みたいだ。
は胃が縮むような思いを飲み込んで鍵を閉めた。



「お前、それは変装か?」
「はぁ?」



唐突に跡部が訊いてくるから、は思わず素っ頓狂な声を上げた。
跡部はデスクに頬杖をつくと可笑しさが耐えられないという顔で言いなおす。



「そのワザとらしい銀縁メガネと髪型のことだ。」



それの事かと、は肩につくぐらいの三つ編みに触れた。


昨夜のがよく分かったものだと跡部自身も感心している。
同じクラスとはいえ目立たないクラスメイトを覚えていられたのは、
百人を超えるテニス部員たちをも覚えていられる記憶力の賜物だろう。
おまけにコンビニで働く彼女はメガネもなければ、髪も自然におろしていた。



「コンビニでの姿が変装なんだけど。」
「今のほうが素なのか?物好きな奴だな。どう考えても昨夜のほうがマシだろう?」



マシって、何か引っかかる言葉だ。
思わず跡部を睨みつけたが、まったく意にも介さず彼は話し続ける。



「何時まで働いてるんだ?コンビニってのは女子高生をあんな遅くまで働かせるものなのか?」
「・・・大学生って話してあるから。」


「へぇ、女子大生ねぇ。」



思いっきり馬鹿にしたような目で上から下に見られて気分が悪い。
周囲がどんなに騒ごうとも跡部がイイ男に思えなかった自分の目は正しかった。
跡部という男は人を嫌な気持ちにさせることだけは確かなようだ。



「バイトのこと学園に言わなかったの?」
「言って欲しかったのか?」


「そうじゃないけど」



跡部は椅子をまわし、光りが射しこむ窓の外に目を向けた。



「お前こそ俺のことはいいのか?」
「握り潰すみたいなこと言ったくせに。」


「確かに」



笑った跡部は立ち上がり、窓辺に立ってを見た。



「昨夜は最悪につまらねぇ家の付き合いに駆り出されて、いい加減うんざりしていたんだ。
 いつもはコンビニなんぞ寄らないんだが、喉が乾いたからと思ったらお前に会った。
 まさかあんな場所の、あんな遅い時間に人に会うとは思いもせずにな。だからだ。」



意味が分からないと言いたげなの表情を見てとった跡部は、
フッと口元を緩めると窓ガラスに軽くもたれた。



「お前もだろ?お互いに油断していた。だからチャラだ。」
「それって見逃してくれるってこと?」


「ああ、今回はな。次は分からねぇが。」



は跡部の顔をジッと見つめてから、分かったと息を吐き背を向けた。
これぐらいで済んで良かったと正直肩の力が抜ける。


がドアの鍵を開けノブに手をかけた時、後ろから笑いを含んだ跡部の声がした。



「お前、やっぱり変装は逆にした方がいいぜ?」



振り返れば楽しそうに笑っている跡部の顔があって、はカッとした。



「大きなお世話。そっちこそ飲み過ぎ注意よ!」



派手な音を立てて乱暴に閉められたドアの向こう、跡部の笑う声が廊下まで響く。


なにが氷帝のキングよ。
口の悪い高飛車なお坊ちゃまじゃない!


はムカムカしながらバイト先に向かうべく帰っていった。





「アイツ、思った以上に面白い奴だな。」



そう・・生徒会室で跡部が呟いていることも知らずに。





















キリリク 恋の花咲くこともある 1 

2008/06/27




















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