平凡な私の高校生活。
こんな出会いが待っているなんて、想像もしていなかった。



「よう。、」



コンビニで雑誌を立ち読みしていたら声をかけられた。
聞きなれた声は、近所の幼馴染。幼稚園、小学校と同じ学校。
中学、高校は父親の転勤について札幌に住んでいたから別だったけど、
高校2年の春からは同じ高校に通っている。



「吉朗。なに、立ち読み?」
「バーカ。お前と一緒に、するな」



言いながらも、ちゃっかり少年漫画を手に取っている。
顔も見ずに、二人並んで立ち読みしながらの会話。



「学校、慣れたか?」
「うん。まあ、まあ。なんか、ミッション系なのがねぇ。制服は可愛いけど。」


「なら、他にも私立はあっただろう?」
「だってぇ、吉朗が行ってるんだもん。親達も『赤澤君がいるなら安心だ』って、他を見ないで決めちゃったし。」


「お前は・・・俺がいるから聖ルドルフに来たのか?」
「そりゃそうよ。吉朗がいれば大丈夫かなって。腕力あるからさ、いじめられても助けてくれそうでしょ?」


「・・・・、」



吉朗の相槌が返ってこない。
不思議に思って横を見れば、随分と背が高くなった吉朗が私を見下ろしていた。



「なに?」
、前から言おうと思ってたんだけど。」


「ウン。」


「俺ら、付き合わないか?」



夏も近くなった休日の午後。
私は吉朗の幼馴染兼、彼女になった。










           
『ココロに嘘はつけない 1』










「吉朗〜!」
「おう、」



聖ルドルフのテニスコートは広い。
スポーツに力を入れている学校だから、その設備の充実度は目を見張るものがある。
眩しいほどの光を受けて輝く緑のコートに立つ吉朗が振り返って手を上げた。
隣にいる部員に声をかけてフェンスから私の元に走ってきてくれる彼は、なかなかに格好が良くて嬉しい。



「ハイ、これ。頼まれた忘れ物。あのねぇ、フツウ休日に学校まで届けさせる?」
「いいじゃないか。彼氏の顔が拝めて嬉しいだろ?」


「別に?見慣れてるから何ともない。」
「お前なぁ・・・」



悪態をつきながら荷物を手渡していたら、彼の後ろから誰かが近づいてきた。
「赤澤」と、ちょっと神経質そうな声が図体のでかい吉朗の後ろに隠れたまま聞こえてきた。



「ああ、観月。」



吉朗が横に移動して、後ろから姿を現した人。





・・・それが観月君。



それが、私と彼が出会った最初だった。





驚いた。
テニス部に、こんな綺麗な男の子がいるなんて知らなかった。
吉朗と並ぶと、オセロみたいに肌の色が違ってた。
真っ白な肌に、真っ黒の髪。端整な顔立ちは日本人というより、ハーフのようだった。



「赤澤、その人ですか?あなたが自慢していたのは。」
「え?あ・・・ああ、まぁな。紹介しとく。こいつ、。こっちは、観月。うちの参謀兼マネージャー兼プレイヤー。」


「はじめまして。です。」



私がちょこっと頭を下げたのに、彼は上から下まで私を眺めて一言。



「物好きですね」と、言った。



吉朗も私も言葉を失う。そ、それって・・・どういう意味?えっと、どっちがどっちをさしてるの?
私たちが顔を見比べると、観月君が可笑しそうに笑った。



「赤澤には、勿体無いってことですよ。」



柔らかく微笑まれて、私の鼓動が跳ねた。
ドキドキするのは冷やかしにも似た言葉を言われたから?それとも・・・


深く考える間もなく、遠くから彼らを呼ぶ声がして「じゃあな」と二人は去っていく。



私は、ぼけっと立ち尽くしたまま、去っていく二人の背中を見送った。





観月君という存在を知ってしまったら、あちらこちらで彼を見かけるようになった。
廊下、職員室、食堂、図書室。
今までよく知らずにいられたものだと思うくらい、観月君は目立っていた。
細身の体だけれど華奢ではない。
いつも背筋をピンと伸ばして、ダラダラした格好が多い男子の中では際立って綺麗な立ち姿をしていた。
女の子と見間違いそうな容姿で、ちょっと中性的な雰囲気がある。


吉朗に紹介してもらった日から、会えば挨拶ぐらいは交わす。
丁寧な言葉使いに戸惑ったこともあったけど吉朗に言わせると、あの話し方が癖なんだとか。



『あれは観月のクセみたいなもんだ。本気で怒ると言葉が悪くなるんだぜ?そうなったら、怖えぇのなんのって。』



そういう意外な一面を吉朗から聞くたび、観月君に興味を持つ私がいた。
その事が、どんな意味を持つかも知らないで、吉朗の話す親友である観月君の話しに耳を傾けていた。





本格的な夏が来て、夏季大会に敗退してしまった聖ルドルフのテニス部からは三年生が引退した。
人徳があったのか・・・吉朗が部長に納まり、副部長は観月君になった。
ますます吉朗は部活に時間を割かれ、私よりも観月君と過ごす時間の方が圧倒的に多くなる。
電話で話すたびに『観月が・・・』『それで観月の奴・・・』と吉朗から聞かされる観月君の話題。
吉朗に会えなくても今さら寂しいとも感じない私にとっては、
周囲に居た事がないタイプの観月君の様子を聞く方が面白かった。





夏休みの終わり。
『部活は昼までだから外で昼飯でも食おうぜ。』と吉朗に誘われて、安くてボリュームのあるというレストランで待っていた。
そこに現れたのは吉朗と・・・観月君。



「よ、悪りい。なんか打ち合わせが済まなくてな。で、観月も連れてきたんだ。いいだろ?」
「うん、いいよ。こんにちは、観月君。」


「こんにちは、さん。で、なんで・・・ここにさんが?赤澤、説明してください。」



さっさと私の前に座った吉朗の隣で、席にもつかず観月君が腕を組んで睨んでいる。



「あれ?言わなかったっけ。と約束してたんだ。ま、腹が減ったし。食いながら話そうぜ。」
さんと約束してるなんて一言も言いませんでしたよ!もうっあなたって人は。
 後は僕がまとめておきますから、帰ります。」


「待てよ、観月。お前、ひとりにはやらせられないよ。いいから、座れって。のことなら気にするな。」
「赤澤が気にしなくても、僕が気にするんですっ!」


「なんだ?気をつかってくれてるのか?心配するな。
 俺らは付き合いが長いから、全然っ甘くもベタベタもないから安心してくれ。な、。」
「ウン、いいから観月君も一緒に、ね。」



今にも背を向けて帰ってしまいそうな観月君を私もひきとめた。
グッと言葉につまった顔をした観月君。
次には聞こえるくらい大きな溜息をつくと「お邪魔しますっ」とヤケクソ気味の口調で言うから笑ってしまった。


大食漢の吉朗が適当に注文を済ませると、二人は早速ファイルを開いて話し合いを始めた。
私は黙って吉朗と観月君を比べてみたり、丁寧だけど結構辛らつな言葉を使う観月君の会話を聞いたりして楽しんでいた。
ペンを片手に説明している観月君の指が長くて綺麗。
白くて筋張った手に浮かぶ青い血管までが綺麗に見えてドキドキした。


吉朗の手は大きいけれどゴツゴツしてる。
観月君の手は、なんていうか・・・ちょっと色っぽい手だ。


あ、睫毛が長い。俯くと頬に睫毛の影が落ちるなんて・・・美人さんだわ。
ちょっと甘めの声。ですます調の話し方には合っている。
どんなお家で育ったのかしら?すごくお金持ちとか、フツウの家庭じゃないわよね。



あ、マズイ!



じっと観月君を見て考え事をしていたら、不意に顔をあげた彼とバッチリ目が合ってしまった。
途端に顔が熱くなるのを感じて焦る。下手な誤魔化し笑いをして見せると、冷たい水を飲んで視線を外した。



「それで?おい、観月?」
「あ、ああ。それでですね、次はダブルスを組み替えて・・・木更津を、」



冷たい水を喉に流し込んで、顔の火照りが冷めるのを待った。
ヤダ、私ったら。どうしたんだろう?


もう観月君を見るのは止めた方がいいと思った。何故だか調子が狂う。
頬杖をついて窓の外を見ながら道行く人を観察する。
なのに、今度は観月君の声に聞き入っている私がいた。





大皿のパスタ。サラダ。ピザ。
どれも3人前以上あるボリュームだ。
小皿に取り分けて食べるスタイルらしい。


吉朗は、勝手気ままに自分が食べたいものをサッサと皿に取って食べ始めている。
観月君はお行儀よく手を拭いてナプキンを膝に広げていた。
私の前にはサラダのボールがあった。



「観月君、サラダを入れてあげる。お皿、頂戴。」
「あ、すみません。」



伸ばした手に観月君が小皿を差し出してきた。
その時、ちょっとだけ触れた指先。
あ、と思って観月君の顔を見たら、彼も私と同じ事を思った顔をしていた。
それでも何事もなかった顔でお皿を受け取ってサラダを取り分ける。
たかが指先が触れただけ、意識する方が可笑しいと思うのに鼓動が騒がしい。
サラダを盛った皿を返すときには、指が触れないように緊張した。



「じゃあ、今度はパスタをとりますよ。お皿を下さい。」



今度は観月君が手を差し出した。
お願いしますと、お皿を手渡しながら触れそうになる指先に意識が集中している私がいる。



「なんだ、観月。には優しいな。」
「何を言ってるんですか。赤澤は、とってあげなくても勝手にガツガツたべるでしょう。
 僕にとって欲しいいんなら取ってあげますよ、何ですか?早く言いなさい!」


「いえ、結構です。ありがとうございました。」
「つまらないこと言ってるんじゃありませんよ。女の子に優しくするのは当然です。」


「観月の口から、そんな言葉が聞けるとは思わなかったな。」
「あなた、喧嘩を売ってるんですか?僕はいつでも女性には優しくしてます。」


「そっかぁ?女子の間じゃ、観月はクールビューティーって呼ばれてるらしいぜ?
 告白しても無表情。冷たく、シッシッと追い払われるとか。プレゼントを無理矢理渡しても部室で誰かに食べさせてるとか。」


「・・・それ以上しゃべったら。僕にも考えがありますよ?
 さん、赤澤が中学時代にどんなことをしてきたのか、今から話して聞かせてあげます。」


「待てっ、観月」
「いいえ。言います、言わせろっ」



私の前で吉朗と観月君がフォーク片手に攻防を繰り広げている。
子供みたいに『言う』『言わない』で争っている二人は子供みたいで楽しそうだ。
ぷっ、と噴き出した。
クスクス笑いが止まらない。


吉朗はもともと子供っぽいところがある。
でも、いつもは澄ました顔をしている観月君の子供っぽい所は新鮮で可愛らしかった。



?」
「二人って仲良しさんだね。観月君、可愛い。」



え?と観月君を見つめる吉朗。
唖然として私を見た観月君の耳がみるみる赤くなっていく。



「おい、観月っ。なに、赤くなってるんだ?」
「赤くなんてなってませんっ!てっ、店内が暑いんですっ!」


「おい、。観月のことを『可愛い』なんて言った奴、お前ぐらいのもんだぜ?」
「そうなの?だって・・・今も赤くなって可愛いよ?」


「暑いからですっ!!」



吉朗がゲラゲラ笑い始めて、つられて私もまた笑った。
観月君ひとりが頬まで赤くしながら憮然とした顔でピザをかじるから、また可笑しくて笑った。



それからだ。観月君は私とも打ち解けて話してくれるようになった。
忙しい吉朗はデートの代わりだと言っては、観月君と一緒に過ごす時間に私を誘った。



それは、カフェだったり、部室だったり。
ある時は吉朗の部屋だったりした。



吉朗を間に挟んで観月君と話すのは楽しかった。
二人は本当に仲が良い。
口には出さなくても、信頼しあっているのが目に見える。
男のコの友情っていいな・・・って憧れるほどだった。



吉朗。観月君。私。



楽しくて。居心地のいい時間。場所。
ずっと、続けばいい。続く。



そう、思っていた。




















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