Let's meet again if we have a chance.1
親にあてがわれた女など、絶対に愛することはないと思っていた。
「時機を見て、婚約は破棄する。お前も、そのつもりでいろ」
冷たく言い放った俺に、女は大きな瞳を丸くして呑気な声を出した。
「破棄するのに婚約するんですか?なら、しなきゃいいのに」
「しなくて済むんだったら、とっくにしてるんだよ」
「しがらみって嫌ですねぇ」
「お前も一緒だろっ」
言い返す俺に女は「そうですよねぇ」と屈託なく笑った。
彼女は自由な人間だった。
いつもニコニコとして、どこで会っても嬉しそうに話しかけてくる。
眉間のしわを増やすことしかできない俺の顔を見ては、「いつもご機嫌ナナメですね」と笑った。
いつの頃からか俺を「けーちゃん」と呼び、
気付けば人んちのリビングでお茶を飲んでいたりする。
俺が忙しそうにしていると滋養強壮にと変なドリンクを持ってきたり
下手な料理を詰め込んだ弁当を作ってきた。
その度に俺は怒り、突き放し、冷たくした。
それでも女は笑顔を浮かべたまま「怒ってばかりだと体に悪いですよ」と間抜けなことを言った。
なんだかんだとあったが、一年後にやっと婚約を解消できることになった。
最後に女が別れの挨拶にきた。
やっぱり女は笑っていて、「とうとうやりましたね」と可笑しそうに言った。
そうだ、親の決めた結婚をぶち壊してやった。
図々しくて、ちょっとピントのずれたお前ともサヨナラだ。
お前の家はまた新たな嫁入り先を探すだろうが、まぁ頑張れよ。
それにも女は笑っていた。
最後ぐらいは外へと送って出た俺の隣で空を見上げた女。
夏の青く高い空を見上げ、ポツリと呟いた。
「けーちゃんが見上げてた空と一緒だ」
俺が見上げてた空?
怪訝な顔をしていたのだろう。
俺に視線を戻した女が、懐かしそうに瞳を細めた。
「テニスコートで、よく空を見上げてたでしょう?」
テニスコートって・・・ちょっと待て。いつのことだ。
なのに女は答えずに、静かな笑みを浮かべて頭を下げた。
「ありがとう。楽しかった」
微笑んでいるはずの女の目には綺麗な水の膜が張って輝いていた。
女は来ない。
当然だ。もう何の関わりもないのだから。
ふと気付けば俺の部屋から花が消えていた。
よくよく考えると、女と婚約してから俺の部屋には常に花があった。
それは女が自ら選び、まめに活けかえていた花だったんだ。
けーちゃん
馬鹿っぽく間延びした甘い声。
振り返っては嬉しそうに俺の名を呼んだ。
婚約を破棄して清々したはずだ。
なのに何故、こんなにもあの声が懐かしく思えるのか。
あの笑顔に。もう一度、会いたいと何故に思ってしまうのだろうか。
親にあてがわれた女を愛するなんて、絶対にないと思っていたのに。
Let's meet again if we have a chance.1
2009/08/02
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