俺様の恋 最終話 『俺様の恋』
結局、俺はを泣かせた。
初めてのキスだったのにと泣き。
せっかく見つけたコンタクトレンズを再び落としてしまったと泣く。
極め付けは『マネージャーを辞めたくない』と言って大泣きされた。
俺たちは客そっちのけで再びコンタクトレンズを捜索し、
初めてのキスだろうが二度目三度目、もう五度目くらい一気に済ませちまったんだからクヨクヨするなと言い聞かせる。
マネージャーの件は、すっかり俺の頭から抜け落ちていた。
『部員とマネージャーの恋愛を禁止、恋仲になったらマネージャーは退部』の決まりだ。
「わ・・わたし、マネージャーの仕事好きなの。
これからが大事な時だし・・・みんなの活躍だって傍で見てたい。
だ、だから・・跡部とは付き合えないよ。」
「まさか、お前。それが嫌で俺から逃げまくってたのか?」
「だって・・・」
俺とマネージャー業を天秤にかけ、後者を選んだというのは密かにショックだ。
まぁ、それもらしいといえばそうなんだが。
「そんなのナシにしちまえば済む話だ。」
「ナシ?」
「アレを決めたのは俺だぜ?なら、ナシにするのも部長の俺だ。
なんだ、お前。結構、小さな事を気にするタイプだったんだな。」
「あ、呆れた・・・跡部って本当に俺様!」
怒りながら子供みたいに泣いているが可愛いと思う。
ヨシヨシと頭をなで、泣き虫な目元にキスをして抱きしめる。
恥ずかしがるに「で?俺の事はどう思っているんだ?」と何度も問いただし、
言葉を濁すたびに催促のキスをして、やっと聞けた言葉。
「もう私以外の誰ともキスしないで?イヤだから・・・」
可愛いことを言う。
俺は満足して頷いてやった。
翌日のミーティング。
今後の練習プログラムや監督からの伝達事項等を伝えた後に、例の変更を付け加えた。
さらっと伝えたつもりだったが、口うるさい奴らが激しく反応する。
部員たちの後ろに緊張しきった顔で立っていたは途端に顔を赤くして俯いてしまった。
「ちょ、ちょっと待てよ。
マネージャーとの恋愛を解禁って、ウチに女子マネはしかいないんだぜ?
それって、どういう意味だ?この中の誰かとってことか?」
「宍戸にしては頭を働かせたな。
優秀なマネージャーをつまらない決まりで辞めさせるのは惜しいからな。」
「げっ、相手は誰だ!ひょっとして侑士?」
「いやいや、残念ながら違うで。よう考えてみぃ、岳人。
このテニス部で決まりごとを簡単に作ったり失くしたり出来るんは、一人しかおらん気がするけど?」
「まさか!」
向日がオカッパ頭を激しく振って俺を見る。
手にしたファイルから顔を上げれば、全員が俺を凝視していた。
これを優越感っていうんだろう。
「テメェら、に手を出す時には死ぬ気で俺に向かって来い。以上だ。」
口々に罵る声も俺には負け犬の遠吠えにしか聞こえねぇ。
無視してファイルを閉じれば、次にはが部員達に取り囲まれていた。
「、本気か?よく考えた方がいいぜ。
断わりにくいんだったら俺らが言ってやってもいいんだし、力になるぜ?」
「宍戸君、ありがとう。でもね、」
「なんか跡部に弱みでも握られたのか?それとも無理矢理とか?」
「まぁちょっと無理矢理っぽくもなくはないけど・・・でもね、向日君」
「やっぱり!跡部、犯罪だぞ!」
「だから、そうじゃなくて」
「テメェら、いい加減にしろよ!」
俺は言いたい放題の奴らとの間に割って入ると一喝した。
「どいつもコイツも言いたい放題言いやがって。
俺達は合意の上で付き合ってんだよ。そうだな、?」
「まぁ・・一応。」
「一応?」
「あ、あのね、宇宙の七不思議に遭遇したくらい不思議っていうか、自分でもなんでか本当に理解不能なんだけど。」
「前置きが長いぞ!」
「そんな急かさないでよ。と・・とにかく、皆も吃驚してるだろうけど私も吃驚してて・・・」
しどろもどろでポロシャツの裾を引っ張りながらの。
気の短い俺がイライラしているのを見て取ってか、隣から忍足が口を挟んだ。
「学園祭の日やろ?
あの日、泣き腫らした目をしたうえに真っ赤に茹で上がってる幽霊の手を引いてたドラキュラを見かけたなぁ。」
「お、忍足君、見てたの?」
がみるみる顔を赤くして引き攣っている。
俺はお化け屋敷を出たところで忍足がコッチを見ているのに気付いていたが、あえて何も言わなかった。
別に隠すことでもないからだ。
「焦れた跡部が、とうとう暗闇で襲うたんかとも思うたけど・・・」
「そ、そうだけど違うの!」
が慌てて否定する。
しかし『そうだけど』とは肯定じゃねぇか。
温厚な鳳にまで睨まれてしまい、俺は溜息をつくしかない。
が、の必死な弁解に俺は口元を緩めることになる。
「わ、私も跡部がいいの!なんか分からないけど、ありえないって自分でも思うけど、跡部がいいの。
本当はマネージャーを辞めなきゃいけないんだろうけどテニス部も好きで・・・我儘言ってゴメンなさい!」
深々と頭を下げたに部員達は黙り込んでしまった。
俺は密かに嬉しくて声を出して笑いたいところだったが、
火に油を注ぐのは目に見えているので口元を押さえて誤魔化した。
チラリと忍足が俺を見て肩をすくめるとポンとの肩を叩く。
「謝らんでもええよ。ここに残ってくれるだけで俺らは助かるし、嬉しい。
それにちゃんが俺様のちょっと変わった男に惹かれる趣味があるんは薄々感じてたし。」
「ちょっと変わった?」
「ホラ、前のカレシと跡部って似てるとこあるやろ?」
「似てねぇよ!」
「きっと常識外れた男を見ると、ここは自分が犠牲になってでも矯正してやらんと・・・と思うてしまうんやろう。
立派な精神やけど苦労するで?辛くなったら、いつでも俺が助けてやるから相談してな。」
俺の反論などシカトして口説く忍足の後ろで、俺らも力になるぜと部員達がを励ましている。
ありがとうと答えるにも呆れつつ、とにかく話しはついたのだと理解した。
理由や手段はどうであれ、俺様のものにしたんだから、それでいい。
「話は終わりだ。各自分かれてコートに入れ!」
気のない返事をして部員達が散らばっていく。
が俺に気まずそうな視線を向けてくるから「バカ」と唇の動きだけで言ってやれば、
あっかんべぇと可愛らしく舌を出して走って行った。
後で嬉し涙を流すほど苛めてやろう。
俺もコートに入る。
今日は向かってくるレギュラーたちの視線が強い。
それはそれで、いい傾向だ。
「遠慮しなくていいんだぜ。俺様を楽しませてくれるんだろ?」
向かいのコートに立つ宍戸と鳳に言えば、奴らの顔つきが変わった。
さぁ、楽しい戦いの時間だ。
恋もテニスも、俺様はいつでも勝ってみせるさ。
俺様の恋 『俺様の恋』
2007.06.19
完結です
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