俺様の恋9 『イカレテル』
学園祭が始まった。
毎年大がかりに華々しく行われる学園祭は人出が多い。
クラスの模擬店以外にも、各部活の出し物が凝っていて他校の生徒にも人気があった。
それはいいのだが・・・
「ちっ、まったく。迂闊に歩けやしねぇ。」
「そらそうやろ。性格は見ただけじゃ分らんしなぁ。
お前の見た目に恋してる可哀想な乙女が仰山おるということや。」
「可哀想だと?俺は恐ろしい女の集団に圧死させられるところだったんだぞ。」
「せやから今日は此処でおとなしく店番するんが一番やって。
泣く子も黙るフランケンをボディガードにつけとくから、な?」
見た目も言葉も怪しい関西訛りのネズミ男に説得され、俺は客寄せパンダよろしく働く羽目になった。
「オイ、そこの幽霊。のどが渇いた。」
白い浴衣に長い黒髪を垂らした幽霊は溜息をつきながら裏にひっこむ。
次に出てきた時には冷えたスポーツドリンクを持っていた。
「、それ結構似合うじゃねぇか。」
「おかげさまで。それ飲んだら中の宍戸クンたちと交代してね?」
「はぁ?俺も中で脅かしたりするのかよ。」
「当たり前でしょ?暗幕してるから中は暑いのよ。交代制にしないとお化けが脱水で倒れるわ。」
「なら、お前も入れよ。」
「な、なんで」
「中をろくに見てねぇから、俺は構造が全く分かってねぇぜ。」
「あなたねぇ・・・もうっ」
髪を前に長く垂らしているせいか、今日は俺と話しても緊張しないらしい。
それとも、いつもの世話焼きぶりを発揮して忙しくしているうちに俺との会話など気にならなくなったのか。
物足りないような気持ちもするし、以前のように話せて嬉しい気もする。
なんとも複雑な気持ちで、俺も相当イカレてるなと自覚した。
そう時間をおかず、ひと試合終えたような姿で宍戸たちが出てきた。
は冷たいドリンクやらタオルを差し出し、部員達を労う。
何を張り切っていたのか、滝のように汗を流す宍戸の額を拭ってやるには正直ムカついた。
「オラッ、行くぞ。もぬけの殻じゃ客からクレームがつくぜ。」
まだ世話を焼いているを促し、真っ暗な室内に足を踏み入れた。
後ろからの照らす懐中電灯の明かりが足元を照らす。
「おい、何も見えねぇじゃねぇか。」
「自分の懐中電灯は?」
「んなもん、誰もくれなかったぜ。」
「自分で用意するのよ!もう、これだから。取ってくるから、私の持って先に進んでて。」
の声に振り返り、小さな明かりの元に素早く手を伸ばす。
キャッと小さな悲鳴を聞いて、懐中電灯を持つの手を掴めた事に笑みが浮かんだ。
ゴトンと音をたて、光りが床に転がる。
あまりのことに落としたらしい懐中電灯を俺が拾い、行く先を照らした。
「あ、跡部!」
「なんだ?」
「なんだじゃなくて、手!」
「仕方ないだろう。懐中電灯は一つなんだ。ふたりで行動するのがベストってもんだ。」
「だから取ってくるって。は、離して!」
「今、交代時で化け物が減っている。お化けがいなけりゃ、お化け屋敷じゃねぇだろ?
やるからには文句を言われるようなことしたくねぇんだ。急ぐぞ。」
俺の言い分にが黙った。
だが、足を止めたらしく後ろから手を引っ張られる。
「分かった。分かったから・・・お願い、手を離して?」
「なら、隣に並べよ。どういう作りになってるのか、ちっとも分かりゃしねぇ。」
闇の中から情けないの声がして、仕方なく俺は手を離す。
こういうところ歯がゆくも思うが、嫌いじゃない。
の白い浴衣が隣に並んできた。
闇の中でも白が浮かんで見える分、確かに不気味な姿だ。
「お前、立ってるだけで怖いかもな。」
そう告げてやれば、少しだけ笑う気配がした。
懐中電灯が照らす闇の中を歩いていく。
迷路のような作りの中、所々で部員たちが扮するお化けに会い挨拶された。
時々は客と鉢合わせしたが、イレギュラーに出てきた俺たちは恐怖を与えるようで楽しかった。
俺の持ち場は暗闇の中に赤いライトで浮かび上がる墓場らしい。
なるほど十字架やら棺なんかが上手いこと配置されている。
「此処よ。宍戸君が頑張ってたとこ。」
「ふーん。」
「宍戸君は棺に納まって、お客さんが来るたびに飛び出ていってたのよ。」
「そりゃ暑いし、汗もかくだろうな。」
「じゃ、跡部もお願い。」
「待てよ。」
思わずの白い袖を掴んだ。
「な、なに?私も配置につかなきゃ。」
「お前も此処にいろ。」
「む、無理だって。私は井戸の近くだもん。」
「井戸には向日のカッパがいただろ。あれで充分笑える。」
「笑えるって、向日君が聞いたら怒るよ?
第一この外国風の墓場に浴衣姿の幽霊は似合わないって。」
「気にするな。いいから、此処にいろ。」
「そんなことっ」
袖を引っ張って逃げようとすると言い合いをしていたら、向こうから人の声がしてきた。
手にした懐中電灯の明かりを消し、棺の中に放り投げる。
そのまま強引にの腕を引き、十字架の後ろに身を隠した。
「跡部!」
「シッ、今は客の相手のほうが先だ。」
吐息さえ感じられそうな近さ。
は黙り込み、俺は客が来るのを待ちながらタイミングをはかる。
棺から飛び出るなんざはご免だが、客が角を曲がってきた時に飛び出すぐらいはしてやるか。
それっと、明かりが角を曲がってきたのと同時にマントを翻して立ち上がった。
途端に大きな悲鳴が上がり、俺が飛び出す間もなく客たちが逃げるように走り抜けていく。
「なんだよ。つまらねぇじゃねぇか。」
あまりの呆気なさに呟いての元に戻ろうとしたら「来ないで!」と切羽詰った声があがった。
俺を拒否するのかと少なからずショックを受けた時、続いたの訴えは切実だった。
「コンタクト落としたの!」
「はぁ?」
「跡部のマントが目の前で翻った時に埃が目に入って・・・痛くて外したら落としちゃった!」
「バカ。この暗闇で探せると思ってんのか?」
「探さないと困るよ。あれ、高かったの!使い捨てじゃないんだからっ!
跡部のバカ!あんたのせいなんだから探してよ!」
そりゃ八つ当たりだろ。
思ったが、ボンヤリと浮かぶ白い体が床を這ってる姿に同情しなくもない。
仕方なく棺に放り込んだ懐中電灯を手にして、床を明かりで照らしてやった。
降り注いできた明かりに顔を上げたは痛そうに片目を閉じて俺を見上げる。
俺は注意深く辺りを見回しながら、その隣にしゃがみこんだ。
「この暗闇で見つけたら奇跡だな。」
「奇跡は起こすものなの!」
「ハイハイ、そりゃそうだ。」
それ以上に顔を床に近づけたら舐めちまうぜ、
と心配になるほど必死なにつられ、俺も真面目に探す。
なんせ視界が暗いのが悪い。
客が来たのにも気付かず探すのに熱中していたが、
ドラキュラと幽霊が床に這いつくばっているのを見た客は気味悪がって逃げていった。
「どうしよう・・・あれ先月買いなおしたばかりだったのに。」
「諦めんなよ。近くに落ちてる事は確かなんだ。」
「そうだけど。」
「かえって自分の服とかに付いてんじゃねぇか?」
「そ、そうね。懐中電灯貸して?」
俺から懐中電灯を受け取るとが自分の胸元を照らした。
真っ白な浴衣にうつる女らしい体に見ている俺の方が慌てて視線を逸らす。
探すのに夢中らしいは胸の合わせ目から中まで覗き込んだりして目の毒といったらない。
その時だ、が動かす光りが床を照らして何かが反射したように見えた。
「おい、何かが光った。ライトを貸せ!」
「本当に?どこ?」
俺はから懐中電灯をひったくると、風を起こさないよう膝で目星をつけた場所に進む。
その後ろをも這いながら付いてきた。
「確か、ここら辺だったような。」
「あ!跡部、光ったよ!」
「どこだ?」
「そこ!」
は俺の腕を引っ張って懐中電灯の照らす位置を確かめながら身を寄せてくる。
おいおい、待てよと意識する俺にも反射する光りが見えた。
その部分を照らしながら静かに近づけば・・・あったぜ、奇跡とやらが。
壊さないよう慎重にコンタクトレンズを指の先にとり、明かりで確認してからに差し出してやった。
「壊れてはねぇみたいだな。」
「ありがとう、跡部!」
長い髪を耳にかけ、上気した頬で嬉しそうに笑うの顔が闇に浮かぶ。
こういうのを衝動っていうんだろう、そう思った。
思った時には身を乗り出し、の唇に自分の唇を押し付けていた。
不恰好なキス。
直ぐに離れての顔を見れば、目は開いたままで手の平にはコンタクトレンズ
をのせた間抜けな姿。
それが可笑しくて、少し笑う。
笑ってはみたが、直ぐに真顔になっちまう。
体の中が熱くて仕方ねぇ。
懐中電灯を床に置けば、我に返ったが後ずさりした。
それを許さずに肩を掴み引き寄せると、手探りで頭と頬を押さえニ度目のキスをした。
再び遠くから客の足音と囁き声が聞こえてくる。
だが止める気などない。
なんて余裕のない男だと頭の隅では思いながらも、荒々しく何度も唇を重ねた。
の苦しげな息づかいと抵抗は、客の声がハッキリ聞こえる頃には泣きが入ってきた。
ライトが角を曲がってくるのが視界に入ったと同時に、俺は自らのマントでの体を覆うようにして抱きしめた。
「うわぁ・・何か出そう。早く行こう!」
「怖っ」
客が騒ぎながら通り過ぎていく。
息を殺すようにして、震える細い体を強く抱きしめていた。
少しずつ客の声が遠ざかり、そっと腕の力を緩めれば俯いたままのの姿があった。
「泣いてるのか?」
が頭を横に振る。
暗いから表情が分からない。
だがらといって確かめるために懐中電灯で照らす気にもなれない。
今が勝負の時なんだと思う。
「こんなこと・・・俺にさせたのは、お前が初めてだ。
もういい加減に観念して俺にしとけよ。じゃねぇと気が狂っちまいそうだ。」
そっと頬と思われる場所に手を伸ばせば、火照った温もりがあった。
頬に唇を寄せ、想いを込めて囁く。
「俺はどうしようもねぇくらい、お前にイカレてる。」
バカ・・・と消え入りそうな小さな声が甘えて聞こえて、俺は目を閉じる。
もう一度と、探って重ねた唇をが避けることはなかった。
俺様の恋 『イカレテル』
2007.06.16
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