俺様の恋8 『覚悟しな』
もう今更に否定する必要もない。
何がどうなったのか自分でも理解しがたいが、気にいっちまったものは仕方ない。
理由を考えるより、結果をどうするかを考えた方が前向きってもんだろ。
「あ、跡部。これを読んどいて。」
「人の名前を噛んでんじゃねぇよ。」
「ご、ごめん。」
小さな声で謝ると、はそそくさと部室を出て行く。
以前なら鼻を鳴らして『呼びにくい名前なのが悪いのよ』と悪態をつくところだろうが、最近はずっとコレだ。
意識されるのは嬉しいが、毎日がこうだと調子が狂う。
他の奴らは、俺が酷くを怒ったか何かしてビビらせたに違いないと勝手なことを言っているが、
忍足だけは意味深な表情で俺らを見ているから気分が悪い。
どちらにしろ、そう気の長いほうじゃない俺がシビレを切らすのは時間の問題だった。
「学園祭の出し物がお化け屋敷だと?またベタなもんに決めやがって。」
「めんどくさいからお前らで決めてええって言うたんは跡部やで?もう届けたから変更は無理や。」
「そうそう。それにさ、跡部はコスプレして立っててくれるだけでいいから。」
「コスプレだと?」
聞き捨てならない向日の言葉に聞き返せば、忍足が食えない笑顔で解説を始めた。
「跡部はドラキュラ伯爵や。どや、ピッタリやろ?
黒のマント姿で入り口に立っててくれるだけで客寄せになること間違いなし。」
「断わる。」
「せやったら、カバジのフランケンと代わるか?ジローなんか自ら志願して包帯男やで。」
「全部お断りだ!」
「けど・・・これ、ちゃんの発案なんやけどなぁ。
お前にはドラキュラが似合うって、えらい楽しそうに話してたのに。カワイソウになぁ。
まぁ、ええわ。俺が代わりにやってやろ。」
「忍足、てめぇ・・」
ニッコリと微笑む忍足の野郎を次の試合ではシングルスに当てて扱き使ってやると決めた。
それから一週間もしないうちに衣装あわせとやらをやらされた。
すでに学園内ではテニス部の出し物が噂となっている。
こうなっては逃げられるものではないと観念した俺だ。
黒のタキシードは着慣れているが、流石にマントなんぞは羽織ったことがない。
おまけにマントの裏地が真っ赤なのに『こりゃ暗幕かよ』と真剣に嫌気がさした。
ご丁寧に付け歯まで用意されていたが、それだけは断固拒否した。
着替えを済ませて出て行けば、そこにはアヤシイ野郎どもがウヨウヨしている。
「忍足、その格好はなんだ?」
「ネズミ男やねん。ヒドイやろ、これ。これが一番似合うとか言われて、俺グレそうや。」
「確かに似合ってるな。お前しかいねぇぜ、ソレ。」
心から嫌がってる忍足に嫌味を言ってやり、ちょっとスッキリした。
滝のお岩さんはマジ怖いし、向日の一つ目小僧も似合っている。
鳳のデカイこんにゃく姿(あとで『ぬりかべ』という妖怪だと聞いた)は笑えた。
「うわっ、跡部!超似合ってるC〜」
「待って、ジロちゃん!」
ジローが俺を見つけて騒ぐ。
包帯だらけの姿で走り寄ってこられるのは気持ちのいいものじゃないが、
ジローの包帯を巻いていたが犬に引っ張られる飼い主の如くに引っ付いてきたからヨシとした。
「ね、ね、ちゃんが言ったとおり。跡部、すげぇ似合ってるね!」
「そ・・そうね。」
チラリと俺の姿を見たが直ぐに視線を逸らせて言う。
この微妙な空気を読めるはずもないジローは、勝手に俺と腕を組むと「写真、写真」と強請った。
ジローに弱いは、巻きかけの包帯を床に置くとポケットからカメラを出す。
「じゃ、撮るね。」
「ウン!」
屈託ないジローと共にカメラに納まりながら、レンズ越しにをジッと見つめる。
ニ、三枚を写したは、やっぱり俺と視線を合わせずにカメラをポケットに仕舞った。
「ね、それデジカメでしょ?今の見せて?」
「駄目。後でプリントしてあげるから。それより包帯を最後まで巻かせてよ。」
「ちぇっ」
「俺様にこんな格好させといて、お前は何も着ないのか?」
二人の会話に割って入れば、視線をジローの包帯に集中させたが答える。
どうにも俺の顔を見る気がないらしい。
「わ、私は裏方だもん。跡部たちが表で頑張ってくれれば、それでいいの。」
「それじゃあ納得できねぇな。いいぜ、俺が何か用意してやろう。」
「なんで、やめてよ!」
思わずというふうに顔を上げたとやっと目が合った。
ハッとしたは慌てて下を向いたが明らかに耳が赤い。
これはどう受け取っていい反応なんだと、困惑しつつも楽しくなってきた。
「ナースの白衣なんかいいんじゃねぇ?」
「ナ、ナース?へ、変態!」
「はぁ?」
「そ・・そんなイメクラ嬢みたいな格好、」
「馬鹿、違うだろ。廃墟になった病院に白衣の幽霊とか出るだろ。アレだ、アレ。」
「あ・・ああ、そっか。」
「人を変態呼ばわりしやがって。お前の頭の方が変態だ。バーカ。」
「ちょっと、さっきから馬鹿とか変態とか何度も言わないでよ。」
「お前が俺を変態だと言ったんだ。」
「だって跡部がイヤラしそうな顔で言うから。」
「俺のどこがイヤラしそうな顔だって?もう一度、言ってみろ。」
「その口元っていうか」
「もともと色っぽい口元って言われてんだよ、俺は。」
「なに、ソレ。色っぽいじゃなくて、意地悪っぽい口元の間違いでしょう?」
「なぁんだ。ふたりは仲直りしたんだ。」
のんびりしたジローの声に言葉が止った。
お互いがマジマジと顔を見合い、先に我に返ったらしいが頬を赤くして俯いた。
「最近、ふたりの喧嘩を見てなかったからさ。ホントに喧嘩してるのかなって。
喧嘩しないから喧嘩してるって変だね。でもさ、喧嘩してる時のふたりって仲良しさんだから。
あ、亮ちゃんだ。うわっ、死神になってる!見てこようっと。」
「あ、ジロちゃん!包帯!」
言うだけ言って宍戸に向かうジローに再びは引っ張られる。
引っ張られながらも、は少しだけ俺を振り返った。
ピンク色の頬をして、俺を見ると困ったように目を伏せる。
その仕草をみたら期待しちまうだろう。
それとも狙って誘ってるのか?
ま、そんな器用な女には見えないがな。
自然と零れる笑顔を溜息で誤魔化した。
俺の中のXデーは近そうだぜ、。
そろそろ覚悟するんだな。
学園祭までは、あと五日だ。
俺様の恋『覚悟しな』
2007.06.14
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