俺様の恋7 『逃げれば追うぞ』










バシッと目の前に分厚いコピー用紙が束で置かれる。
顔を上げれば不機嫌を隠しもしないが俺を睨みつけていた。



「なんだ?」
「監督から。じゃ、渡したわよ。」


「ちょっと待て。」



俺の言葉を無視して背を向けるの肘に手を伸ばしたが振り払われた。
そのまま逃げるように教室を飛び出していく背中に舌打ちする。


教室にいた宍戸が目を丸くして近づいてくると「なんだ喧嘩でもしたのか?」と訊いてきた。



喧嘩?喧嘩した覚えはねぇな。
ただ、好きだと告げただけだ。それを、あの女ときたら・・・



あれからはずっと怒っている態度だ。
俺を見るたびに忍足いわく『親の仇でも見る目やなぁ』で睨んでくる。
言葉はトゲトゲしくて必要最低限のことしか発しない。


いい加減に心の広い俺だって我慢の限界が近づいてきていた。



そんな時、練習の合間に洗濯物のカゴを抱えて裏へ向かうの背中を見つけた。
俺は近くにいた鳳に簡単な指示を出しての後を追った。


追いながら思うのは、俺様が一人の女を追い掛け回すなんざ信じられないということだ。
人間ってのは逃げられると追いたくなる習性があるんだろうが、今までの俺は逃げる女を追ったことなんかなかった。
まぁ逃げる女自体がいなかったせいもあるんだろう。
情けなくて嫌になっちまうが、ここで諦めるのは俺様の流儀に反する。


プレハブ倉庫の角を曲がれば、が洗ったタオルを干していた。
太陽の日差しを目一杯に浴びて気持ち良さそうにタオルを並べる姿が眩しい。
しなやかな身体が無駄なく動くのに俺は見惚れた。



どこからか蝶が飛んできて、干したタオルの上を舞った後に俺の方に向かってきた。
その動きを目で追ったの視線が俺に留まった。
途端に浮かんでいた柔らかな笑顔が凍りついた。


そして俺は気づく。
の瞳は俺を見て怯えていた。


怖がらせちまったのか。


性急過ぎる告白と接触がを怯えさせてしまったのかと思い至った。
初心な奴だと思えば、こっちは余裕が出てくる。
男慣れしていないのも嬉しくなって、俺の苛立ちは急速に鎮まっていった。



「今日は天気がいいから洗濯物も直ぐに乾くな。」



俺はとの距離をあけたまま、視線を空に向けて軽く話しかけた。
が緊張している空気が伝わってくるが、それには気づかないフリだ。



「な・・なんの用事?」



喧嘩腰の物言いだが、それが虚勢だと分かれば腹も立たない。
俺は努めて穏やかに言葉を選ぶことにした。



「お前と話がしたくて追ってきた。」
「わ、私は話すことなんかないもの!」


「なら何も言わなくていいさ。洗濯物でも干しながら俺の独り言を聞けばいい。」
「跡部?」



俺は空を見上げる。
勝利したコートで見上げる青空が一番だが、こんな穏やかな空も嫌いじゃない。



「この前、お前に言ったことは嘘じゃねぇ。俺は本気だ。
 お前は信じちゃいねぇだろう・・・というか、俺でさえ驚いてるんだから無理はないな。

 けど、俺はこういう男だから何事もおざなりには出来ないんだ。
 どんなものでも自分が欲しいと思ったものは全力で取りにいく。

 俺が下手な小細工や誤魔化しが嫌いなのはお前も知っているだろう?
 だから、お前にも正面から行かせてもらうぜ。」



青空から視線をに戻した。
は干しかけのタオルを握ったまま震えるような目で俺を見ていた。


真っ直ぐに俺もの目を見た。



「俺はお前が好きだ。」



上空を飛行機のジェット音が響いていく。
瞬きも忘れたようなの表情に、俺はほんの少し微笑んで「それだけだ」と踵を返す。
俺らしくもないベタな告白だが、気持ちはスッキリしていた。


は俺を追ってこなかった。
ま、そんなもんだろう。
焦らなくてもいい。ゆっくりと俺を好きになればいいんだ、そう思う。





「おい、跡部。がコレをって頼まれたぜ。まだ喧嘩してんのか?」
「別に。」



窓際の席で本を読んでいたら宍戸が部誌を差し出してきた。
いつもなら嫌味の一つでも言いながら直接手渡してくるノートを宍戸に頼んだは俺を避けているらしい。


まったく。
本当に面倒くさい女だ。


部活中も俺を避けまくり、必要なことがあって声をかけても決して俺の目は見ない。
俯き加減にウンウンと頷く姿は何やら恥ずかしがっているようで可愛らしく見えないこともないのだが。
ま、ツンケンして喧嘩腰でこられるよりはマシか。


ジローや忍足たちと変わらぬ笑顔で話しているのに、俺が近づくだけで逃げ出すのには腹が立つけどな。





「跡部とが喧嘩してるとやりにくいぜ。跡部、とにかくお前が謝ってこいよ。」
「俺は謝らなきゃなんねぇようなことをした覚えがない。」


「跡部のことだからさ。自分が気づいてないだけで、ぜってぇの怒りをかうことしたんだって。」



部室で帰り支度をしていたら宍戸と向日に文句を言われた。
勝手にが俺を避けて逃げてるだけだ。



「跡部。これ、に頼まれた。」



遅れて部室に入ってきた忍足がファイルを俺に渡す。
またかよと内心で溜息をつきつつ、ファイルの中身に目を通し始める。



「なぁ、侑士も言ってやれよ。に謝れって。」
「謝る?誰がや?」


「跡部だよ。が跡部を避けてるのって、ぜってぇ跡部がなんかしたんだって。」
「ああ、そのことか。それはしたんやろうけど・・・」


「忍足!」



事の真相を知っている忍足に睨みをきかす。
だが忍足は食えない笑顔を浮かべて、ロッカーを開けながら何でもないように言った。



「喧嘩とは違うみたいやで。けどなぁ、なんかヤバイ気がしてんねん。」
「ヤバイって?」



俺もお前の口の軽さがヤバイ気がしてるぜ。
いざとなったら殴ってでも黙らせるしかないかと頭を掠める。



「俺ら、跡部に負けそうや。」


「はぁ?」
「なに言ってんだ!俺は今度こそ跡部に勝つぞ!卒業までには絶対に負かしてやる!」


「いや、テニスの話やないんやけどな。」


「俺、メシを食べる早さは跡部に負けたことないぜ?」



意味の噛みあってない会話の中、忍足が俺を横目に見て笑った。
俺は言葉の意味を考えて、ふんと鼻を鳴らす。


相変わらずの曲者だ。
コイツが何を考えているかなんて、いまだにチッとも分からねぇ。



「ま、とにかくには・・・逃げたら追われるでと言うといたけどな。」



クッと俺は声を出して笑った。
まったくだ。



笑い出した俺に宍戸や向日が不思議そうな顔をする。
自分から言い出した忍足のほうが顔をしかめると溜息と共に頭をかいた。



そうさ。
俺に見初められちまったのが運のツキ。


逃げれば追うぜ、どこまでもな。





















俺様の恋『逃げれば追うぞ』

2007.04.03




















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