お慕いしております  続・真田編 〜前編〜











新しい年を迎えての茶会。
華やいだ城内で多くの者たちが談笑する。
以前は城内で働く男たちだけの格式ばった茶会であったが、
今年は愛妻家である幸村の提案で、それぞれが妻を伴っての茶会となった。


独り者には少々さみしい茶会になるかと思われたが、
妻の代わりに年頃の娘を連れてくる者などもいて、いつの間にか見合いが始まっていたりする。


新年を迎えて浮き立つ心のままに、城内は例年になく賑わっていた。





そんな中、は緊張した面持ちで人を探している。
どうしても会いたい。いや、会わなくてはならない人を探していた。



「これは姫様。お久しぶりでございます」



に気付いた者たちが丁寧に頭を下げていく。
今のは家臣の妻でしかないのだが、いまだ『姫様』と呼ばれる。
姫など自由もなければ面倒ばかりで、己の境遇を恨んでさえいただったが、
今は心から慕う男のもとへ嫁ぐことができて幸せに暮らしている。


幸せすぎるほどに幸せ。
だから余計に申し訳なく思う。
己の幸せの裏で、不幸にしてしまったかもしれない人がいるのだ。



『許嫁であった方に申し訳ないとお思いになるのは分かりますけど、今は柳殿のもとへ嫁がれていらっしゃるのでしょう?
他の方との新しい暮らしを始めていらっしゃる方が謝罪を望んでいるとはかぎりませんよ』



兄の正室である義姉は少し考えてから、そう答えた。
は唇を噛んで頭を横に振る。



だって知っていた。
名までは知らなくても真田に親が決めた許嫁がいることを。
けれど、あの時の己は自分のことに精一杯で、真田の許嫁のことにまで思いが至らなかった。
姫であるを覚悟をもって望んでくれた真田の苦悩にさえ気づいていなかった。



『真田殿とはお話しされたのですか?』



義姉の問いかけに、は力なく頷いた。



『すべて己の責ゆえ、お前が気に病むことではないと』



の言葉に小さく頷いた義姉は宥めるように言った。



『ならば、真田殿にお任せなさい。あの方は誠意を尽くされる方ですよ』と。



城への届け物を口実として、相談をしに義姉のもとを訪ねた時の話だ。
聡明な義姉には止められたのだが、やはり気がすまない。
幼少のころから『言いだしたらきかない頑固者』と母を嘆かせただ。


やはり罵られようとも謝罪をして、己なりのけじめをつけたい。
そう結論に至っただったのだ。



先ほどから挨拶の合間に目的の人物を探しているのだが、よく分からない。
探そうにも相手の顔を知らないのだから当然だ。
柳の姿も見当たらないし、ひょっとしたら茶会には来ていないのかもと心配になってきた。


ふと暇そうに欠伸をしている人物が目に入った。



「赤也殿、こちらへ」
「げっ、姫様」



の姿をみとめるなり、露骨に嫌そうな表情をした赤也を手招きする。
城を抜け出す時など、警護につく赤也をよく撒いていたので嫌われているらしい。





「なんですか?変なことに巻き込まないで下さいよ。真田さんに拳骨食らいますから」



微妙に距離を置いた赤也が気に食わないが、こんな男でも役に立つなら使おうと思う。



「あなたは柳殿の奥方を知っていますか?」
「柳さんの?ああ。さっき、あちらに」



不思議そうな顔をしつつも赤也が振り返って指した先を目で追った時だ。
背後から落ち着いた声がした。



「我が妻に何か?」



気配も感じさせず脇で立っていた柳に、も驚いたが赤也が後ずさる。
そ、それではと慌てたように茶会へと戻ってしまった赤也を見送り、は気まずげに視線を逸らした。


は柳が苦手だ。
冷静沈着を絵に描いたような柳の感情は読みにくく、それでいて結構毒舌なことをは知っている。
穏やかに微笑んでいても、腹のうちでは何を考えているのか分からない。


そんな男のもとへ真田の許嫁だった人は嫁いだのだ。
それもが申し訳なく思う理由の一つだった。



「ご・・ご挨拶をしようと思って」
「それはわざわざ、ありがとうございます。で?」



丁寧に頭を下げてから、すかさず続きを促す柳の目は笑っているが誤魔化しを許さない。
こういうところが苦手なのだと、は怯みそうになった。
だが柳とて無関係ではなく、宙に浮いてしまった真田の許嫁を柳家の妻として迎えたのだ。
たちが成就させた恋の犠牲になったとも言える人物だった。




















お慕いしております  続・真田編〜前編〜

2012/12/15




















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