お慕いしております 〜柳編〜 番外編
「どうでございますか?」
着物の肩を直しながらが問う。
問われた柳は新調された着物の袖に触れ、軽く体を動かしてみてから一つ頷いてみせた。
「いいようだ」
ほっと息を吐き、は嬉しそうに微笑む。
「よくお似合いです」
顔に映りのよい落ち着いた藍色が柳に良く合っている。
仕立てたにとっても満足のいく出来栄えだった。
ふと何かに気づいた様子の柳が袖に顔を近づけた。
どこぞに具合の悪いところがあったのかと顔色を変えるを見て、柳は小さく笑う。
「の香りがすると思ってな」
柔らかな表情で言った柳は、そのまま傍らに立つの襟元に鼻先を寄せてきた。
思いがけない接触に慌てたが身を引こうとしたが、いつの間にか腕をしっかりと掴まれている。
「やっぱり、お前の香りだ」
「れ、蓮二様?」
「仕立ててくれた衣に、の香りがうつっている」
そう言って外では見せない甘い表情を浮かべるから、はもうどうしていいのか分からず赤くなるしかない。
「の香りがする衣を着ては仕事にならないかもしれないな」
考えるようにして柳が呟く。
確かに、女子の香りをさせて城に上がるわけにはいかないだろう。
気づかぬうちに香りをうつしてしまったことを詫びなくてはと開いた唇を柳の指が止めた。
「はやく帰りたくなって仕事が手につかなくなるということだ」
「え・・・」
本物の香りが恋しくなるに決まっているだろう?
誤解を解くように告げると、柳は再び香りを確かめるかのごとくの体を抱き寄せた。
が柳家に嫁いで二つの季節が過ぎた。
失意のまま嫁いできた頃には思い描けなかった穏やかな日々。
はじめの擦れ違いを反省した柳は、に言葉を惜しまない。
それは心に傷を負ったのことを思って、確かめられるものとして与えてくれる愛情だった。
つつまれて安心しきってしまえる場所。
柳の腕の中に抱かれたら、不安は嘘のように消えていく。
もう、は分かる。
柳の眼差しや名を呼ぶときの声の甘さ、触れてくる手の優しさから感じられる想い。
申し訳ないほど大事にされていると思う。
だからも返したい。
が夫を想う気持ちを何かにつけて伝えたいと思うのだ。
「はやく貴方様の子が欲しいです」
小さく呟いたの願いに、柳の瞳が大きくなる。
は腕の中から顔を上げて恥ずかしそうに続けた。
「蓮二様の子が・・・私は欲しいのです」
心から慕う貴方様の子だから。
暫し黙っての顔を見ていた柳が、ふっと表情を緩めた。
「ありがとう」
感謝の言葉を口にした夫は、とても大事そうにの体を抱きしめてくれた。
縁というのは不思議なもの。
去年の今ごろは名前しか知らなかった人の腕の中にいる。
なのに、どうだろう。
言葉に上手くできないほど愛しくて、幸せで、心が満ちている。
ありがとうは、の言葉だ。
こんな私を惜しみなく愛してくださって、ありがとう。
想いを込め、は広い背中に手をまわして柳を抱きしめた。
柳編 リクを下さった方に捧げます
2012/04/28
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