最後の告白 最終回










薄紅色の花びらがひらひらと踊るように落ちてくる。
小学校脇の小さな公園の桜は今年も変わらぬ姿を見せていた。


待ち合わせの時間より少し早く着いてしまった。
ともすると強張りそうになる顔に、意識して笑顔を浮かべる。
空を見上げれば、桜の花を透かして抜けるような青が広がり美しい。


君はどんな表情で現れるだろうか。










卒業式の日、ずっと胸に秘めていた想いを言葉にした。



「はい、いいよ。綺麗に撮れてるといいんだけど。」
「あ・・ありがとう。」



は俺の顔を見なかった。
だけれど無視もできないと思ったのだろう、友達に近付く背中から気配で俺を窺っているのが分かる。
なにも知らない友達にカメラを返してもらい、ぎこちなく振り返るに俺は笑顔を用意した。



「写真、俺に渡してもいいと思ったならメールしてくれ。
 ここに残るテニス部の誰かに渡してくれてもいい。そのうち会うだろうから。」



ウンと、気まずそうに君が頷く。



「困らせたい訳じゃないから。
 言っておかないと後悔してしまう気がしたんだ。 
 だから、まぁ気にしないで。」



の隣に立つ友達が何の話か分からずに首をかしげている。
明らかに動揺しているの様子に、俺なりの答えを見つけたが落胆はなかった。
白黒つけるのが全てじゃないと思うから、曖昧なまま終えることも俺たちの選択だ。



「あ、幸村部長!こんなところに居たんですか?遅いって、赤也が探してますよ。」
「探してくれたんだ、ありがとう。もう行くよ。」



背後から割って入ってきた後輩の声に、が何か言いたそうにしたが言葉にならなかった。



もう、いいんだ。



「じゃあね、。また・・・会おう。」



好きだと告げるより、また会おうと言葉にすることの方に勇気が必要だった。
それでも言えた自分に安堵して、俺は花束を軽く持ち上げて別れの挨拶をする。


未練も見せずに背を向けて、数歩足を進めた時、背中からの声がかかった。



「幸ちゃん、ゴメン!私・・」



ゴメン、か。



俺はゆっくりと振り返った。
視線の合ったは今にも泣き出しそうな顔をしているから、俺は笑うしかない。



大丈夫。答えは知っていたから。



「うん、分かってる。いいよ。」
「そうじゃないの。でも・・・ゴメン!」



俺は頷いた。
なんだかの方がフラレタような顔をしている。
迎えに来てくれた後輩を促し、俺はに笑顔を残して再び背を向けた。



それから後、俺は決して後ろを振り返らなかった。










真田は俺に何も聞かない。


いつの間にか大学は俺と同じところになっていて、人の隣で今後のトレーニングについて語っていたりする。
それよりも出された課題をやりたいのだが、真田が俺を放っておいてくれない。


卒業後もなんだかんだと忙しく、あっという間に桜が咲いてしまった。



そんな時だ。
無理矢理、頭の隅に追いやっていたからメールがきた。



『幸ちゃん、元気?写真が出来ました。
 お花に囲まれた美しい幸ちゃんの隣で、間抜け面をさらしている自分が切ないです。
 ところで会える時間はありますか?どうせなら直接渡したいと思って。
 都合のいい日を教えてください。』



今までと何一つ変わらないメールが嬉しかった。
だから俺も変わらない調子で返信し、簡単に二人で会う約束ができた。



そして今、俺はを待っている。



「幸ちゃん!!」



たった数週間ぶりなのに、ひどく懐かしく思える声が俺の名前を呼んだ。
目を閉じて、その声の余韻を抱きしめてから振り返る。







君の名を呼ぶ自分の声が優しくて、自分でも驚いてしまった。
はそれに気付くこともなく、変わらない笑顔で駆けて来てくれる。
俺の前まで走ってくると弾む呼吸をなだめる様に胸を押さえた。



「遅れるかと思って走ってきたら、ああ・・しんどい。」
「それは運動不足。ちょっと鍛えた方がいいんじゃない?」


「うわっ。幸ちゃん、またパワーリストしてる。」
「してないと真田が怒るんだ。」



真田の名前を出してから『シマッタ』と思ったけれど、は気にもせず楽しげに笑った。



「そうなんだ。真田君も元気?」
「もちろん。正直、元気すぎて迷惑なほどだよ。」



声をあげて笑ったは、視線で公園のベンチへと俺を促した。
数か月前までは帰り道の公園で、よく肩を並べていた。
他愛ない話をして、ちゃんと友達が出来ていた俺達。


俺は僅かに緊張して、微妙な距離を意識してベンチに腰を降ろす。
は何でもないように腰をおろし、カバンから封筒を出してきた。



「ハイ、写真。幸ちゃんの写真うつりの良さに腹立たしさを感じる出来だったよ。」
「そう?そういえば誰かにもそんなこと言われた事があるなぁ。」



軽く軽くと言葉を返しながら開いた封筒には、二枚の写真が入っていた。


一枚は告白する前の俺達。二人とも柔らかな笑顔で並んでいる。
二枚目は告白した後の俺達。


ふっと笑ってしまった。



、変な顔。」
「だって・・・」



は頬を紅潮させ、眉をハの字にした作り笑いで写っていた。
よほど困ったのだろうと思うと、なんだか可笑しくて笑ってしまった。


俺はの言葉を待った。
今さら俺には言い繕う言葉もないし、また会ってくれただけで嬉しい。



「突然あんなこと言うから、頭が混乱しちゃって。」
「写真を撮り終わってからにすれば良かったね。」


「そ、そういう問題じゃなくて。
 その・・・気付けなかった事を後悔したっていうか、もう少し早く分かってたらって。」
「え?」



思いがけない言葉だったから驚いた。
は靴の爪先を見つめながら、足元の土を蹴る。



「そしたら・・・もっと考えて、学校にいるうちに何とか出来たのにと思って。」
「何とかって、何を」



急にが顔をあげたから、思わず仰け反りそうになった。
久々に近くで見る君は心臓に悪い。


は恐れることなく俺を真っ直ぐ見て、唐突に頭を下げる。



「ゴメン、幸ちゃん。」
「あ・・・いや、謝らないでいいよ。それされると俺も困るし。」


「私、鈍感で。ただ、幸ちゃんに甘えてた。
 きっと、すごく嫌な思いをさせてきたと思うから。」


「いや、いいんだ。それより本当に謝られると困る。」



謝られると居た堪れない。
それなら全く無かったことにされた方が、まだマシだ。


俺の顔を見たは、本気で嫌がっているのを察したのだろう。
分かったと頷いて、大きく息を吐いた。



「とにかく私も色々と考えたの。」
「そう。」


「その写真見てたら・・・いつも胸が苦しくなる。」



の声が震えるのに気付いて、俺は緊張した。
自己満足の告白が、の心に大きな負担をかけたのかと後悔が押し寄せてくる。


だがは小さく笑って空を見上げた。



「幸ちゃんがあんまり優しい顔してるから、胸がイッパイになるの。
 写真を撮るとき、最後だから嘘はつかないって幸ちゃんが言った。
 あの時の声を思い出すたびに苦しくて、悲しくて、
 だから・・・本当はもっと早くに幸ちゃんと会いたかった。」



 とても会いたかったんだ、とは繰り返した。



が視線を空から俺に戻した。
その瞳には涙が溢れ、春の木漏れ日が輝いている。


ひとつ、輝きを残して綺麗な雫が頬をすべり落ちた。



「たくさん考えて、行き当たった気持ちなの。私ね・・・」





  『多分、幸ちゃんが好き。幸ちゃんに会えないのは嫌なんだ。』





多分がついているのが可笑しかった。
可笑しいのに胸の奥が熱くなる。



「俺もだよ。ありがとう、。」



二枚の写真を手のひらに包み、掠れそうになる声で何とか言えた。
が零れる涙を拭って、恥ずかしそうに微笑む。



君の髪には、いつの間にか薄紅色の花びらが幾つも付いていた。


怖がらせないよう、そっと手を伸ばせば、
俺の手の中に今・・・大好きな桜の花びらが落ちてきた。




















最後の告白 最終回 

2008/2/3




















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