卒業式の朝。
俺は机の上に置かれた空っぽのペットボトルを横目にネクタイを締めた。
その隣には俺を支えてくれた仲間たちの写真。
どれも俺には大事なものだ。
最後の告白 8
シンと静まったホールに一人一人の名前が呼ばれる。
テニス部員の名前が呼ばれるたび、彼らの背中を見つめた。
一度もレギュラーになれなかったものや、準レギュラーで俺たちを支えてくれたもの。
彼らがいてこそ強い立海があった。
そして俺と共に戦ってくれた仲間たち。
柳の柔らかな声。
丸井の明るい声。
仁王の癖のある声。
柳生の真面目な声。
ジャッカルの低い声。
そして、凛とした真田らしい声。
耳に馴染んだ声たちが記憶の中で俺の名前を呼ぶ。
『おい、幸村』と。
「。」
「はい」
君の声がホールに響いた。
女のコにしては少し低めだけれど俺は気に入ってる。
みんな、大好きだよ。
共に居られた日々は俺にとってかけがえのないものだった。
それぞれが自分の目指すものを胸に旅立つ。
行く道は違っても、俺の心にある想いは変わらない。
だから寂しくはないんだ。
決して永遠の別れじゃないから。
後輩たちが作ってくれた花道は校門まで延々と続いている。
抱えきれないほどの花束を渡されて俺の視界は色とりどりの花で覆われる。
甘い香りに包まれながら君を探せば、ピンクのスイトピーに紛れて君の横顔が見えた。
「幸村部長、この後の場所なんスけど」
「うん、分かってるから大丈夫。」
いまでも俺を部長と呼ぶ現部長の赤也に微笑み、真田に視線を向けた。
真田は隣で俺の視線を追っていたのだろう。
何も訊かずに「先に行って待っている」と言ってくれた。
そのままテニス部のメンバーは後輩たちが準備してくれたパーティー会場へ移動を始める。
俺は皆の向かう先とは別に、ひとりで歩いて行く。
途中で写真を撮らせてほしいと頼まれたり、握手を求めてくる下級生たちに囲まれたりしつつも君に近づいていく。
友達と笑ってるの横顔は、小学生の頃の面影を残しながらも綺麗な女性のそれなっていた。
「!」
少し離れた場所から人に揉まれつつ名前を呼んだ。
気付いたが探すように首をまわし、俺の姿を見つけるとパッと笑顔を浮かべる。
ウン、その笑顔が大好きだ。
君が好きだよ。
きっかけも思い出せない俺の想いだけど、ずっと大事にしてきたんだ。
「ちょっと、いい?」
ざわめきの中へ声を投げた。
は笑顔で頷くと、話していた友達に声をかけて俺の方に向かってくる。
人をかき分けながら手にしたデジカメを振ってみせると、「写真、撮ろう?」との唇が動いた。
俺はが自分に向かってくるのを静かな鼓動で待った。
不思議だ。大事な試合の時も、そうなんだ。
究極に集中した時は、反対に鼓動が静かになる。
覚悟は決まった。
三日前は告白しようと思い、昨夜はやめようと思っていた。
朝は「やっぱり・・・」と悩み、さっきまで答えを出せていなかった。
揺れる心も最後の最後には決まるもんだね。
「幸ちゃん、すごい花。あ〜あ、私も部活やってれば良かった。」
「いいだろう。分けてやろうか?」
「いらないよ。でも一緒に写真を撮ろう?お花に囲まれて綺麗に写りそう。」
「そうだね。」
が友達を呼び、俺たちは卒業生の花道から少し外れて肩を並べた。
カメラを向けられて、が前髪を直す。
「もうちょっと、ひっついて。」
カメラを持った子が片手で促すのに、は躊躇いも見せずに俺の右腕へと身を寄せた。
鼓動が少しだけ跳ねて、それから幸せな気持ちになる。
「写真さ、絶対に焼き回ししてくれよ。」
「もちろん。春休みのうちに一回ぐらい会おうよ。」
「いいよ・・・、が望んでくれるなら。」
妙な言い回しになって、が不思議そうに俺を見上げた。
「じゃあ、撮るよ。せーの、ニコッ!」
シャッターを切る音が僅かにして、この一瞬が切り取られたのを知った。
今がどんどん過去になっていく。過ぎてしまえば戻らない。
だからこそ今が大事なんだ。
「念のため、もう一枚撮っとくね。」
「ありがとう。ほら、幸ちゃん。花で麗しの顔が隠れちゃうよ。」
俺の口元を覆う花たちをが手を添えて下げてくれようとした。
温もりを感じられそうなほど近付いたの耳元。
咄嗟に俺は囁いていた。
「好きだよ。」
の動きが止まる。
覚悟もなく告白してしまったけれど、後悔はない。
鼓動が少し速くなっただけ。
カメラを持った子が縦に撮るか、横に撮るかと尋ねているけど俺たちは答えられない。
なんとも言えない間を経て、がぎこちなく顔をあげた。
目が『なんて言った?』と、口にするには聞き間違えかと迷うように訊ねてくる。
なんて面白い顔をしているんだろう。
目を丸くしているの顔を見て笑ってしまう。
「やっぱり横がいいかな。じゃあ、撮るよ〜」
あ、ウン。と明らかに動揺したふうで顔を前に向けた。
その耳が赤くなってるのに気付いて、ついつい小さく声をたてて笑った。
それに気付いたが横目で俺を睨む。
「変なこと言って、からかわないで。」
「からかってないよ。」
「嘘。だって・・」
「じゃあ、撮ります。せーの」
俺たちはカメラに向かって笑顔を作る。
冗談と取ったらしいが俺の肘を突いてきた。
ゴメンね。俺、本気だから。
「最後だから嘘はつかないよ。」
「ニコッ!」
ああ、良く考えたら告白した顔が写真に残るのか。
ちょっと失敗だったな。
俺の告白に君はどんな顔をして写っているだろう。
できた写真を手にする時、俺たちの関係はどうなっているんだろうね。
笑って会えたらいいな、そう思うけど。
最後の告白 8
2008/02/01
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