最後の告白7










卒業式を前にして、立海伝統の卒業生による大掃除があった。
木枯らしの中、屋内外に分かれ半日かけて掃除をする。
運悪く中庭の掃除に割り振られてしまった俺は、ブレザー姿で枯れ葉を掃いていた。



今日は天気がいい。
雲ひとつない春近い空を見上げれば、二階の窓ガラスを拭く柳たちがいた。
外は大変だな等と同情されつつ、俺は黙々と枯れ葉を集めた。



「幸ちゃん、コート着てこなかったの?」



がサンタクロースのように大きなビニール袋を引きずってきた。
中には枯れ葉がギッシリと詰まっている。



「真面目に掃き掃除してたら暑くなってきたよ。」
「不真面目だから寒いのかなぁ。」



はブレザーの下にカーディガンを着こみ、それでも寒そうに胸元をかき合わせている。
秋より長くなった髪が柔らかく肩で揺れていた。



「向こうの渡り廊下から、二年生たちが写真撮ってたよ。」
「写真?何の?」


「幸ちゃんのだよ。
 みんな、幸ちゃんが外部に行くの知ってるから、最後のシャッターチャンスだと思って必死なんじゃない?」



見れば渡り廊下には下級生たちがカメラを持って集まっていた。
俺と目が合うと悲鳴にも似た声を上げて逃げていく。



「逃げちゃった。写真ぐらい別に良かったのに。」
「さすが立海のプリンス、太っ腹。」


「太っ腹ってわけじゃないけど。
 彼女たちの思い出になるなら、それもいいかなって。撮られて減るもんじゃないしね。」



ふーんと、は考えてから瞳を細めた。



集めた枯れ葉を体育館の裏に持っていくというの手伝いをして、重くなったビニール袋を二人で持つ。
二人きりで過ごす時間は、もう残されていない。
なにか話したいと思うのだけど、口から出てくるのは他愛もない事ばかりだった。



「ねぇ、幸ちゃんは好きな人いないの?」



唐突にが訪ねてきて、体育館を前に俺はビニール袋を落としそうになった。
真意を問いたくて様子を窺えば、の視線の先に肩を寄せ合い写真を撮る男女がいた。
ホウキ片手に彼女の肩を抱いてカメラに納まる彼を周囲の友達が冷やかしている。



「幸ちゃん、モテるのにカノジョ作らないよね。」
「モテた覚えはないけど。」


「そんなこと他の男子の前で口走ったら大変なことになるよ?」
「そうかな。モテたとしても、好きな人にモテなきゃ意味ないしね。」


「幸ちゃん、好きな人いるの?誰?どんな人?」
「・・・教えない。」



何が悲しくて、目を輝かせた当の本人に話して聞かさなきゃならないんだ。
ツンと無視すれば、よけいに楽しそうな顔をしたが俺を覗き込む。


知らないということは残酷だね。
だからと言って責めもできないけど。



「幸ちゃんは優しいからね。きっと、おとなしくて可愛いコだと思うんだけど?」
「結構図太くて、大口開けて肉まんを食べるようなコだったら?」


「悪かったわね。図太いうえに、肉まんを大口で食べて。」



ドキッとした。
寄せる想いに気付かれたかと思ったけど、は自分が俺の好きなコに繋がっているなんて考えないようだ。
俺の零した言葉を嫌みだと受け取り、顔をしかめて舌を出す。


ほっとするのと同時に湧いてくる落胆。
こんな遠まわしの方法で何をしようというのか。



「あ、真田君だ。」



明るい声で俺に告げたの向こうでは、大真面目な顔で枯れ葉をビニール袋に集めている真田の背中があった。
後ろからでも直ぐに真田と分かる、ピンと伸びた背中をは眩しそうに見ている。



「声、かけてやろうか?」
「え?ああ、いいよ。なんか作業中だし。」


「まだ・・・好きなんだ。」



分かりきってたことなのに確認する様なことを訊いてしまった。
途端に後悔するのだけれど、もう遅い。


は俺に視線を戻すと、なんだか照れくさそうな顔で笑った。



「そりゃ、急に嫌いとかってなれるもんじゃないしね。」
「そうだね。」


「でもさ、なんかスッキリしてるよ。
 言ってなかったら、こんな気持ちで卒業式は迎えられなかったと思う。」


「そうか。」


「ちょっと辛かったけど・・・」



きっと、良かった。



そうは俺に言った。
俺たちは真田に声をかけることなく、大きなビニール袋を引きずるようにして運んだ。
しつこくは俺の好きな人を訊きたがり、俺は適当にはぐらかす。



でも、ひとつ分かったことがある。


俺は色んな理由を並べて誤魔化してきたけれど、ただ傷つくことが怖かったんだと思う。


は自分が傷ついて、その痛みを知る人間だ。
俺が正直に想いを告げても、戸惑いはあるにしても友情を壊すようなことはしない。


きっと困った顔を見せながら、正直に自分の言葉で断ってくれるだろう。
そして次に会う時には、今までと変わらない笑顔を見せてくれるはずだ。


そう。それは、真田がに向けた態度と同じように。


俺は自分だけが傷つかない場所にいて、ただ愛されないことを悲しんでいた。
本当に大事なことは口にしなきゃ伝わらないのにね。



「せーの。」



ふたりで声を合わせ、山盛りになったゴミ捨て場にビニール袋を投げる。
あ、と思った時には底の穴から枯れ葉がバラバラと落ちてきた。



「げっ。幸ちゃん、底に穴が開いてるよ。」
が校庭を引きずるからだろ?俺はちゃんと持ち上げてた。」


「だって身長差があってさ。」
「ホラホラ、早く集めてね。お疲れ様。」


「幸ちゃん、待ってよ!」



喚くを振り返り、あっかんべーとしてやった。
この一瞬も全てが俺の宝物になる。



君のいる風景を俺は忘れない。




















最後の告白 7

2007/11/13




















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