最後の告白 6









は早々に内部受験をして立海大への進学を決めた。


外部を受験する俺たちは、ここからが正念場だ。
立海に残る丸井、ジャッカル、仁王の他は否が応でも厳しい受験態勢に入っていた。



「ここのコートは整備が行き届いているな。」
「真田、俺たちはコート見学に来たんじゃないぞ。」



キャンパスの雰囲気を見に来たのに、真田はテニスコートを見つけると動かなくなってしまった。
熱心にコートを見つめる真田の隣に立ち、俺も眩しい緑に目を細める。



「打ちたいな。」
「真田は毎週末打ってるんだろ?」


「違う。お前と打ちたい。」



真田の真剣な声を茶化すこともできず、俺は肩をすくめた。
首に巻いたマフラーに鼻まで埋め、無人のコートを眺める。


確かにボールを追う夏の日が恋しかった。










は公園のベンチで無邪気に肉まんへと食いついた。
真田の前じゃ絶対に見せないだろう大口に呆れる。



「真田君と大学を見に行ったんだって?」
「うん。真田ときたら、構内よりテニスコートの見学に力を入れてたね。」


「真田君らしい。」
「まったくだよ。ついでに打ちたいと我儘言いだして、翌日には寒空の下で相手をさせられた。」


「テニスしたんだ。真田君、喜んだでしょう?」
「あれは受験勉強そっちのけで体を鍛えてるとしか思えないね。」



は遠くを見るような目をして楽しそうに笑った。
君の眼差しの先にはラケットを握る真田がいるんだろう。


人を好きだと思う気持ちは簡単に変わらない。
それは俺も同じだから分かるよ。



「幸ちゃん、体は大丈夫なの?」
「まぁね。」



久々に体を動かした後の倦怠感には愕然としたが、真田とのテニスは楽しかった。
先週の定期検診もパスして何とかなっている。



「二人で同じ大学行くんだ。羨ましいな。」


「まだ決まったわけじゃないよ。学部だって違うしね。
 いくつか受ける大学の中の一つが真田と一緒だったから見学に行ったんだ。」


「でもさ、私なんか絶対に一緒にはなれないよ。」



そう言っては空を見上げ、座っていたブランコを揺らした。
俺はひっそりと笑う。


それは俺も同じだよ。
俺だってとは絶対に一緒になれない。
君の進路に合わせれば、いつかは振り向いてもらえるチャンスがあるかもしれないと思う。


それでも俺には俺の目指すものがあるから一緒には行けない。
どんなに寂しくてもね。



「会うが別れの始まりって言うだろう?だけど別れて終わりじゃない。
 出会って共に過ごした時間があれば、その時間が大事な人を繋いでくれるよ。」
 
「そっか。・・・幸ちゃん、」
「ん?」


「詩人だね。」
「・・・帰る。」



俺が立ち上がると、慌ててが後ろから腕を引っ張る。
待ってよ、冗談だからと笑う君をわざと怒った顔で引きずり歩く帰り道。
空には一番星が輝く。


俺は消えていく温かな時間を惜しみながら胸に仕舞った。










三年の冬は駆け足で過ぎていく。
クリスマスも正月も予備校の冬期講習で消えた。


真田ときたら予備校まで鉛を手足に装備して走ってきたりする。
その強靭さをからかいつつ、真田の強さに憧れもした。


なのに俺の嫉妬など気にも留めず、何故か真田は俺を追う。
テニスにしても、勉強にしても、どうしてもお前が気になるのだと真田は笑った。



俺はから貰った年賀状をカバンに忍ばせて受験した。
年賀状には手書きの派手なお守りが描いてあり、絶対合格の文字が記されている。
色鉛筆で力強く何重にも書かれた合格の文字を見れば、が机に向かってる姿が目に浮かび元気が出た。
これは親から、祖母から、親戚からと真田が次々と胸ポケットから出すお守りより効き目があるはずだ。


の友情に感謝しつつ、俺は全ての受験を終えた。


次々に合否が手元に届く。
合格の報告をしに登校すれば、内部進学組は変わらない学校生活を過ごしていた。



持久走のタイムを計っているグラウンドの脇を通れば足が止まった。
先に進んだ真田が振り返り、俺を見てグラウンドに顔を向ける。


直ぐに見つけてしまうのは君の姿、それはもう習慣とも言えるだろう。



「このままでいいのか?」



俺が誰を見ているのか分かったのだろう真田が問いかけてくる。
はちっとも真面目に走ってなくて、隣のコとお喋りできるほど余裕だ。
すでにトップとは一周遅れらしいが笑っている。



「いいんだ、今は。」


「今は?」
「友達だから。今は、いい。」


「お前がそれでいいのなら、いいが。・・・先に行くぞ。」



真田が俺を置いて歩きだしても、俺は木枯らしが土を舞いあげるグラウンドを見ていた。
土が目に入ったのだろうか、長袖のジャージで目をこすったが顔を上げて俺に気付いた。


パッと上がった手が大きく振られる。
の満面の笑みに手を振り返せば、後ろから体育の先生が怒鳴っていた。
ヤバイと表情に出したが慌ててスピードアップする姿に笑みがこぼれる。


ちょっとだけ真田がいなくてよかったと思ってしまった。



あと何度、こんな君の姿を見られるだろうか。
残った時間で交わせる言葉は幾つだろうか。



君に告げる最後の言葉は決めているけれど、その日が近づいてくるのが怖い。



出会って共に過ごした時間が俺たちを繋いでくれる。
それは祈りにも似た希望だ。




















最後の告白6  

2007/11/06




















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