最後の告白 5










翌日、検査を終えて病室に戻ってきたらが丸イスに座って窓の外を見ていた。



「今日も来たんだ?よっぽど暇なんだね。」


「ふられた。」



ペタペタと鳴ってたスリッパの音が止まる。
は窓の外を眺めたままで、俺を振り向かない。



「ふられたって、どういうこと?」
「昨日、真田君にふられた。」



気を取り直して問い返せば、は簡潔に答えを返してくれた。
真田の奴、と舌打ちしたい気持ちでの隣に並ぶ。
酷く気落ちしているのだろうかと顔を覗き込むこともできず、風で膨らむ白いカーテンを避けて窓の外を見た。



「その勇気がスゴイ。」


「勇気も何もないよ。緊張して何か話さなきゃと思うのに話題がなくてさ。
 あまりの気まずい雰囲気に耐えきれず、幸ちゃんの話をしたの。」


「なにそれ。俺の何を?」


「小さい時は色白で女のコみたいだったとか。
 トカゲの尻尾を摘まんで追いかけたら半泣きで逃げたとかさ。」


「他に話すことがあるだろう?」



思わずの顔を見下ろせば、案外平気な顔で笑っていてホッとする。
は風で揺れる髪を手で押さえ、俺を見上げた。



「なんかさ、二人で幸ちゃんのこと話して盛り上がっちゃった。」
「・・・お役に立てて嬉しいよ。」


「楽しくて、嬉しくて、」
「うん」


「こんな時間が、ずっと続いたらいいなって思えて。」
「うん」



笑いながら言葉を口にするの瞳が潤んできていた。
瞳に陽射しが反射して、溢れてくる涙が輝く。



「だから・・・よかったらお付き合いしてくれませんかってお願いした。」
「うん」


「できないって、言われた。」



溢れた涙が頬を滑っていく。
それでもは笑いながら、俺との視線を逸らさなかった。



「とても大切に想っている人がいるんだって。
 その人のことしか考えられないから付き合えないって、ちゃんと謝ってくれた。」


「そう。」


「だから・・・もういいの。」



うん。
俺は頷いて、の頭を抱え込むようにして抱きしめた。
子供みたいに俺にしがみついたが声を上げて泣く。


ヨシヨシと頭を撫でて、俺はに『えらかったね』と囁いた。





その夜、俺は消灯後の待合室で真田に電話した。
真田も覚悟をしていたのだろう。


開口一番で『俺はお前には謝らんぞ』ときた。



「お前、好きな人はいないと俺に言ったじゃないか。」
『好きな人はいない。だから嘘はついてない。』


「だってに」



そこまで言って、気がついた。
真田の言う『大切に想っている人』って、誰だ?



「馬鹿、俺には気を遣うなって」


『気など遣っていない。
 好きな人はいないし、だからといって誰でもいいから付き合おうとも思わない。
 それが俺にとって大事な人間の想い人なら尚更だ。』


「それにしたって、」



それ以上、俺の言葉は続かなかった。










三日ほどして退院した俺は、暫く自宅安静と通院をしてから学校に戻った。
クラスメイトに加え報道部まで集まり対応に疲れきった頃、が俺の机に近づいてきた。


病室でが大泣きした後もメールの遣り取りは続けていたが、会うのは久し振りだ。



「なんか、疲れてるね。」
「元気になって出てきたはずなんだけど、半日で疲れたよ。は?」


「これがですね、思いのほか元気なんですよ。」
「ふーん。なんだ、元気ならいいか。」


「なに?」
「お見舞いにも来てくれたし、何か奢ってやろかと思ったんだけど。」


「いや、実はすごく落ち込んでてね。」



過剰な演技で辛そうな顔をするに噴き出してしまう。
なんだ。本当に大丈夫そうで、安心した。



「いいよ。何がいい?」
「ホントにいいの?うわぁ、何にしよう。できるだけ高いモノがいいな。」



真剣に考えてるを見て俺も嬉しくなった。
平気なわけはないだろうけど、それでも明るく笑えるの気持ちが救いだと思う。


心の中だけで『今は俺が傍にいてあげるね』と呟く。
と一緒に過ごせるのも残り半年。



俺は外部の大学を受験することに決めていた。





内部進学の試験が始まる頃になって、俺が外部受験することが広まった。
チームメイトには前々から話してあったし、柳生や柳も外部受験することを決めていた。
真田は口にこそしないが、密かに俺と同じ大学も視野に入れているらしい。



「ねぇ、本当に試験受けないの?」
は受けるんだろう?こんなとこでアイスクリーム食べてて大丈夫なのかな。」


「それはね、まぁ。あ〜あ、なんか大学も幸ちゃんと一緒だって思い込んでたから。」
「腐れ縁ともサヨナラだね。」


「嬉しいような、悲しいような。でも、やっぱり寂しいかも。」



特大の溜息をつくの横顔に笑顔が零れる。
寂しがってもらえるは嬉しいもの。
たとえそれが友達としての立場だったとしてもだ。



「真田君も外部なんでしょう?」


「そうみたいだね。でも、真田は俺に志望校を教えてくれないんだ。」
「きっと幸ちゃんと同じだと思うよ?何となくだけど。」


「それはそれで楽しそうだけど・・・そうするとテニスはやめられないなぁ。」
「まさか、やめないでしょう?」


「さぁ、どうしようか。」



は何でもないように真田の名前を口にできるようになっていた。
告白してからあと暫くは避けていたようだが、俺の傍にいれば真田とはどうしても会ってしまう。
だが、強張った表情で顔も上げられない様子のを前にしても、真田は態度を変えなかった。
それが良かったのか、段々とも真田に対して普通に振舞うようになっている。



「私・・・テニスしてる幸ちゃん好きなんだけどなぁ。」



びっくりした。
あまりに驚いた顔をしていたのだろう。
アイスクリームを口にしたが俺の顔を見て、「変な意味じゃなくて」と言い直した。


変な意味って、恋愛感情じゃないってことだろ?
別に殊更強く否定してくれなくてもいいんだけど。


それでも好きだと言葉をくれて嬉しかった。


俺はきっと忘れないと思う。



「ありがとう。」
「お、お礼なんか言われても。」


「いいじゃないか。が俺を褒めてくれることなんか、滅多にないんだから。」
「そうだっけ?」


「そうそう。」
「なんか私・・・酷い人みたい。」


「そうそう。」
「もうっ」



と一緒に笑う。



暖かな秋の午後だった。




















最後の告白 5

2007/10/31




















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