SA.KU.RA.N.BO 〜背中合わせ〜
「大石っ!お昼、食べよっ!今日は食堂のA定食だにゃっ」
「ああ、エージ。ちょっと、待っててくれ。」
いつもの元気な声が教室の入り口から聞こえてきた。
大石君の影から視線を向ければ、ニコニコしてる英二君が教室に入ってくるところだ。
途端に心臓が騒ぎ出す。
ドキドキドキドキ。
前にいる大石君に聞こえるんじゃないか、と心配になるぐらい。
「じゃあ、さんにお願いしてもいいかな。」
「うん、まかせて。」
「ゴメンね。いつもさんに雑用を押し付けて。」
「そんなことない。大石君、部活もあって忙しいのに頑張ってくれてるし。
印刷ぐらい私にやらせて。」
「そう言ってくれると気が楽だよ。ありがとう。」
大石君が、まとめたプリントをファイルに入れて私に差し出した。
それを受け取ろうと手を出したら、横から伸びてきた手がファイルをさらっていく。
「なに、なに?ああ・・・体育祭の実行委員ね。ふ〜ん、大変なんだぁ。
で?大石とちゃんがペアなわけ?」
いつの間にか近くに来ていた英二君がファイルに目を通して、チロッと大石君の顔を見た。
あ・・・と、何故か大石君の目が泳ぐ。
「いやっ。エージ、決まったのは先週末で・・・。ほらっ、忙しかっただろ?だから、言いそびれてさ。
決して立候補したんじゃないぞ。誰もいなくて・・・押し付けられたというか・・・
俺は断われない性格だし」
なんだか、しどろもどろで大石君が弁解している。
テニス部の副部長もしているうえに役員も抱えたことがテニスに支障をきたすのかもしれない。
黄金ペアと言われている英二君には気にいらなかったのかな。
「あの、英二君。私・・・大石君に迷惑かけないように頑張るから。
できるだけ大石君の負担が減らせるよう働くし・・・。」
「いやっ、さん。そっ、そんな、気遣いはいらないからっ」
私の言葉に大石君の顔が引きつっている。
英二君は不機嫌そうな顔で大石君の顔をじいっと見つめてる。
いつも笑顔の英二君が笑ってない。
多分・・・私が悪いわけじゃないと思うけど。
大好きな笑顔を見せない英二君を見てるのはツライ。
「ねっ、英二君。大丈夫。本当に、私・・・頑張るから。」
下から見上げながら訴えたら。
英二君が私の顔を見た。
困った顔してたのかな、私。
英二君は一瞬だけ真顔になって。その後、ニコッと微笑んだ。
大きな瞳を細めて。柔らかく、安心させるような笑い方。
「違うよ。ちゃんが気にすることじゃないの。大石はいくらでもこき使っていいからねっ。
だから、そんな顔しないの」
そう言って。くしゃっと私の頭を撫でてくれた。
途端に頬が熱くなる。
くすぐったくて・・・嬉しくて。ああ、くらくらしちゃう。
もう顔が上げられなくなっちゃって、俯き加減に乱れた髪を手ぐしで直す。
「んじゃっ、大石。食堂行こうっ!A定食、奢りだかんねっ」
「・・・・分かったよ。」
ガックリと肩を落とした大石君が溜息をつく。
「ちゃん。またね!」
英二君は大石君の肩に腕をまわすと顔だけ私に向けて明るく声をかけてくれた。
頬が赤いんじゃないかと気になりながらも、
名前を読んでくれる彼を無視するなんて出来るはずもない。
顔を上げればお日様みたいな英二君の笑顔。
私も自然と笑顔で手を振ってしまう。
英二君は教室を出る前に、もう一度振り返って軽く手を振って出て行った。
きゃあぁぁぁぁ・・・。机に突っ伏して胸を押さえる。
掌に伝わる鼓動。英二君に触れられて・・・もうドキドキだよ?
英二君にとっては何の意味もない仕草なんだろうね。
でも、私にとっては。
こんなに好きな気持ち。
英二君には伝わってないよね。
ほんの少し苦い気持ちと甘い気持ち。
そんなものを抱えながら、私は窓の外を見ていた。
その頃。
英二君と大石君の間で、どんな会話がされているのかも知らずに。
「俺、今日は・・・手、洗わない。」
「ああ・・・そう。」
「ちゃんの髪。サラサラだった。」
「ああ・・・そう。」
「俺さ。めちゃドキドキしたっ!」
「ああ・・・そう。」
「大石っ!さっきから、ああ・・・そう、ばっかじゃんっ」
A定食を頬張りながら話し続けている英二。
俺にいったい何を言えと?
「何かを言って、変にかんぐられたりするのはゴメンだからな。」
「だってさ。俺のと勝手にペア組んで・・・それを報告しなかった大石が悪いんだよっ」
「好きで、お前のさんとペアを組んだわけじゃない。
それに、まだ付き合ってもないのに『俺の』は、ないんじゃないか?」
「へへん。『俺の』だもん。大石に土下座されても譲らないもんねっ」
なんで俺が土下座?
俺はさんに対して恋愛感情なんてないと・・・何回言えば分かるんだ?
早くクラス替えをしたい。頼むから、彼女とは別のクラスになりたい。
気分屋のエージが1年から片想いしてるんだから相当なものだ。
だからこその執着と独占欲は凄い。
気の毒に。
あまり目立たないけれど、可愛らしい彼女の顔を思い浮かべる。
「あっ、大石。今、誰のこと考えてた?まさかのことじゃないよね。」
ギクリ。長くペアをやっていると心の中まで見えるのか?
「いや・・・A定食って高いよなぁって考えてた。」
「あっ、そう。とにかく、大石がに悪い虫がつかないよう見張っててよね。」
「・・・・・・・。」
俺から見れば、彼女もまんざらじゃないと思うんだけど。
どうでもいいから。一日でも早く、まとまって欲しい。
背中合わせの片想いだったのだと。
そう知るのは・・・もう少し後のこと。
「背中合わせ」
2005.04.25
シリーズ化?
もちろん♪
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