策士です。それが何か? 1












それは事故だった。
もちろんわざとじゃないし、後ろに誰がいたかなんてのも知らなかったから。



「何が引っかかってんの?もうっ」



古ぼけた筒にねじ込まれた幾つもの地図から、やっと先生に頼まれた物を探した。
やれやれと自分の背ぐらいもある地図を抜きだそうとしたが、途中から何かに引っかかって動かない。
筒を覗きこんでみると無造作に突っ込まれてる地図の紐やら何やらが絡まっている。


管理がなってないとカビ臭い倉庫で怒ってみたが、それで紐がほどけるわけもなく。
そろそろ昼休みの残りも少ないし、ここは力任せにひっこ抜くしかないと覚悟を決めた。


誰も見てないことをいい事に、筒に片足をかけて地図を抱え込む。



「せーの、えいっ」




気合を入れて地図を引き抜いたのと、私の名前が呼ばれたのは同時だった。



「うわっ」
「へ?」



抱えた地図に鈍い衝撃が伝わってきた。
慌てて振り返ると、額を押えて眉をしかめる忍足の姿。
その足元には転がるメガネがあった。



「メガネが!!」



全身の血が下がっていくのを感じた。
埃まみれの床に転がるメガネのレンズにヒビが入っている。


どうしよう!メガネのレンズって、いくらかかるの?


最初に浮かんだのは、それで。
地図を放り出してしゃがみこむと、メガネを手に取り青くなった。
フレームのないメガネだったからこんな事にと運の悪さを思う。



「お前・・・メガネより俺の心配が先やろ?」



言われて顔をあげれば、額をさすりながら忍足が呆れたように呟く。


うわっ、この男。
ふざけた丸メガネを外すと、ホントにイイ顔だったんだ。
跡部に次ぐ人気を誇る忍足だが、素顔なんか見たことのない私にはちょっとした衝撃だった。


だが、それより何より重要なのはメガネのレンズ代だ。
今月、既にピンチの私にはお金がない。



「レ、レンズ代って高い?」
「それより俺の額を地図が突いたんやって。ここをズーンと」



指差した忍足の額は微妙に赤い。
全国に名を馳せる氷帝テニス部レギュラーのくせに、何故に避けられないのかと腹立たしくなってきた。



「避けてよ」
「はぁ?ひとりで運ぶんは大変やろうと手伝いに来てやったのに」



ひとりで出来たもんね。おかげで大出費じゃん、馬鹿忍足。
心の中で罵りながら無残な姿のメガネを差し出した。



「あのさ・・・レンズ代は分割でもいい?」



事故とはいえ壊したのは私だ。
弁償は避けられないと唇をとがらせて聞けば、忍足が目を丸くしてから笑った。



「べつにええよ。ちょうどレンズに傷がついて、買い換えようと思うてたところや」
「本当!?」



なんて好い人なの。馬鹿呼ばわりしてゴメンね、忍足。
無意識に喜びの溢れた顔をしていたのだろう。
忍足が思わずといったふうに口元を押さえて笑った。



「ただひとつ困ったことがあるんやけど」
「困ったこと?」


「買い換えるまで目が見えんという」
「はい?」


「ということで、暫くは俺の目となり働いてもらおかなぁと」
「うそ・・」



差し出したままのメガネからヒビの入ったレンズが外れて、ポトッと落ちる。
ふたたび青くなった私の耳に昼休みの終わりを告げるチャイムの音が聞こえた。




















策士です。それが何か? 1

2010/07/16



















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