策士です。それが何か? 2
「すまんなぁ」
ちっともすまなそうな顔ではなく、忍足が手を出す。
その手の上に本日最後の授業だった国語のノートを叩きつけた。
「これで気がすんだ?」
腕を組んで仁王立ちする私の前で、のんびりと授業を寝て過ごした忍足は笑顔でノートを開く。
いかにも寝てましたという跡が頬に残っている忍足は、
ノートを舐めるんじゃないかというぐらいに顔をひっつけるとニッと笑った。
「だいぶ見やすいノートになったなぁ」
「ええ、ええ。そうでしょうよ。誰かさんの注文が多いからね」
嫌みたっぷりに言ってやったが、忍足はさらりと無視して「そうやろ。感謝せぇよ」と言いやがった。
メガネが壊れたのが昼休みでヨカッタと心の底から思う。
朝一番だったら間違いなく私はキレていただろう。
『なんやこれ。モノクロの地味ぃなノートやなぁ。もっとカラフルなノートがええんやけど』
『は?私はね二冊を同時に書いてんのよ?蛍光ペンなんか引く暇があるわけないでしょ』
『字が小さいなぁ。もう少し読みやすく大きく書いてくれるか?』
『忍足は老眼なわけ?これが読めなきゃ教科書も読めないでしょうよ』
『あ、誤字発見』
『見えてるじゃん!!』
『それとなぁ、次から新しい単元はページをかえて書いてくれるか?』
『うるさいわね。そんなに細かいんだったら私のノートをコピーして、後で自分のに写せばいいでしょ』
『そんなん・・・』
『なによ』
『面倒くさいやろ』
『信じられない!!』
久々に教室で大声を出してしまったよ、まったく。
そんなこんなで今に至るわけだけど、
とにかく一分一秒でも早くメガネ屋に行かなくては。
放課後を待ちかねて、のんびりしている忍足をせっつくが・・・奴はのろい。
「忍足、ほら。メガネ屋に行くよ」
「いや・・・部活が」
部活だと?コイツは馬鹿じゃなかろうか。
思わず忍足の机を手で叩く。
「文字も見えないのにボールが見えるわけないでしょう?」
「あ、そうか。けどなぁ、休むと跡部に怒られるし」
「ボールも見えない人間がコートに存在しているほうが怒りを買うと思うけど?」
「あははは、そうやなぁ」
「呑気に笑ってないで、さっさと立つ。私だって自分の時間を犠牲にして行くんだからね」
「そら悪いなぁ。原因はお前が俺のメガネを壊したことやけど」
「そりゃ悪かったわねっ」
怒鳴ってカバンを手にした。
その無駄に間延びした関西弁がよけいに腹立たしい。
「久しぶりやなぁ、部活休むの」
苛々する私とは反対に、語尾に音符を付けてそうなほどご機嫌の忍足。
クラスの女子がメガネのない自分をチラチラ見ていることにも気づかずアホ面で笑っている。
「俺らデートに行くみたいや」
「口にガムテープ貼ろうか?」
女子の嫉妬を含んだ視線に突き刺されないうちに、この男を何とかしたい。
その一心で、私は忍足の肘を掴むと引っぱって歩き出す。
「腕組んで帰るんか?積極的やな」
馬鹿タレが何やら寝ぼけたことを言っているが、もう無視して『メガネが直ったら殴る』と決めた私だった。
策士です。それが何か? 2
2010/07/17
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