策士です。それが何か? 完結
「おはよ。あれ、メガネしてないんだ」
「おはようさん。昨日、壊れたんやって」
部室のドアを開けた俺の顔を見て、岳人が声をかけてくる。
その後ろで既にウェアに着替えた跡部が俺を振り返って舌打ちをした。
「テメェ、試合も近いのにサボってんじゃねぇよ」
「サボりやないって。メガネのレンズが不慮の事故でピシッと」
「はっ、なに言ってんだ。お前のメガネなんか飾りみたいなもんだろうが」
口うるさい跡部が眉をつり上げるのを横目に、自分のロッカーを開ける。
扉の内側にある小さな鏡に映ったメガネなしの俺と横に貼られている一枚の写真。
大口開けてアンパンに噛みつく姿も愛らしいと思うのは俺だけらしいが、別に構わない。
「おはよう、今日も可愛いな」
いつもの習慣での写真に声をかければ、隣の岳人が目に見えて嫌そうな顔をした。
跡部はというとまだ文句を言い続けている。さすが、氷帝の『おかん』や。
それにしても昨日のは特別に可愛いかった。
思い出すと頬が勝手に緩んでくるというもんや。
咄嗟に考えた策やったけど、あんなに上手くいくとは思わなかった。
「侑士・・キモい」
肩を揺らして笑う俺から後ずさり、岳人が小さく呟いた。
コートに立ち、軽くサーブを打つ。
メガネがなくとも不自由はしない。視力がそんなに悪いわけでもないから、跡部の『飾りみたいなもん』は当たってる。
俺が真面目に見えてないと信じきってたは面白かった。
人が好いというか、まっすぐというか、ぬけてるというか・・・誰かに頼まれるとホイホイうけて、損得考えずにやってしまう。
哀しくなるぐらい男として意識されてなかった俺やけど、今度という今度はバッチリや。
いや〜よく頑張った、俺。
というか、あそこまでせんと俺の気持ちに気付かんアイツも如何なものかと思うんやけど。
もうちょいロマンチックな片想い気分を味わいたかった気もするけど、ええかげん動かんと誰かに取られそうやし。
まぁ潮時というか、そろそろケリをつけんとな。うんうん。
「侑士、危ないっ!!」
「へ?」
声のした方に向いたら、目の前に迫りくるボールがあった。
ヤバい!そう思った時には遅かった。
「情けないなぁ」
痛む額をさすりながら昇降口に入っていくと会いたい人の姿があった。
なんという幸運や、やっぱ運命やと痛みも忘れて近付けば、俺が声をかけるより先にがコッチに気がつく。
あからさまに動揺した様子で慌てて靴箱を閉める動作も意識されてる証拠で嬉しいもんや。
「おはようさん」
「お、おはよう」
言うなり俺を置いて走り去りそうなやったけど、人の顔を見て眉間に皺を寄せた。
「それ、どうしたの?」
「それ?」
「額」
「ああ」
俺の額に気づいてくれたらしい。
その隙にさっさと靴を履き替えれば、教室まで同伴や。
「朝練でな、ボールがぶつかってん」
「ええっ!メガネなしで部活に出たの?予備のメガネは」
「忘れた」
「馬鹿じゃないの!?」
目をつり上げて朝の一発目『馬鹿じゃないの?』攻撃。
何度コイツに『馬鹿じゃないの』と言われたことか。
だが今の『馬鹿じゃないの?』は心配からきてることぐらい、の表情を見れば分かった。
どうにもニヤけそうになるのだが、それを誤魔化すために痛そうな顔を作る。
お人好しのは昨日の気まずさも忘れ、心配そうに俺の額を見上げる。
本人は全くもって分かっていないらしいが、俺との身長差で下から見上げられるのは
なんというか、こう・・・めちゃトキメクんですけど。
ああそういや、この素晴らしいアングルでお前は言うたよなぁ。
『あのさぁ、私の友達で忍足と付き合いたいっていうコがいるんだけど。どう?』
どう?どうって、どうもこうもあるか!!
あの時、俺は泣けるもんなら泣きたかった。
そんなお前が、今は俺を心配している。
このチャンス逃してなるものか。
「保健室に行けって跡部に言われたんやけど」(実際は『死んでこい』と言われたが)
「冷やした方がいいんだろうけど・・・保健の先生がいるか分かんないよ?」
「ズキズキするしなぁ」
「仕方ないなぁ。行ってみる?」
呟いて、は当然のように俺の肘を引っぱった。
昨日と同じように疑いもなくメガネのない俺を誘導してくれる。
俺の腕を引くの耳が心なしか赤い気がした。
のぞいた瞳が少し潤んで見えたのは色々考えて寝不足だと期待してもええんやろうか。
好きやと告げたのに、なかったような顔して前を歩くが憎らしくもあり可愛い。
この時間に保健の先生がおらんことは知ってる。
せやから行こうな。
誰も邪魔する奴がおらんところで、じっくりお前を追いつめよう。
今度は絶対に逃がさへん。
策士です。それが何か? 完結
2010/08/25
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