策士です。それが何か? 7











「どうした?なんや元気がないな?」



薄い闇の中、隣から忍足がのぞきこんできた。
家々の角に立つ外灯が、見慣れない黒いセルのメガネをかけた忍足を明るく照らす。


なんでもないと思わず顔を背けたけれど、忍足は不思議そうに首をかしげていた。


だって、ヘンに意識しちゃうんだもの。


黙々と歩く帰り道。
行きと違って微妙な会話の間が気まずい。



あの写真、文化祭の時の私だったよね?
どうして忍足の部屋に?


ちょっとアレなによって、その場で詰め寄った方が良かっただろうか。
部屋を出た今となっては蒸し返して訊ねることもできない。


やっぱり見間違えだったのだろうか。
いやいや、あの超絶恥ずかしいメイド姿をそうは見間違えない。
カフェの裏方を希望していたのに、サイズがピッタリというだけで着せられてしまったメイド服。
おまけに『メガネっ子キャラ』とか勝手に役割を決められ、赤いフレームのメガネをかけさせられた。


だからアノ写真を見間違うとは思えない。
メイド服に赤いメガネちゃんは私だけだったからだ。


忍足は写真をどうやって手に入れたのか。
まさか隠し撮り?なんのために?


ひょっとして嫌がらせなのか。
もしくは私の写真をダーツの的にしているとか。
いくらなんでも、そこまで忍足に恨まれる覚えがないし。


他の理由で考えられるのは・・・



「危ない!」



大きな声と同時に腕を掴まれ、引っぱられた。
目の前には黒の車が路駐していて、それに気付かず突進していたらしい。



「ぼんやりしてると危ないで?」
「あ・・うん。ありがと」


「たよりないなぁ。手、繋ごうか?」



にっこりと微笑んだ忍足が大きな手を差し出してきた。
昼間も見たはずの手のひらが闇に白く浮かぶ。


意識した途端、瞬間沸騰よろしく頬が熱くなった。
なんなんだと慌てても、勝手になるのだから止めようもない。


もう耐えられない。このまま忍足と一緒にいるなんて、絶対ムリ!!



「も、帰るから」
「帰ってるやんか」


「じゃなくて、一人で帰るから」
「あかんて。危ないし」


「平気だって、まだ真っ暗じゃないし」



必死に手を振りお愛想笑いをするのに、忍足が目を丸くしている。
マジマジと私の顔を見つめたかと思うと、ぷっと息を漏らして口をおさえた。
そのまま顔を横に向けると肩を震わせて笑い始める。



「ちょっと、なに」
「いや・・なんかもう」



堪えきれないという様子で笑う忍足の何がツボなのかも分からず困惑する。
ムッと私が唇を尖らせると、笑いすぎて滲んだ涙を拭うかのようにレンズをずらした忍足がなんでもないように言った。



「可愛いすぎるやろ」
「は?」


「お前、ホンマ可愛いな」



あ然とする私に向かって甘ったるい声で言いなおすと瞳を柔らかく細めた。



「そういうとこ好きや」



ソウイウトコスキヤ
そういうとこ、すき?
すきって、好き?



言葉の意味が頭にまわると目玉が飛び出そうになった。



こ・・この男、怖いっ!!



心の叫びは声に出ていただろうか。
とにかく頭の中では確実に叫んで、今度こそ私は逃げ出した。


背後で忍足の私を呼ぶ声が聞こえたが、そんなものにかまっていられない。


私は振り向かなかった。
ゾンビから逃げてるぐらいの必死さで走った。


とにかく心臓が飛び出しそうなぐらいドキドキして、頭がクラクラして・・・
忍足のこと以外、なにも考えられなかった。




















策士です。それが何か? 7  

2010/08/22




















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