2012年お正月企画 真田の嫁 番外編 『嫁の正月』 後編
は夫の友人たちから学生時代の話を聞きたがった。
自分が知らない学生時代の夫の姿が知りたいのだと喜ぶ姿が初々しい。
「とにかく恐ろしかったっスね。怒鳴るし、殴るし、顔が怖いしで」
「赤也。それはお前に原因があったんじゃないか?」
赤也の話に、柳の冷静なツッコミが入る。
うんうんと腕を組んだ真田も頷く。
「孤高の武人という雰囲気がありましたね。中学の時、達筆な毛筆の年賀状をもらった時は驚きましたっけ」
「合宿に浴衣の寝巻を持ってきたこともあったぜ。十代で爺さんだったな」
「赤ふんどしで水泳に参加するんじゃないかと心配したこともあったよなぁ」
柳生と丸井、ジャッカルたちが中学時代の思い出話を始めた。
着物の袖で口を隠したが可笑しそうに笑う。
確かに十代のはじめから現在まで、その生活習慣は変わっていないようだ。
「でも、弦一郎様は人気がありましたよ。学校で何度も弦一郎様の噂を聞きました」
「へぇ。さん、どこに通ってたの」
歴史の古いエスカレーター式の女子高名を告げたに、その場にいた全員が納得した。
きっと他の異性をろくに見ないで結婚したんだろうなぁ。
それで真田なんかを・・・と心の中で思ったのは、質問した幸村だけではない。
「とてもテニスが強くて、凛々しくて、寡黙なのだけれど人気があると
弦一郎様がコートに立つだけで女子生徒の声援で話ができなくなるとか」
「誰のことだろう?青学の手塚と間違ってないか?」
「確かに」
コソコソと丸井と赤也が囁き合う。
そこから先も、次々と繰り出される真田を褒め称える言葉に皆が半目になった。
真田は照れ臭そうに咳払いなんかをしている。
「それを鵜呑みにして真田に憧れたとか?」
鵜呑みなどと、さりげなく失礼な仁王だがは気付いていない。
「いいえ。私はもっと以前から、その・・弦一郎様に憧れておりましたから」
恥ずかしそうに俯いたが、上目づかいに真田の顔をうかがう。
その甘い視線を受けた真田も、まんざらではない様子だ。
「祖父の代からの家とは付き合いがあったのだ」
「つまりは幼馴染なのだな」
「刷り込みだ、刷り込み」
「インプリンティングですね」
真田の説明を柳が要約し、幸村がツッコミ、柳生が英訳した。
つまりは幼い時に初めて接した家族以外の異性が真田だったので、
それが運命の人だと刷り込まれてしまったに違いない。
「なんて不幸な、痛っ」
小さく呟いた赤也の膝をテーブルの下で柳がつねった。
は視線を遠くにして、幼い頃の記憶をめぐらせているようだ。
「考えれば、幼い時から弦一郎様には助けてもらってばかりでした」
「お前は直ぐに転ぶし、迷子になるしで目が離せなかったんだ」
「私が泣くたびに、庭に咲く小さな花を手折ってきてくれました」
「なかなか泣き止まないから途方に暮れてな」
「ふふ。いつも怒った顔をしてましたよ?早く泣きやめと叱られた気がします」
「あまりに泣くと目が腫れるだろう?それが可哀想で焦っていたんだ。怒っていたわけではない」
「そうだったのですか?いつも弦一郎様を怒らせてばかりだから、いつ嫌われるかとビクビクしてましたのに」
「俺がお前を嫌うわけがないだろう」
「弦一郎様・・・」
ゴホンと咳払いの音がして視線を向けると、すでに柳がコートを着ていた。
後ろでは袖をめくった仁王が柳生に腕を見せて「ほら、あまりのことに鳥肌が」と訴えている。
ジャッカルは耳を赤くしながら持ち込んだお重を風呂敷で包んでいた。
「なんだ?もう帰るのか」
驚いた表情の真田夫婦を前に、全員が笑顔で「帰ります」と頷いた。
* * *
「なんだあれは。キモい、キモすぎるぞっ。真田に未確認生物が寄生したに違いないっ」
「いいじゃないか。ふたりが幸せなら」
「くそ〜、真田めぇ。俺に内緒でガキの頃から、女をタラしていたとは」
「人知れず早熟だったのは弦一郎だったな」
木枯らし吹く中の帰り道。
真田家の玄関を出るなり文句を言い出した幸村の相手を柳がしている。
暖簾に腕押しの柳の対応が気に入らない幸村は、キッと後ろを振り返った。
「ジャッカルと赤也、お前らは絶対に俺より先の結婚は禁止だからな」
「は?赤也はまだしも、なんで俺?」
「俺だって『なんで?』ですよ。年の差なんか僅かじゃないっすか。いくら先輩だからって理不尽だ」
「うるさい。俺より先に幸せになったら許さないぞ」
ジャッカルと赤也が幸村に抗議しているのを横目に、仁王が薄らと笑みを浮かべた。
「うらやましいやら、寂しいやらの幸村じゃな」
それを聞いた柳生も微笑む。
「私たちも同じ気持ちですよ」
視線を合わせた仁王と柳生は肩をすくめ、「さぁ、どこで飲み直しますか?」と皆に声をかけた。
* * *
「旦那様は居間でお茶でも召し上がっていてください」
客が使った皿を洗うの隣で、真田が慣れない手つきながらも片づけを手伝っている。
何度も手伝いはよいからと夫に言うのだが、真田は台所から出ていこうとしないのだ。
困惑する妻に、真田は穏やかな笑みを見せた。
「ふたりでやれば早く済む。そうすれば共に茶が飲めるだろう?」
そんなことを言われてしまったら、拒めるはずもない。
は頬を桜色に染めながら、早く皿を洗うこと集中することにした。
可愛らしく染まった妻の横顔を見て、真田の口元は勝手に緩んでしまう。
古くからの友人は眉間にしわを寄せた顔しか知らないだろうから、少々驚かせたかもしれない。
だが我が妻は日本一、いや・・世界一の可愛い人なのだから仕方がないだろう。
そう真田は開き直っていた。
恋は盲目で、上等だ。
「」
「はい?」
両手を流れる水につけたまま、何の疑いもなく返事をする。
その頬に温かな吐息が触れて離れていく。
「げ、弦一郎様?」
驚きに目を見開いたに、唇を離した真田が悪戯っぽく微笑んだ。
「楽しい正月だな」
カッと更に赤くなったを可笑しそうに見た真田は、なんでもないように皿を拭き始める。
もう・・と呟いたは熱くなった頬を恥ずかしく思いながらも小さく微笑んだ。
「とても幸せなお正月です」と。
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真田の嫁 番外編 『嫁の正月』 後編
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