さよならから始めよう 1










華やかなパーティー会場。


たくさんの招待客によそゆきの顔を見せながら、景吾は挨拶にまわっていた。
臨海都市にできた新ビルのパーティー。


取引先との接待もあって面倒な事、このうえない。
それでも貼り付けた笑顔で応対できる大人の自分に溜息をつきつつ、腕時計ばかり見ていた。


のこり1時間足らずで御開きだ。


もう少し。



「景吾!」



後ろから呼ばれるのと同時に、柔らかなピンクのドレスを着た手が伸びてきた。
顔を見なくても誰だか分かる。いつもの声に目を眇めて振り向く。



「なんだ?まだいたのか。」
「だって・・・景吾がいなくて、つまらない」


「保奈美。俺は遊びに来てんじゃねぇよ。また、具合が悪くなるぞ。さっさと戻れよ。」
「ヤダ、景吾と一緒に帰る。」



保奈美は、景吾の腕に自らの手を巻きつけて上目遣いで甘えた声を出した。



「バーカ。俺はこの後も接待があるんだよ。ガキは帰って、さっさと寝ろ!」
「ガキじゃないもん!もう17になるもんっ」



溜息をつきながら、纏わりつく保奈美の額を指で弾く。
痛い・・・と両手を離して額を抑えた保奈美に笑顔を残し
「早く帰れよ?薬を飲み忘れるな。」 と景吾は背を向けた。



まだまだ子供の幼馴染。
兄のような気持ちで、景吾は保奈美を扱っている。


だが、景吾に弾かれた額を押さえたまま、彼の背中を見送っている保奈美の瞳は違っていた。
彼が他の女性と話すたび、胸が痛む。


ずっとずっと、見続けてきた景吾。


保奈美は大人の女として見てもらえない自分が悔しかった。










いい加減、挨拶するのも疲れたな。
そう思ったとき、見知った横顔を見つけた。



「真田」



声をかければ、相変わらず厳しい表情をした真田が振り向く。



「跡部。相変わらず、忙しそうだな。」
「久しぶりだな。にしても、何故・・・んなところに?医者のお前には関わりないだろう?」


「俺は付き添いだ。知り合いが、今回のパーティーのテーブルコーディネートをしたんだ。
 それでパーティーに招待されたのだが・・・一緒に行く奴がいないと言われてな。」
「へぇ。」



中学からテニスを通じて知り合いの真田は名家の出身ではあるが、
こんなパーティーに顔を出すような人間ではない。
そんな彼が、きちんと正装してカクテルを口にしているのは不思議な光景にさえ見えた。


テーブルコーディネートねぇ。
景吾は、カクテルやフルーツが盛り付けられたテーブルに目を落とす。


確かにセンスがいい。
爽やかな色使い。クロスと食器、飾られる花々。


どれもが品よく、華やかに。それでいて、でしゃばらずにコーディネートされていた。
そういえば、あちらこちらに花があったな・・・と思いおこす。



「最近、クラブハウスに顔を出しているのか?」
「たまに・・・な。お前とは入れ違いが多いらしい。病院勤めは不規則でな。」



仕事とは関係なく話せる間柄。
少し息を抜いて、景吾は真田と向き合った。



と、その時。



「弦一郎」



ざわめきの中に紛れて聞こえてきた声。
真田が向けた視線を景吾も追う。



その先に。黒のスーツを着た一人の女性が立っていた。



景吾は一瞬で彼女に魅入られた。



黒髪をひとつに束ねて、綺麗にアップにし。
透けるような白い肌に控えめな化粧。


アクセサリーは小振りのパールピアスだけ。


華奢な体を黒のスーツに包んだ彼女は、シンプルなほど・・・美しさが際立っていた。



「どうだ?済んだか?」
「ごめんなさい、独りにして。大丈夫、修正できたわ。」


「なら良かった。、コイツは・・・」
「跡部景吾だ。」



真田が隣に立つ景吾を紹介しようとしたが、先に彼は右手を差し出して名乗ってしまう。
は微笑んで、景吾の右手に自らの手を重ねた。



「Aprilのです。この度は、当社をご指名いただきありがとうございました。」
「俺を?」


「跡部常務は有名です」
「ふーん」



景吾はの柔らかな手と握手したまま、じっとの笑顔を見つめていた。


綺麗な女性だと思った。
化粧がうまいとか、そういうものではなく。
土台が美しい。


穏やかな話し方。纏っている空気が何か違う。
清らかな優しさを感じさせる女性だった。



「おい。名刺をくれないか。今回のコーディネートが気に入った。次も使いたい。」
「ありがとうございます。」



手を離したに名刺を求めた。
何の躊躇いもなく、は鞄から名刺を出してきて景吾に渡す。
真田は黙って、二人のやり取りを見ていた。


そこへ景吾の秘書が呼びに来た。



「跡部常務。社長がお呼びです。」
「すまない。・・・ゆっくりしていってくれ。真田、今度は打とう。」


「ああ。連絡してくれ。」
「分かった。じゃあな。」



その場を離れる際にも、景吾はの目を見てから背を向けた。
は丁寧に頭を下げる。



真田は何となく予感がして、の腕を掴むと自分に引き寄せた。



「まだ何も口にしていないだろう?何か食べるか?」
「ありがとう。けど・・・緊張して。パーティーが終わるまで喉を通らないわ。」


「冷たいウーロン茶があったが。」
「あ・・・それでいい。」



景吾の前で見せた仕事用の笑顔ではなく、ホッとした表情を見せるに真田も笑みを漏らす。



そんな二人を、振り返った景吾は見ていた。


視線は、もう一度を追う。





真田は、


ここで二人を引き合わせたことを、


この後・・・ずっと悔やむことになった。




















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