真っ直ぐに私を見つめる熱い視線。
すぐに気がついた。
どこにいても。何をしていても。その視線が、刺す様に私を貫くから。
若い情熱に負けそうになる。


でも・・・流されちゃ・・・いけない。










        Secret of my heart 〜賭け〜            
        










臨時教員。私の肩書き。大学を卒業してすぐ、配置された氷帝学園高等部。
そこで、病休の先生に代わって、古典を教える。任期は半年。3年生の卒業式に出ることはない。
今年いっぱいで、また別の学校に移動する。



君。女子のテニス部を見てやってくれないか。君が見てくれれば、女子のレベルも上がると思うのだが。」



榊先生に勧められて、コートに立つことにした。私は、大学女子テニスでは・・・まずまずの選手だった。
学生のときほど、時間は取れないが、今でもテニスは大好きだから。
全国区の男子に比べれば、弱小といわれている女子テニス。
少しでも、力になれれば・・・そう思った。





「はーい。そこまで。次、コートに入って。」



自分が率先してコート内に入り、指導する。私の時間は、半年。どこまで、底上げしてあげられるか・・・。


練習中、急に部員達の視線が動いた。
落ち着かない彼女達に、その視線の先を追えば・・・仁王立ちになって、じっとこちらを見つめている彼がいた。
氷帝男子テニスのレギュラージャージが、風にはためく。


私は近付いていった。男子部員が、こちらのコートに来ることなど初めてだから。
榊先生からの伝言でもあるのかと思った。


フェンス越し、視線をよこす彼。強い視線に、途惑った。



「何?跡部君。」


「部活終わったら、ここに残ってろ。相手してやる。」


「なっ・・・跡部君?」



とても教師に使う言葉とは思えない。おまけに、一方的にいうと、背を向けて行ってしまった。



「なに、あれ?信じられない。」



つぶやきながらも、胸の鼓動が早くなるのを感じて。無意識に、深呼吸をしていた。


苦手な生徒。頭がよくて、口の聞き方がなってなくて、けれど・・・綺麗な顔をしていて。
なにより、その視線の強さが・・・怖いほどだった。
何もかも見透かしてしまいそうなほどの、視線。見つめられて、私は何度・・・目をそらしただろう。





夕暮れも近付いて。全員を集めて挨拶をした。
部長と明日の練習メニューを相談していたら、後ろから声がした。



「おい。相手してやるぜ。準備しろよ。」


「跡部君。わたし、お相手をお願いした覚えはないんだけど。」


「つべこべ言わずに、コートに入れよ。さっさとしろ。日が暮れちまうぜ。」



彼はそういうと、さっさとコートに入っていく。手には、ラケット。



「先生・・・」


「ごめんなさい。部室の鍵は、私が閉めるわ。もう、いいから帰って頂戴。」


「あっでも、跡部さんと試合するんでしょ。見たいな。」


「ダメよ。暗くなるから。試合なんか・・・私じゃ相手にならないわ。さっ、帰って。」



憧れの跡部君を見たいと思う生徒の気持ちも分かるけれど・・・遅くなる・・・。
でも、本当はそれだけが理由じゃない。
彼と私だけの時間。誰かに、邪魔をされたくない。そんなことを思っている、自分がいる。


部員達は、渋々帰っていった。


私は長い髪を解いて、もう一度くくり直した。そして、ラケットをぎゅっと握る。
ひとつ息を吐いて、彼のほうを向いた。
ネット際にたって、私を見ている彼。やっぱり、視線が痛い。



「ワンセットだけね。言っとくけど・・・跡部君の相手にならないと思うわよ。」


「ふん。大学関東大会優勝者だろうよ。楽しませてくれんだろ。」


「たまたまよ。全国には、もっと強い人がいた。それは、跡部君にだって分かるでしょ。上には、上がいる。」


「ふん。嫌味か?まあ、いい。おい、賭けしようぜ。」



彼はこの夏。関東大会で優勝した実力者だ。ただ、全国大会ではベスト4までだった。
上には上のプレーヤーがいる。それが、スポーツの世界だ。



「賭け?そんなこと、生徒相手に」



言いかけた私の言葉に、彼の言葉が重なった。



「俺が勝ったら、お前をくれ。」



一瞬、理解できなかった。頭の中で、言葉を反芻する。



「お前が、ワンゲームでも取れば、俺の負け。俺がストレートで勝ったら・・・お前はもらう。」


「言ってる意味・・・分かってるの?」


「俺が負けたら・・・もうお前を見ない。」



あの視線。あの熱い視線は・・・。



「サーブは、お前にやる。だが、全力でいかせてもらうぜ。」



彼が背を向けた。こんなゲーム、受けてはいけない。分かっているのに、声が出ない。
彼は、レシーブ位置に立つと、こちらを向いた。


そして、また・・・あの視線で私を見るのだ。



「おい。さっさとしろよ。」



はじかれた様に、歩き出す。ダメ。彼を説得して、コートを出なくては。
そう思っているのに、足はサービスの位置に向かっている。


ラインをまたいで振り返ると、ボールが飛んできた。サービスのためのボール。
ぎゅっと握り締める。考えた。試合を始めてしまったら・・・もう引き返せない。


でも、私の中にある・・・秘密の恋を消してしまうためにも。この試合を受けたかった。
ワンゲーム取ればいい。そして、彼の・・・私の・・・恋が終わる。


そう。それでいい。


トスをあげた。渾身のサーブ。
この賭け、絶対・・・負けるわけにはいかない!!










カラン・・・。ラケットが自分の後ろに落ちた。体の横、すぐそばをスマッシュが打ち込まれていく。
プレイヤーのラケットを狙ってスマッシュ。跳ね返ったボールで、最後のスマッシュを決める。


私は、立ち尽くしていた。呆然と、着地した彼を見ていた。



「ゲームセット。6-0で、俺の勝ちだ。。」



彼が、ネットを軽々と越えてきた。私は、まだ動けない。どうして?どうして・・・取れなかった?
心の声が聞こえたのだろうか。彼が、ラケットを肩に当てて、ふっと笑った。



「迷いがあるお前に、勝てるはずがねぇだろ。ああ?。」


「ど・・・うしよう。」



やっと出た言葉は、掠れていた。



「どうもこうも。俺のものに、なるしかねぇんだよ。」



言うなり彼は、私に近付く。私は逃げようとした。
その手を掴まれて、後ろから抱きしめられる。体に重なってくる熱い体温に、眩暈がする。


髪が引っ張られて、痛みに顔をしかめた。
さらさらと頬に、こぼれてくる自分の髪。束ねていたゴムを外されたのだと知る。


その髪をひとすくい手に取る彼の長い指が、視界に入った。
顔のすぐ横で、すくった髪に口付ける。


逃げたい。でも、逃げられない。
捕まえて。でも、捕まるわけにいかない。


分かってる。分かってるけど。


耳元に唇が寄ってきた。



「やっと、手に入れた。お前は、俺様のものだ。忘れるな。」



空は、薄紫。もう殆ど日が沈んでしまった。


この恋に、おぼれてしまったら。きっと、傷つく。
分かっていて、止められないのが恋ならば。


堕ちるところまで堕ちてみようか。


けれど、あなたは連れて行けない。あなたには、未来があるから。


私一人で・・・。




















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