恋は勝手に心を侵食していく。
あなたの熱い視線が。私を侵食していったように。


それは辛くて。切なくて。
それでいて、甘く。美しい。


あなたの手が差し出される。その手をとる。
それは、終わりへの一歩となる。


分かっている。


砂時計を逆さにして、落ち始める砂を見つめているかのよう。


この時間は。
私にとって忘れられないものになる。


生涯一度の・・・恋になるだろう。   










          
Secret of my heart 〜恋〜










「先生、さようなら。」
「さようなら。気をつけてね。」


「はーい。」



クスクス笑いの生徒達が楽しげに下校していく。
まるで春のような生徒達。


人生の春。


眩しいほどの生命力に溢れ、瞳に光を受けて輝く。
喜怒哀楽。すべてが、真っ直ぐに現われて純粋。


私も・・・こんな眩しい季節を生きてきたのかしら。
ふと思って苦笑する。ひどく歳をとった気持ちになった。


あの頃は、ただがむしゃらで。そんなこと考えもしなかった。
過ぎてから懐かしく思うだけ。


少しだけ色を変えた陽射しが廊下を染める。その中を職員室に向かって歩いていた。



「おい。」



誰かなんて振り向かなくても分かっている。
ひとつ息を吐いて。ゆっくり振り返ろうとした・・・その腕を、力任せに引っ張られた。



「跡部君っ」



後ろから腕をつかまれ、そのまま乱暴に教室に引きずり込まれた。
そこは通りすがりの教室。さっきまで生徒達がいた気配が残っている。


私を教室に放りこむと、ガラガラっと後ろ手に戸を閉めて鍵を閉めた彼。
よろけながらも体勢を立て直して振り向けば、真っ直ぐ見つめてくる彼の視線に目眩すら感じた。



「何するの?ここは教室よ。」
「・・・それが?」



胸に出席簿とノート、プリントの余りを抱えたままの私。
睨みつけているのかと思えるほど強い視線。
彼が一歩踏み出す度、つい一歩下がってしまう。



「逃げてんじゃねぇよ。俺から逃げられるとでも思ってんのか?」
「っ!」



大きな一歩と伸びてきた長い手。
手首をつかまれて、胸に抱えていた物が音を立てて落ちていく。


いけないっ・・・そう思ったときには唇が塞がれていた。


教室の鍵は閉めたといっても、前後の入り口についた窓はガラスだ。
誰かが廊下を通れば見つかってしまう。


焦って胸を押す私など力でねじ伏せて続けられるキス。
流されそうになるのを耐えながら、必死で抵抗する。



「それでさあ・・・」
「帰り、どっか寄ろうぜ?そこで相談するってのは?」
「金・・・ない。」
「おいおい。」



廊下から声が響いてきた。生徒が近付いてきている!
ビクッと体を揺らした私の抵抗が一瞬止まった。


あっさりと離れた唇。
彼は眉間に皺を寄せたまま「こっちだ」と、私の手をひいて閉めたドアに背中を預けてしゃがみこんだ。
自然と私も彼の隣にしゃがみこむ。


確かに。ドアの内側にしゃがんでいれば彼らに見つかることはないだろう。
だけど、彼らがこの教室に用事があれば・・・別だ。
後ろのドアは彼が鍵を閉めたけれど。
前の鍵が閉まっているとは限らない。


体を強張らせて息を潜めた私の頬に、節のある指が伸びてきた。
横を向けば、不敵に微笑んだ彼の顔。


声に出さず、口の動きだけで伝えてくる言葉。



『ス・キ・ダ』



泣きたくなった。


こんなに愛しいと思える人に・・・今まで会ったことがなかった。
愛しくて、愛しくて、切なくて。


涙が溢れてしまいそうで目を閉じた。
頬に触れてくる手が熱い。
それさえも愛しく思いながら、そっと重ねられる唇に身を任せた。



ドア一枚隔てた廊下を。何も知らない生徒達が帰っていく。





ねえ、あなた。


いつかは私も、あなたの懐かしい思い出になるのかしらね?
そうだったら・・・いいな。
ううん、そうであって欲しい。そう・・・祈る。



現実に生きる大人の私は。


罪を。


一生・・・背負っていくから。




















戻る     テニプリ連載TOPへ     次へ