擦れ違いの片想い 〜乾side〜










テニスが全ての中心だった中学。
高校だって、テニスが全てになるはずだった。


だけど、俺は恋をした。それも遅い初恋だ。
初恋は実らないというけれど、その通りの結末。
俺は想いばかりを募らせて、そのくせ・・・ろくなアプローチも出来ずに失恋した。


今思えば、純というか不器用すぎるというか。
高校三年間も想い続けた彼女とは僅かな会話と遠くから見つめただけの淡い思い出だけが残って、
なんともセンチメンタルな甘さと痛みを俺に植え付けた。


大学に進学してから後は、みょうにさばけた年上の女性にモテた俺。
自分から恋愛感情を抱く前に求められ、
なんとなく付き合っているうちに恋愛感情に発展するみたいな受身の恋ばかりしてきた。


二十歳を過ぎてからも、ふとした時に彼女を思い出した。
それは恋人が何気なく見せる仕草だったり、窓から差し込む柔らかな陽射しを浴びたりだったり。
到底、他人には理解できないような事がキッカケで彼女を思い出した。


図書室で貸し出しカードに印を押す彼女は頬に落ちてくる長い髪を耳にかけるのが癖だった。
窓際で本を読む彼女は、いつも柔らかな陽射しに包まれて美しかった。


時々感じる雨の前触れ、校庭の土の香り、図書室の匂い。
全ての五感に彼女が残っていて、そのたび俺は隣にいる恋人を忘れて彼女を想った。



時には会ってみたいと思った。
だけど、彼女が今なにをしているのか知らない。
調べれば分からない事もないだろう。


でも、恋人がいたら?変わってしまっていたら?


自分の事は棚に上げ、彼女には綺麗なままでいて欲しいなんて強く願っている自分がいる。


美しい秘密の宝石箱を時々開いては懐かしむ。
それぐらいがちょうどいいんだろう。
そう納得させて時間だけが過ぎていった。





偶然は必然だって。
たまたま見た深夜のアニメで妖しい姿の女が言っていた。
その名前を聞いたとき、直ぐに浮かんだセリフだ。



ってね、誰とも付き合ったことのないコがいるの。
 可愛いし、真面目だし、とってもイイコなんだけど・・・なんていうか引っ込み思案でね。」



悪友に『パソコン、直しに来てくれ!』と拝み倒されて訪ねた先には悪友のカノジョまで居て、
すっかり不機嫌になりつつ復旧作業をしてる時に聞いたんだ。


なんて名前、世の中には五万と居るだろう。
それでも俺は聞かずにいられなかった。



「そのコ、苗字は何?」
「え?だけど・・・」


「そう、か。」
「なんだ?乾、気になるのか?」


「いや、別に。知ってる人の名前と一緒だったから。」
「で、知り合いだったのか?」


「いや、別人だろう。」



その時、俺は普通の顔が出来ていただろうか。
緩む口元が止められなかったか。それとも緊張で強張っていただろうか。


とにかく頭の中は『彼女だ!』って言葉が何百回とリピートされていて、
他人のパソコンなんかどうでもよくなっていた。



「でね、今度の合コンに連れて行こうって思ってるの。前に言っても絶対嫌がるから、当日無理矢理にね。
 だれか、そっちにイイヒトいない?こう、とっても大事にしてくれそうな優しい人。
 あ、そうだ。乾君なんか、どう?いま、フリーなんでしょ?」


「ダメダメ。コイツは年上専門だし冷たい男だぜ?
 殆どの女が乾の冷たさに耐えられず愛想尽かして別れるんだ。」


「そうなの?じゃあ、は駄目ね。私たちと同い年だから。」



何とでも言えばいい。
本当に『』が俺の知ってる『』なら、俺は誠心誠意大事にするよ。優しくだってする。
デートより研究を優先したり、誕生日を忘れたりなんかするものか。
だって彼女の誕生日だけは未だに覚えているんだ。


俺は確認作業を始めた。
古い友人達のツテを使い、それとは分からないように彼女の消息を探った。
間違いない。悪友のカノジョが言う『』は俺の恋していた『』だ。


その結果を得たとき、どうにも止められない高揚感と一緒に躊躇いが俺の中にあった。


会おうと思えば彼女に会える。
でも、会ってどうすればいい?積極的に交際を求める?そんなこと、俺に出来るのか?したことないぞ。


俺を見て直ぐに分かってくれるだろうか?思いっきり忘れられてたら?
いや、全く知らないフリをしたほうが誘いやすいのか。けれど、忘れられているのは結構ショックだと思う。


彼女は誰とも付き合ったことがないと言っていた。
馬鹿みたいだが・・・嬉しかった。
引っ込み思案でコンパなど嫌いっていうのも、俺の知っている彼女らしい。


このチャンスを逃したら、綺麗な彼女が誰かに奪われてしまう。
俺でいいのかと考えれば甚だ疑問は残るが、俺は彼女が・・・





ねぇ、目の前で泣いている君。
俺の正直な気持ちは伝えたよ。
もうこれ以上ないってほどに気力を振り絞って伝えた言葉に返事が欲しい。


少しは恋愛上手になったかと期待していた自分が、あの頃とちっとも進歩していない事に愕然としているよ。


これで振られたら。
俺はきっと誰にも本気になれない寂しい男になってしまいそうだ。



合コンの席を立ち上がり、不思議がる奴らの声も振り払って飛び出した店の前。
大きな瞳一杯に涙を溜めて震えてる君が口を開く。



「私はね、」



差し出した俺の貸し出しカードを彼女がどんな想いで手のひらに包んだのか。
彼女の押したゴム印を指でなぞった俺を知らずに。


俺が他に気をとられている時、彼女は俺を遠くから見ていたんだ。
俺がいつも彼女に焦がれていることも知らずに。


卒業式は君を探していたんだ。誰にも第二ボタンは渡さなかった。
君に渡せるはずもないと思いながらも、ずっと君を探していた。
君が遠くから俺に『さよなら』を告げていることも知らず。



全てが擦れ違っていたんだ。
想いは同じ方向を向いていたのに。
ホンの少し勇気が、俺たちを結ぶはずだったのに。



悔しいよ。悔しくて悔しくて、たまらない。
だけど、嬉しいよ。嬉しくて、嬉しくて・・・どうにかなりそうだ。



「ありがとう、。随分遅くなったけど・・・良かったら俺と付き合ってもらえないだろうか?」



やっと言えた言葉に彼女の瞳から涙が零れ落ちた。
その綺麗な雫に・・・君の返事が重なった。



ああ。やっと、君にたどり着いたよ。





君が好きです。




















「擦れ違いの片想い〜乾side〜」 

2006.05.07




















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