キライだけど好き 〜前編〜










観月クンと私は『会えば喧嘩』の仲だ。


私は赤澤にスカウトされてテニス部を手伝うようになったマネージャー。



『観月の負担を減らしてやりたいんだ。
 雑用ばかりをやらせるようになると思うけど、頼めるのはお前しかいなくてな。』



なんせ幼稚園から付き合いのある赤澤に頼まれては、嫌と言えない。
それに赤澤が語るプレイングマネージャーとやらの観月クンは涙ぐましいほどの努力家で働き者なのだ。
まるで苦労人物語みたいに観月クンの話を聞かされた私は『微力でも助けになれば』と本気で思っていた。


が、赤澤に連れられて行ったテニスコートで初めて会った観月クンの開口一番は。



『誰ですか、この人。そんな役にも立たないような女子マネージャーなんか要りませんよ。
 かえって邪魔になります。赤澤、これ以上、僕の仕事を増やさないで下さい。』



ギョッとして私の顔と観月クンの顔をオロオロと見ている赤澤には予感があったと思う。
なんせ長い付き合いの幼馴染だもの。


私、負けず嫌いなのよ!



『あら。役に立つか立たないかなんて、見てもないのに良く言うわね。
 それに、私は赤澤に頼まれてマネージャーを引き受けたんだから!あなたには関係ないわ!』


『・・・口は達者ですね。このテニス部はね、僕がマネージャーも兼ねているんです。
 その僕が必要ないと言ってるんですから、必要・な・い・ん・で・す!さっ、練習の邪魔です。帰ってください!』


『待て、観月。はテニスの経験者で、』


『テニスを少しぐらい知ってるからと言って何の役に立つんですか?嫌ですよ、僕は。』


『いいわ。じゃあ、テストしてもらいましょう。一週間、マネージャー業をするわ。その結果で考えてもらいましょうか?』


『ふん。本気ですか?』
『本気よ!』


『いいでしょう。なら、やってみたらいい。』
『やるわよ!』



売り言葉に買い言葉。
初対面の印象は、お互いどん底からのスタートだったと思う。



『テストをする前に一週間部活を見学させて』と申し出た。



当然だ。
やるからには部員の事はもちろん、敵(憎らしいワカメ頭の観月)を倒すためには
彼のマネージャー業とやらを知らなくては。


『ご勝手に』と片眉を上げた嫌味な観月クンの顔に闘志を掻き立てられた私。



翌日からノート片手にテニス部のデータ集収に入った。
毎日毎日、朝練から放課後の部活、ミーティング、居残り練習まで。
男子寮まで乗り込んでいって室内トレーニングも観察した。



そして私は観月クンの過酷な仕事内容と見えない努力を知った。
彼は一流のマネージャーであり、かつ努力家で真面目なプレイヤーだった。



スゴイと思った。
だが、明らかにオーバーワークだ。彼に負担が多すぎる。
赤澤が観月クンを心配する気持ちが分かる。


私は気を引き締めた。
やるからには全力で立ち向かわなくては、と思った。
観月クンは私にそれを思わせるだけの人物だ。ただし、あのヒネた性格を除いてだが。





そして、一週間後。
私のマネージャー業テストが始まった。


その前に色々と考えた。
いま、観月クンがやろうとしている事を邪魔するのは避けたいと思った。
赤澤も私には『雑用を』と言った。その意味は、観月クンの目指すものを大事にしたいということだろう。
私が積んできた経験を活かし、観月クンがもっと楽に能力を発揮できる動き方。
私なりに考え、心を決めてテストに臨んだ。


先へ先へ。観月クンが考える事、しようとすることを予測して動く。
彼が必要としているデータ、物、全てを先回りして揃える。
はじめは慣れないこともあって失敗したり、余計なことだと観月クンに叱られたりもした。


でも一週間の半分が過ぎた頃、彼は赤澤に聞いたのだそうだ。


「彼女は何者ですか?赤澤が知っているデータを寄越しなさい。」と。


そしてテスト最終日。


「仕方ないですね。あなたを認めます。ただし、これからも僕の邪魔だけはしないでください。」


と、すごぉく嫌そうな顔で観月クンは言った。





さん!ファイルは何処ですかッ」
「観月クンの脱いだジャージの下じゃない?」


「そんなはず、・・・・ありました。」
「ヨカッタね。」棒読みで答える。



さん、データまだですか?」
「今、やってますって。うるさいと集中できないってば!」


「あなたが遅いからですよ。もう、いいです。どきなさい。僕がやる。」
「駄目!そんな暇があったら何か口にしてきたら?倒れても知らないんだから!」


「あなたこそ、昼も食べてないんでしょう?そっちこそ休憩をとりなさい!」
「そっちこそ!私は大丈夫よ、ダイエットしてるんだもん。」


「馬鹿ですか、あなた。それ以上細くなって何するつもりです?」



言い合いしながらも、チョットずつお互いを労わったり庇ったりしてきた。


嫌いだったはず。
冷たい表情も。皮肉っぽい言い回しも。


なのに・・・いつの間にか惹かれていた。





「観月君。何のために、そんなに一生懸命やるの?」
「どういう意味ですか?」


「全ての時間を自分に使えば、もっと楽でしょう?
 なのに他の人たちの分も全部観月君が背負って、」


「だって、僕だけが強くなっても意味がないでしょう?」



当然のように観月君が言った。
少し、笑って。



器用そうに見えて、本当は不器用。
ずるがしこそうに見えて、本当は驚くぐらい真っ直ぐ。


テニスが好きで。仲間が好きで。みんなで強くなりたいと思ってる。



そんな彼だから・・・私は好きになったんだ。





昨日は定期検診で部活を休んだ。


相変わらず右足の血流は悪いが日常生活に支障はない。
正座が出来ないのと、激しい運動・・・テニスが出来ないぐらいだ。



、病院どうだった?」
「変わりないよ。へーき。」


「誘った俺が言うのもなんだけど、無理はするなよ。」
「大丈夫よ。かえってリハビリになってる。」



笑って答えた私の手からコーンを取り上げた赤澤は「ならいいけど」と言いながら運んでくれた。
事故から二年。削げ落ちた足の筋肉は戻らない。
砕けた骨はプレートとボルトで固定されたままだけど、外からは見えないから平気。


失くした物は多かった。
でも、得た物も多いよ。だから、大丈夫。



「赤澤」



前を歩く大きな幼馴染に声をかけた。
コーンを抱えた赤澤が僅かに首を動かして視線を向けてくる。



「あー?なんだ?」


「また大好きなテニスに関らせてくれて、ありがとう。」



足を止めた赤澤が瞳を大きくした。
でも、すぐに細められる昔から変わらない温かい目。



「お前に『ありがとう』なんて言われると雨が降りそうだな。今日は傘を持ってないんだが。」
「失礼ね!」



赤澤と顔を見合わせて笑う。
兄のようであり、弟のようであり、友達であり。
彼は私にとって、とても大切な人だ。



観月クンとは意味の違う大切な人。




















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