約束しよう 〜後編〜











3回のコールで忍足君が出た。



?今、どこ?』
「M駅から家の方に向かって歩いてるとこ。」


『コラッ、待て!勝手に帰るなっ。今から行くから、そこを動かんといて?ええな。』
「だって・・・」


『だってもへったくれもないの。とにかく動くな。一歩でも動いたら泣くで。
 駅のどっち方面?俺な、西口の本屋におるから。』



とにかく私のいる場所を口にする。ここは東口を出たところ。そう、離れてはいない。
彼が近くで待っていてくれたらしいこと。
最後に私と会ってくれるつもりらしいことがわかって、切ないぐらい胸がときめいた。



彼を待つ時間。
この街で過ごす最後の夕焼けに、大好きな人を待つ幸せ。


ありがとう。という気持ちが、体のうちに溢れてくる。



駅の方角を見つめていたら、遠くから見慣れた姿が現れた。
走ってきてくれている彼の姿が滲んできそうになって、目の奥に力を入れて我慢した。



!」と呼ばれて、笑顔を作る。子供のように元気いっぱいで手を振った。



「はぁ、お待たせ。」
「こっちこそ、お待たせ。まさか待っててくれてるとは思ってなかったから。
 もう少しで、家に帰ってから電話するとこだった。」


「酷いなぁ。今日、あいてるか?って聞いたら、会いたいんやなって普通は察するやろ?」
「そっ、そうなの?」



駄目、頬が熱くなってくる。そんな勘違いしそうなセリフは心臓に悪いからやめて欲しい。
そんな私のことなど気にも留めず、忍足君はキョロっと周囲を見渡すと寂れた公園を指差した。



「話がしたいから・・あそこ行こうか。」



頷く私を促して、公園に向かう彼。
ラケットバッグを肩にかけた後姿、いつもいつも見つめていた背中を近くで目に焼き付ける。


学生服の肩のライン、とても好きだったの。
もっと、ずっと・・・見ていたかった。



夕暮れは僅かな時間で闇をつれてくる。
公園はひっそりとして、群青色に包まれようとしていた。


その中でも忍足君の笑顔はピカイチ。
ニコニコしながら、ベンチに座るよう勧める。


おずおずと彼とは少し距離をあけて腰をおろした。



は、ここで生まれ育ったんやっけ。」
「ウン。」


「じゃあ・・・寂しいやろな。」
「忍足君だって実家から離れてるでしょう?やっぱり・・・寂しい?」


「あ〜、まぁ最初はな。けど、今はここが第二の故郷やなぁ。居心地ええし。仲間や、思い出も沢山できたしなぁ。」
「そう。私も・・・すぐに慣れるかな。」


「そ、やな。けど、俺の実家は何時でも帰れるとこやけど。は・・・もう帰られへんのやろ?」



ぐっ、と言葉につまる。
もう家族が別れてしまうから、ここに私の帰る家はなくなる。
黙り込んだ私の背中をポンポンと温かい手が叩いた。



「ゴメン。けどな、大丈夫。俺、考えてるから。」
「何を?」



意味が分からずに聞き返せば、目の前に小指が差し出された。



「約束しよう。また、会おうな。」
「忍足君?」


「知ってるか?が引っ越す先、俺の実家とは近いんやで?というても、隣の県やけどな。」



隣の県って・・・確かにそうかもしれないけれど。
だからって気軽に会えるはずもない。それでも、会おうと言ってくれる気持ちが嬉しかった。


守られない約束だったとしても、今は約束したい。
その希望に逆らうことができずに私も小指を出した。



「はい、指きりげんまん♪」



小学生みたいに嬉々として指を絡めて振る忍足君が可愛らしい。
初めて触れる指先の温もりが、とても愛しかった。



「はい、指きった!」



私は笑顔で小指を離そうとした。なのに、その指が忍足君の指に持っていかれる。
何?と彼の表情を見ようとしたときには背中を押され、顔を見ることは叶わなかった。


体は彼のブレザーに押し付けられて、時に感じた忍足君のコロンの香りがとても近く香る。
つながれていたはずの小指は、一瞬の間に彼の右手に包まれていた。



、」
「ハ、ハイッ」



状況は分かっていても信じられない私は、体を硬くして返事する。
忍足君が笑ったみたい。彼の体が僅かに揺れるのを直接に感じる。



「えっと。つかぬことを伺うけど、今の状態は分かってる?」
「た・・・多分。」


「イヤやったら、突き飛ばしてな。このままでもええんやったら、俺・・・思いっきり自惚れるから。」



言葉どおり、彼の力は強くない。
握られた右手も、背中に添えられた手も柔らかく私を包んでいる。


私こそ自惚れそう。
この意味を、どう受け取ればいいのか分からなくて。
素直に喜んでいいのか、忍足君の気持ちが分からなくて動けない。
ただ耳を当てた彼の胸からは、明らかに速い鼓動が聞こえてきていた。



「お前が住む街に大学があるの知ってるか?」
「大学?あ・・・大学病院がある。そこに大学も併設されてるけど。」


「それそれ。それ、の住む家と近い?」
「歩いて行ける距離だと思うけど・・・・」


「やっぱり?ヨシヨシ、いい感じやん。」



ヨシヨシと一緒に背中を撫でられた。
彼の言葉を体と頭上から聞く不思議な感覚に身が震えてしまう。
その声も大好きなのだから、あまり耳元で話されては混乱して話している内容が理解できないの。



「何が、いいの?」
「俺。来年は、そこへ行くから。浮気せんと待っててな。」


「ちょっ、忍足君?」



思わず顔をあげたら、彼の顔があまりに近くで心臓が止まるかと思った。
カッと赤くなるのを感じて俯けば、今度はギュッと抱きしめられた。



「あんな、は鈍すぎ。そんなところも気にいってたけど、俺ものんびりし過ぎてた。
 いつか言おう。もうすぐ言おう。って思ってるうちに3年や。
 実家からは『もう帰って来い』って催促あったけど、もおるしコッチに残ろうかなぁって思ってた。

 そしたら、突然の転校やろ?正直、焦った。
 けど、引越し先を聞いた時・・・笑うてしまうたな。『神様!ありがとう!』って思うた。

 離さへんよ。
 ちゃんと、俺が追いかけてく。
 お前の第二の故郷に俺がなるから。心配せんと、先に行っといて。」



囁くような想いを込めた声。
ずっと聞いていた、どの忍足君の声とも違う甘い声が落ちてくる。


彼の胸へと素直に顔を埋めた。力が抜けて、涙が零れる。



「離れていても大丈夫。約束する。
 必ず行くから、一人にはせんからな。

 俺は・・・が大好きや。」


「私も・・・大好き、」
「うん。確信はなかったけど・・・知ってたよ。」


「約束、」
「うん。約束、」



気づけば私達は群青色に飲み込まれて、ひとつになっていた。
温かい彼の腕の中。



約束を信じるよ。
新しい街で、あなたを待っている。


きっと叶えられる約束だと信じて。










春。
桜の花びらがトラックのフロントガラスに積もっていた。



「ね、この荷物はどこ?」
「あーっと、それ服やから・・・奥の部屋に放り込んで。」


「奥ね。ハイ、ハイ、」



奥の部屋は桜並木に面していて、まだカーテンのついていない窓には一面に桜が咲いていた。
ついつい手を休めて窓の外に見惚れていたら、背中から手が伸びてきて肩を包まれた。



「ええやろ、ここ。彼女の家まで徒歩5分。大学までは徒歩10分。お花見は部屋から。最高の立地条件やろ?」
「ホント、いい所ね。」


「けど一番は・・・がいること。」
「ちょっと、」



首筋に顔を埋めてくる彼に焦る私が体を捻ってもビクともしない。



「な、。約束しよう。」
「なに?とにかく、離してっ。まだ、隣で引越しの荷物を運んでるって。」


「絶対、別れない。」
「なに、それ?」


「いや、だって。ここで別れられたら・・・この大学に来た意味がなくなるやろ?
 家やって、お前の近くやし。だから、別れない。別れたくない。ま、できたら一生・・・よろしく?みたいな。」


「侑士、」
「約束するなら離してやってもええよ?」



そんな嬉しい約束を強請る彼が大好き。



「いいよ、約束しよう?」
「ヨシヨシ、約束な。」



向き合って。お互いの小指を差し出して絡める。



あの日のよう。
彼が子供のように指きりげんまんを唄いだす。





約束しよう。



ゆびきった!




















約束しよう  

2005.11.09  

私も約束したい。




















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