足りないもの 後編










明日は忍足君の誕生日。


共に過ごす計画を二人でたてるはずだったのに、何ひとつ決められないまま。



『この前はゴメン。泣かせるつもりはなかったのに。
 明日は部活を早めに切り上げるから、いつものバス停で会おう。
 その時に俺から話したいことがある。顔を見て話したいから・・・絶対に待っててな。』



忍足君からメールが来たのは夜も更けてから。
何度も電話しようとして、かけられず。
ただ彼からの連絡を待っていた私には、嬉しいような悲しいようなメールだった。



もう、駄目なのかもしれない。



思えば泣いてしまう。
机の上に置かれた忍足君への誕生日プレゼントが切なくて抱きしめた。





翌日は約束の時間まで忍足君と顔を合わさないよう気をつけた。
『話したいこと』を聞くのは、一秒でも先がいい。



廊下を他の学年のコたちが多く行き来しているのは跡部君の誕生日と同じ。
クールな跡部君と人好きする忍足君が人気を二分しているという噂は本当だったようだ。


ざわめく廊下の音に耳を塞ぎたい気持ちで時間をやり過ごす。
放課後など来なければいいと思っていたのに、いつもと同じように下校時間となっていた。


どうしても通らなくてはならない彼の教室。
廊下で待つ女のコたちがソワソワと教室を覗き込んでいる脇を通らなくてはならない。
前だけを向いて足早に通り過ぎようとしたら、階段から上がってきた忍足君と鉢合わせしてしまった。


あ、とお互いが目を見開く。
だけど周囲のコが彼を見つけるのは早かった。



「忍足クン!」
「どこ行ってたの?これ、誕生日のプレゼントなんだけど。」
「オッシー、おめでとう。これさ、私たちから。」


「あ・・ありがとう。えっと、けどちょっと待ってくれるか?」



一瞬のうちに女のコたちが忍足君を取り囲み、色とりどりの包みを差し出す。
誰かが声を掛ければ、弾みがついたように人が集まってきた。


プレゼントに埋もれていく忍足君。



そうか。なんで気付かなかったんだろうね。
彼は・・・私なんかが好きになっていい人ではなかった。



茫然と立ち尽くす私の体は集まってくるコたちに弾かれて壁側に押された。
その衝撃で頬に涙が零れ、自分が泣いているのを知る。



行こう。
ここは私のいる場所じゃない。



!」



人に紛れるようにして逃げ出した時、背中から名前を呼ばれた。
肩越しに少しだけ振り返れば、まっすぐ私を見つめている黒い瞳があったけれど足は止めない。止められない。
勢いで階段を走り降り昇降口を目指した。



はやく、逃げなきゃ。はやく、はやく、はやく。



お喋りしながら歩く生徒達にぶつかりながら昇降口にたどり着く。
零れる涙を手で拭い、靴箱に手をかけようとした。


その手が後ろから掴まれる。



「逃げ足、早いなぁ。けど逃がさへんで。おいで。」



口調は柔らかいが、忍足君に笑顔はなかった。
居合わせた周囲の生徒が何事かと振り返るのに、忍足君は私の手を掴んだまま歩きだす。



「は・・放して」


「放したら俺のもとから逃げ出すつもりやろ?せやから、駄目。」
「で、でも・・人に」


「俺は見られても平気や。」



ハッキリ言うと、乱暴にも思える力で私を引っ張っていく。
擦れ違う人たちの視線が痛い。だけど忍足君は真っ直ぐ前を向いて歩き続けた。



「誕生日プレゼント、誰からも受け取ってないよ。」
「え?」



私に背中を見せたままの忍足君が言う。



「付き合ってる大事なコがいるから、ゴメンナサイって断った。
 本当はに相談してから言うつもりやったけど、もう手遅れになりそうで焦ってたから。

 あの時・・お前が俺との付き合いを『誰にも言わない』と言った時、なんで頷いてしもうたんやろうと後悔してた。
 俺と付き合うことでに害が及んだらと心配したこともあったけど、そんなん俺が全力で守ればええだけの話やったのに。

 ずっと好きやった。バスで定期を拾う前から、ずっとやったのに。
 こんなことで泣かせて、お前を失うなんて俺は嫌や。」



私は忘れていた。
こんな私に付き合おうと言ってくれた、忍足君の気持ちを。


自分のことばかりを考えて。
恐れて、臆病になって、忍足君が私に向けてくれる想いを受け止めてなかった。



「ごめん・・なさい」
「謝られると、先がないみたいで不安なんやけど?」


「私も・・忍足君を失くしたく・・・ない」



突然、忍足君の足が止まった。
廊下の奥にある多目的室という名の空き教室の前。


忍足君の手がノブにかかったのは見えた。
が、扉が開いたと思った次の瞬間には教室に引き込まれていた。


背中で扉が閉まる音を聞く。
もっと近く聞こえるのは忍足君の少し速い鼓動だった。



「こんなんじゃ、全然足りん。もっと、お前が欲しい。」
「うん、」



私の肩に顔を埋めてくる忍足君のくぐもった声を聞きながら、体を包む腕の強さに息が漏れる。
足もとにカバンが落とし、私も忍足君の背中を抱きしめた。
とても愛しい背中を精一杯の力で。



私に足りないもの。
それは自信でも、勇気でも、我慢でもなかった。


足りないのは忍足君、そのものだったんだ。



お願い。
私以外の人からは物も心も受け取らないで?
私だけを見て、私だけを傍に置いて?


私の持つもの何でもあげるから。
私を忍足君で満たして欲しい。



「すぐに満たしてあげよ」



嬉しそうに忍足君が言う。
その声に私は満足して目を閉じた。




















足りないもの 

2007/09/29 誕生日プレゼントss 

愛してます




















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