俺の・・・(後)
「なんやて?」
「何度も言わせんじゃねぇ。俺は、忙しいんだよっ」
跡部は、不機嫌に。それでも、仁王立ちのまま俺の前に立っている。
俺は。昼間とは違った意味で、ドクドクと鼓動が打つのを感じていた。
「やって。何で、跡部・・・」
「お前の身長と俺様が、同じぐらいなんだとよ。」
「・・・・。」
聞こえよがしに溜息をついてから。跡部は言葉を続けた。
「お前に編んでるマフラーは、お前にしか巻きたくないから。自分のマフラーで長さを測らせてくれって。
可愛いこと言ってたぜ。」
「ああ・・・もう。あかん。」
俺はその場にしゃがみこんだ。膝から下の力が抜けて。
自分のしでかした過ちに、目の前が真っ暗になるとは・・・このことだと知った。
頭を抱え込んだ俺に。チッ・・・と、跡部の舌打ちが聞こえてくる。
「お前ら、今日から新しいフォーメーションを試すんだろうが?んな腑抜けに、できんのか?」
「・・・できんと思う。」
「いい加減にしろっっ!蹴るぞっ」
「悪い。跡部。腹の具合が悪いねん。病院行くから、1時間だけ抜けさせてくれっっ!頼むっ!」
下から涙目で拝む俺を、跡部の呆れ顔が見下ろす。
それでも。
「勝手にしろっ」 と言い残し。さっさと部室を出て行った。
よし。覚悟は決まった。に、謝り倒すっっっっ
「岳人ーっ!病院行くから、自転車貸してくれーっ!」
「げっ。侑士。マジ、具合が悪かったのか?」
「悪いな。絶対・・・いや、多分、戻ってくるから。空中技でも磨いててくれっ」
「待てっ。お前が戻ってこないと、自転車が返ってこないだろ?それ、困るって。」
後ろで、岳人の声がしたが。すでに俺は、ペダルを踏んでいた。
猛スピードで、を探す。
靴箱に靴は残ってなかったし。学校の外には、出ているはず。
走りながら携帯を耳に当て、を呼び出す。
ちっともでない。そりゃ・・・出んよな。疑われたうえに、捨て台詞や。
俺やったら・・・どん底に落ち込んでる。
留守電に切り替わった。
「。ごめん。俺の誤解やったん。本当に、ごめんっ。とにかく会いたいから。会って謝りたいから。電話して?」
自転車を止め。必死に、留守電に向かって謝る。
続けてメールも打つ。
電話と同じ内容を打って。送信。
見えない電波に向かって。頼むな・・・と願いをかける。
さて。とにかく、家に行こう。ちょっと、遠いが。そんなこと言うてられへん。
信号で止まるたび。電話して。メール送って。
まるで、ストーカーか。嫌がらせ状態。それでも、俺は必死。
『お前の代わりなんか、いくらでもおんねんっ』
その言葉が。何度思い出しても、苦しくて。けど、俺の苦しさの何倍も。は辛かったはず。
どんな気持ちで、あの言葉を聞いたんだろう?
俺のこと。どう・・・おもったんやろ?
考えただけて胸が痛む。
素直じゃない、。そんな彼女が、こっそりと俺に編んでいたマフラー。きっとバレンタインデーのプレゼントやん。
俺に嘘ついたのも。跡部に頼んだのも。全部、俺を驚かせるため。
ああ。本気で時間を戻したい。
「。ごめん。お願いやから、声を聞かせて?跡部に聞いたん。俺が、悪かった。
嫉妬して、心にもないこと言うたん。。」
プツ・・・ツーツーツー。留守電の時間切れ。
「。お前の代わりなんて、本当はどこにもおらんねん。お前やないと。やないと、ダメなん。
頼むから。電話に出て?」
プツ・・・ツーツーツー。
駅について。自転車に跨ったまま、もう一度、携帯を取り出した。
電池の残量が少なくなってきた。ヤバ・・・。
トュルルルル・・・・。プツ。呼び出し音の後、続くであろう留守伝の声を待つ。
待てど、機械的な声がしてこない。あれ?と、思ったとき。スピーカーから、オルゴールみたいな音色が聞こえてきた。
「っ?」
返事はない。腕時計を見たら、3時だった。このオルゴール・・・間違いない。
駅の裏にある公園のからくり時計だ。
「っ。頼むから電話、切らんとってな。何も言わんでいいから、俺の話・・・聞いて?」
無言の電話に話しかけながら、公園に急ぐ。は、近くにいる。
「俺な。が、好きで。どうしようもないくらい好きで。
俺がめちゃ好きな想い。お前が俺を好きな気持ちと天秤にかけたら、絶対・・・俺のほうが好きで。
なんか、いっつも不安やったん。お前も、俺が好き・・・って言うてくれたけど。ホンマかな・・・って。」
電池がどこまで持つか分からない。それでも、精一杯の想いを、に伝えたい。
「お前が跡部にマフラーしてるの見て。俺・・・悲しかった。苦しくて。嫉妬して。
やっぱり・・・は俺のことなんかって。アホやろ?
俺、のこと・・・信じてなかった。好きやのに。こんなに好きやのに。ごめんな?
もう、俺のこと嫌いになった? でも・・俺は、が好きや。」
駅の裏手にまわった。耳に携帯を当てたまま、自転車を公園の入り口に乗り捨て、中に入る。
からくり時計があるのは、奥だ。鳩が呑気にエサをついばんでいる横を走りぬける。
「。」
プツ・・・と携帯の電池が切れた。真っ黒になったディスプレイ。
でも。もう、電話は必要ない。
白いベンチに座っている、小さな背中を見つけたから。
は、携帯を耳に当てたまま、俯いていた。
ベンチの隣に、大きなゴミ箱があった。その中に、ひときわ目立つ・・・赤い物。
まさか?近づくにつれ、確信に変わる。それ・・・って。
「これが、俺のマフラー?」
俺は、ゴミ箱に手を突っ込んだ。錆びた鉄のゴミ箱に、雑誌やら缶やらが放りこまれてる。
その上に、捨てられていた。真っ赤のマフラー。
柔らかなマフラーを手にして顔を上げたら。振り向いた、と目が合った。
泣きはらした顔に。俺も泣きたくなる。
俺は、マフラーについていた枯葉をはらい。くるくるっとマフラーを首に巻いた。
編みかけのマフラーは端の始末をしてなくて、ほつれていたけれど。
あったかくて。柔らかい、マフラーだった。長さも丁度いい。
「どうや?似合うやろ?長さも、ええみたいや。」
の瞳に、みるみる涙が溢れてきて、ポロ、ポロとこぼれる。
「ありがとう、。それと・・・ごめん。」
が両手で顔を覆った。俺は、ベンチの前に跪いて。そっと、の体を抱きしめる。
拒否されるかもしれない。だから、そっと。そっと。壊れ物でも抱くように。
けれど。俺の手は、弾かれることもなく、の背中にまわった。
またそっと、の頭を自分の肩に押してやる。
そして。優しく。優しく。の髪を撫でた。
「侑士の・・・バカ。」
小さな、のつぶやきに。
フッ・・・と、安堵の笑みが零れる。
「ん。バカやんな、俺。」
は、赤いマフラーが巻かれた俺の肩に顔を埋めたまま、静かに泣いた。
悲しかったのだと。自分の代わりは、たくさんいるのだと。
悲しくて。悲しくて。ただ、悲しくて。・・・と。は言った。
俺は、大事な大事な恋人を抱きしめて。ただ、ただ抱きしめて。
謝って。名前を呼んで。好き・・・と囁いて。
誰ひとり。の代わりになんか、なれないことを。
今さらやけど、思い知った。
俺の・・・大事な人。俺の・・・恋人。俺の・・・。
「忍足。ウザイっ」
「なんでぇ。似合ってるやろっ?なっ、なっ。」
「侑士さぁ。まあ、似合ってるけど、部活にマフラーは邪魔だろ?」
跡部は、冷たい目で俺を見た後、捨て台詞。
岳人は、呆れながらも褒めてくれた。さすが、ペアやん。
昨日のバレンタインデーに。俺は、チョコと一緒に、例のマフラーを貰った。
もちろん。きちんとした完成品をや。
真っ赤のマフラー。真っ黒い髪の俺には、よく映えて。さすが恋人の見立てだと嬉しくなる。
「あれは、去年だったか?
跡部と忍足、ふたりしてよ。手作り品は気持ち悪い・・・とか言って、ゴミに捨ててたよなぁ。」
「そうだった。そうだった。今は、彼女の編んだマフラー巻いて部活してるんだから。恋は人を変えるよね。」
宍戸と滝が聞こえよがしに話している。
なんとでも言ってくれ。
そう。俺は変わった。に出会って。本当の恋をして。嫉妬なんかもして。
本当の恋は。楽しいだけのものじゃないけど。それでもいい。
貪欲に相手を欲しがって。全部、全部、俺のものにしたくなる。それでもいい。
それが、俺だから。
は、俺の・・・。俺のものだから。
「俺の・・・」
2004.12.2
戻る テニプリ連載TOPへ