むぞらしか君 (前編)









それは、俺にとって唐突だった。
誕生日おめでとうございますと、
妹と一緒に買ったというプレゼントを差し出されて手を伸ばした時だった。



「橘先輩のことが好きです!」



一瞬は何を言われたのか分からず呆けていたが、言葉の意味を理解した途端に頬が熱くなった。


自慢するわけではないが時々こうやって呼び出されることが少なからずある。
そんな時はこちらも心構えをして臨み、相手を傷つけないよう注意しながらもハッキリ断わるようにしていた。


なのに今回は油断していた。
まさか妹の親友から告白されるなどと思ってもいなかった俺は不意打ちを食らって焦る。


彼女は妹と同じ、一つ下。
女テニに属し、練習に一生懸命打ち込む真面目な子だ。
日に焼けた小麦色の頬を赤く染め、唇をかみ締めるようにして俯く姿は可愛らしい。


だが、今まで妹と同じよう接してきたコに恋愛感情は持てない。



「あ・・・いや、すまない。急なことに驚いているんだが、その、」



何と言えば彼女を傷つけずに済むだろうか。
杏の友達だし、ウチにも良く遊びに来ている。
テニス部でも顔を合わす相手だ。


マイッタな・・・


俺の困惑を見て取ったのか、先に彼女が口を開いた。



「やっぱり、駄目・・・ですか?」


「いや、君が駄目とかそういうんじゃないんだ。
 なんていうか、そんなふうに考えたことがなかったというか。
 妹と同じように思っていたから、そんな対象として考えたことがなかった。」



しどろもどろだが、なんとか俺の気持ちを口にした。
彼女が俯き加減になり黙り込む。


ひょっとして泣かれるんじゃないかと内心慌てる俺。
でも、顔をあげた彼女は笑顔だった。



「分かりました。すみません、先輩。
 急にこんなこと言って困らせちゃいましたね。
 あの・・・今日の事は忘れてください。その方が私も杏ちゃんと気まずくならずにすみますから。」


「あ、ああ。」


「あ、そうだ。プレゼントは本当に杏ちゃんと二人で買ったんです。
 半分は杏ちゃん持ちなんです。だから・・・嫌じゃなければ使ってください。」


「いや、使わせてもらうよ。ありがとう。」


「じゃあ、また。ありがとうございました!」



彼女は礼儀正しくペコリと頭を下げると、ニコッと笑って俺に背を向けた。
あっさりと引いてくれたことにホッとしながら、綺麗な包みに目を落とす。


妹と同い年の後輩、杏と同じように可愛いとは思っていたが。
他に言いようがなかっただろうか。


なんとなく後味の悪い思いで、彼女が消えた校舎の窓ガラスに反射する西日に目を細めた。










「お兄ちゃんのバカ!」



居間に入るなりクッションを投げつけられた。
何なんだと聞くより前に杏が一方的に怒って喋る。
つまりはの告白に応えなかったことに怒っていた。



「仕方ないだろう。恋愛感情も持てないのに、ハイハイ付き合いますとは言えんだろう?
 それこそ彼女を傷つけることになる。」


の何処が不満なの?あのコ、可愛いから人気あるんだよ?
 石田君とか伊武君だって狙ってるんだからね!バカだよ、お兄ちゃん!」


「可愛いとは思うが、なんていうか・・・お前と同じように思えてな。」


「そんな理由で振ったの?付き合ってもみないで?のこと、なにも知らないくせに!」


「それを言うならだって俺のことなど大して知らないだろう?」


「何、言ってんの?は中学から、ずっとお兄ちゃんの事だけを見つめてきたんだよ。
 お兄ちゃんに憧れてテニスを始めて、少しでもお兄ちゃんに近づきたいって毎日頑張ってきたんだよ?
 それを簡単に振って、」



杏は話しているうちに目に涙まで浮かべている。
別に俺だって簡単に振ったわけじゃない。
事前に分かっていれば、もう少し思いやりのある言葉だって考えられたかもしれないのだ。



「杏、仕方ないだろう?それには笑顔で『分かりました』と言ってくれた。」


「そんなのお兄ちゃんに気を遣わせない為に決まってるじゃない!
 告白しちゃえって焚きつけた私にまで気を遣って、大丈夫って笑ってたよ。
 でも・・でも、ちゃん泣いてた。
 泣きながら笑顔作って、杏ちゃんゴメンねって・・・ゴメンねって言ったんだから!」



驚いた。
まったく落ち込んだ様子も見せずに笑顔で去っていた彼女が泣いていたとは。
可哀相なことをしたと胸が痛む。



「なら、どきゃんすっと良かったか?」



杏は涙を瞳いっぱい溜めて俺を睨んだ。



「もうしょんなかたい。」 



・・・もう仕方ない。そう小さく呟いて、杏は部屋を出て行った。 





それから暫く、俺は杏にシカトされ続けた。
女テニと隣り合わせのテニスコートで練習する俺は、どうしてもと顔をあわせてしまう。


杏に彼女が泣いていたと聞かされ心配した俺だったが、彼女は今まで通りに笑顔で挨拶していく。
怒った妹に無視し続けられている以外は本当に何事もなかったかのような感じだった。


だが俺の気持ちはスッキリしていなかった。


彼女は明るく健康的なコだ。
見かけるたびニコニコとして友人に囲まれている彼女。
他人にベッタリしないはずの杏までが彼女の腕に纏わりつくようにして甘えていた。


部活には早くから来て素振りや柔軟をしているし、
終わった後も暗くなるまで後片付けやコート整備を真面目にしている。
高校から始めたテニスは技術的にはまだまだだろうが、その努力する姿は好感が持てた。



『お兄ちゃん、ちゃんにコーチしてあげてよ。』



休みの日に頼まれて、近くのコートで妹を交えてコーチしたこともあった。
俺の言うことは一言も聞き漏らすまいとしている彼女の態度に感心したものだ。



もう一度、きちんと謝った方がよくないか。
プレゼントの礼は確かに言ったが『すまない』と詫びていない。


二人からプレゼントされた黒のリストバンドを見るたび、彼女の笑顔と妹の涙を思い出し複雑な気持ちになってしまう。


ついつい俺の視線はを追い、
気づけばいつも彼女のことを考えるようになっていた。




















テニプリ短編TOPへ     次へ