僕にチョーダイ -前編-










本日、三月五日は幸村精市の誕生日だ。
彼は知る人ぞ知る立海大テニス部の部長であり、神の子とも呼ばれる才能を持つ男。
しかし彼からテニスを除くと何も残らない・・・なら、まだ良かった。
残されるのは『我儘プリンスの俺様体質』であった。


この物語は、そんな彼と共にテニスに打ち込まなくてはならない不幸な部員たちの物語である。





幸村誕生日の一週間前のこと。


レギュラー陣全員が参加しているミーティングの終了間際だった。



「以上で伝達事項はすべてだ。質問のあるヤツはいるか?・・・いいな。では、最後に幸村は何かあるか?」



つまらなそうに真田の似顔絵を部誌の隅に落書きしていた幸村が顔を上げた。


にっこりと綺麗に微笑んだ幸村の顔を見て、瞬時に周囲の人間は身構えた。


嫌な予感がする。


異様なほどご機嫌な笑みを浮かべた幸村。
こんな表情を見せるときに、良いことなどあった例がなかった。



「忘れてないと思うけど、来週は俺の誕生日なんだ」



やはり、そこにきたか。
忘れていたら許さないぞ、コラ。が、言葉の裏にあると思うのは深読みか。





柳は思う。


『毎年のことだが、この時期は頭が痛いものだ。さて、今年は何を言い出すのか・・・』




仁王は顎に手をあて、天井を見上げた。


『シマッタ、うっかりじゃ。五日は新しい彼女の家にお泊りじゃったが・・・
 何か大事なことがあったような気がしたのは、コレじゃった』





柳生は冷静にメガネを押し上げる。


『とうとうきましたか。そろそろ言ってくると思っていたのですが、予想より遅かったぐらいですよ
 その様子では仁王君・・・忘れてましたね?』





ジャッカルは額の汗をタオルで拭い、そのまま眉目を押さえる。


『ゲッ。またそんな時期になってたのか
 去年の貯金箱は目の前で真田に譲られてしまったしな。プレッシャーだ』





丸井はチューインガムを膨らましながら周囲を盗み見る。


『おいおい。俺らの誕生日なんか「へぇ、今日だったんだ。オメデト。じゃあ、お先に〜」
 って帰っちまうようなヤツだぜ?なんだか不公平だよなぁ』





赤也はウンウンと頷いて、考えた。


『幸村部長の誕生日か。超早生まれのわりには最強だよな』





そして真田は大真面目に考えている。


『今年は何をくれてやろう。やはり健康器具か?去年の青竹踏みは速攻で捨てられたがな』


昨年の青竹踏みは「いらない」の一言で部室の外へ放り捨てられたので、今年は慎重な真田だ。





様々な思いが交錯する中、幸村は全員を見回して明るく告げた。



「別にさプレゼントを請求してるわけじゃないけど、もし・・どうしてもくれると言うのなら」


「液晶テレビはムリだぞ」
「プレステ3もムリじゃ」
「トイプードルもムリです」
「ハワイ旅行もムリだ」



部員達は請求されて困るものを次々とあげる。



「まだ一言も言ってないじゃないか!」



憤慨する幸村を横目に、真田は腕組みをしたまま溜息をついた。



「去年の誕生日にムリな要求をしたのは誰だ?」



「誰一人叶えてくれなかったくせに」
「叶えられるレベルを超えているだろう?」


「フン。真田のケチ。なんでウチに跡部が来なかったんだろう。立海に入学してたら使えたのにさ
 もういいんだ。お前たちが貧乏なのは良く分かった
 でも俺は優しいからね。今年は金が一切かからないものを考えてやった。感謝しろ」



感謝しろと言われても・・・部員達はゲンナリして幸村の言葉を待つ。
タダより怖いものはない。柳の頭には嫌な言葉が掠めていった。



「で?その金のかからない欲しいものとは?」



部員達は息を呑む。
頼むから命と犯罪には関わらないものでありますように!



「あのね、ちゃん。ちゃんを僕にチョーダイ♪」



人間かよっ
と、その場にいた全員が思った。


それも紅一点の可愛いマネージャーをチョーダイとは。



「彼女は物ではないぞ。ちゃんとした意志のある人間だ
 俺たちの都合でお前にプレゼントできるものではない」


「弦一郎の言う通りだ。さっさと自分で交際を申し込めばいいだろう?」



真田と柳が言い聞かせるが、幸村は口を尖らせると真田の似顔絵に鼻毛を書き足した。



「そんな大それたマネが出来るなら、とっくにしてるよ
 俺はね、お前たちと違って心が繊細で傷つきやすいんだ
 もしもちゃんに『幸村先輩、ゴメンナサイ』なんて言われたら・・・俺は絶対に耐えられないっ」



幸村が失恋した時のトバッチリを思うと俺たちのほうが耐えられないだろぃと、丸井は思う。
ちょっと考えさせてくれと柳が言い、幸村以外のレギュラー陣が部室の隅に集まって相談を始めた。



「どうする、弦一郎?」
「どうすると言われてもの気持ちしだいだろうが・・・なんとも言えんな」



額を寄せ合うようにして、ボソボソと会議が始まった。
幸村は手にしたボールペンを鼻の下に挟み、椅子で足をブラブラさせて待っている。



「あんな頑張ってマネージャーやってくれてんのに、我儘部長まで押し付けるのってカワイソウじゃねぇ?」


「丸井君の言う通りですよ
 さんが幸村君に好意を抱いているならまだしも。そうじゃなければ、ただの生贄ですよ?」


「生贄とはナイスな表現じゃ、ヒロ
 まぁ、中身はともかく見た目は問題ナシの部長さまじゃ。顔だけで選べは悪いこともないじゃろ」 


「俺、同じクラスだし。にそこらへんを聞いてみるっスよ」
「赤也の言う通りだ。まずは彼女の意志を確かめた方がいい」


「フム。ジャッカルの意見に俺も賛成だ」



柳の言葉に全員が頷いた。
クルッと全員が振り返ると、幸村は呑気に机に肘をつき大あくびをしている。



「全員で話し合った結果、プレゼントの件については少し考えさせてもらうことにした」
「ふーん」


「後日、どうするか返事をする」
「分かった。けど・・・」


「けど?」



目が笑っていない幸村。
全員が寒気を感じながら、その先を息を詰めて待つ。



ニコッ、と急に目を弓なりにして笑った彼。



「やっぱり、いいや。じゃ、帰ろうか?ふふん、誕生日が楽しみだなぁ」



シーンとした部室。
教えてもらえない方が余程怖いということを知った部員達であった。





















僕にチョーダイ 前編 

2009.05.05




















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