誓い 1










「お前、いつ帰国するんだ?」
「今やってる検査がクリアできたら。来週には帰れそうかな?」



は簡単な事のように言って、手塚が手土産に持ってきたリンゴを口にした。
手塚の方は眉間に皺を寄せ、相変わらず不機嫌な顔で彼女の顔を見ている。



「それで?」
「それでって?」


「帰ってから、どうするんだ?」
「手術したからって即健康体になるわけじゃないからね、また日本で入院する。」


「それはそうだろうが。そんなことじゃなく・・・俺達はどうするんだ?」
「俺達って、ああ・・・光クンねぇ。どうしよう。国ちゃんが飼うのは、やっぱり無理かな?」


「違う、光のこともあるが。人間の方だ、」
「人間?」



口をモグモグしながら、キョトンとして自分を見てくるが憎らしいと手塚は内心で舌打ちをした。



「俺とお前。これから先をどうするのかと聞いている。」
「えっ、国ちゃん。そんな顔して、そんなこと気にしてたんだ?」


「顔と、どういう関係があるんだ?、いい加減に・・」



そこへ看護師が入ってきて話は打ち切られた。
は水色のカーディガンを羽織るとニコッと微笑む。



「また検査なんだ。長くなるから帰ってね。じゃあ、」




が細く棒のような足をベッドから下ろそうとするのを手塚がさりげなく支えて車椅子に移した。
まるで今から何か楽しい事でも待っているかのごとく、はニコニコして「バイバイ」と手塚に手を振る。
病室の出口まで送った手塚は小さく溜息をつくと「また、明日くる」と、の背中に告げるのだった。





難しい心臓の手術が成功して、もう数ヶ月が経っていた。
その間も外出や外泊を繰り返しながら回復を図ってきたも、やっと帰国が許可されるまでになってきた。
それはそれで喜ばしい事なのだが、手塚にしたみたら喜んでばかりもいられない。


手塚の拠点はアメリカ。は日本に帰る。
ぞくに言う、遠距離恋愛。それも、国をまたいでだ。
それだけでも頭が痛いのだが、もう一つ手塚を悩ましているのが『の気持ち』だった。



これからの事を真剣に話したいと思うが、その話題を振れば先ほどのように上手くかわされてしまう。
帰国の日が迫ってきているからこそ、ちゃんと話をしたいと思うのに。
とはろくな会話が成立しなかった。



嫌われてはいないと思う。



『きっと、もっと好きになるわ。』



手術に成功して試合を見にくるんだと約束をせまった手塚に、は嬉しそうに言った。
そして約束どおり、手術後に招待した試合をは見に来た。
試合後、手塚はに聞いてみたのだ。



『で?もっと好きになって貰えたのだろうか?』
『もちろん!』



屈託なく彼女は笑ってくれた。
どう考えても、相思相愛だろう。なのに、何故だ?



先週の外泊も手塚の部屋へ当然の如くやってきた
ソファに座りネコをあやす彼女の隣に座って、そっと髪を撫でた。
嫌がるふうでもなかったので、次には肩を抱き頬に口づけた。
それにも、くすぐったそうに肩をすくめたが可愛らしくて、手塚は彼女の頬を包んで唇を寄せようとした。
が、柔らかいであろう唇の感触は予想に反して湿ってザラザラしていた。



にゃあ、と。ネコが鳴く。



目を開けば、そこにはネコのドアップがあって・・・手塚は眩暈がした。



!」
「光クン、とうとう国ちゃんに唇を奪われてしまったのね。男同士だけど・・・まっ、いいよね?」



こんな具合で、近くにいるのに触れられない。
なんともいえない欲求不満が手塚の中に積み重なっていた。





病院の広い敷地を苦々しい出来事を思い出しつつ歩き、広い通りに出ると短いクラクションが鳴る。
見慣れた車が滑るように近づいてきて手塚の前で止まった。
手塚は一度、白く光る病院を振り向いてから車のドアを開いた。


キムラはバックミラーで手塚の顔を見ると、呆れたように笑う。



『ハニーに会ってきた割には不機嫌だね?』
『今日も、まともな話が出来なかった。』


『まぁ、そんな怖い顔をしてたら甘い会話はできないだろうね?叱られそうだ。』
『始めから、こんな顔をしていたわけじゃない。アイツが話を逸らすからだ。』


『ふ〜ん。話を逸らす・・・ね。何か彼女なりの理由があるのかもしれないよ?』
『理由?なんだ?』



キムラはゆっくりとハンドルをきりながら肩をすくめた。



『さぁ、女心と天気には疎いからねぇ。でも、彼女は大胆なようで繊細みたいだから・・・
 胸に秘めているものがあるのかもしれない。』
『随分と女心を熟知しているようだが?』


『いやいや。今朝もハニーとパンにブルーベリージャムを塗るかピーナツバターにするかで喧嘩さ。
 俺なんか、まだまだだねぇ。』



はぁ、と溜息をつくキムラを後ろから眺めつつ、の笑顔を思い浮かべていた。
確かに彼女が何を考えているのか、手塚には全く理解できない時がある。
どう考えても女性の心理には疎い自分。
が何を思い、自分のことをどう思っているのかなど分かるはずもなく、溜息の数ばかりが増えていた。










翌日。
いつものコートで練習をしている手塚の目に、予想もしていなかった人物の姿が映った。
フェンスの向こう、久しぶりの再会でも喜ぶかのごとく大げさに手を振るがいた。
戻ってきたボールをカットすると、そのままコートから出てのもとに向かう。



「どうした?外出許可を貰ってきたのか?」
「ううん。さっき、退院してきたの。で、お母さんが挨拶をって、」


「退院?そんな、急に」
「でね。明日、日本に帰るね。」


「なに?」



手塚は言葉を失った。突然退院してきたかと思えば、明日帰国するという。
頭が真っ白になり、鼓動が早くなって来た。
眉間の皺をこれ以上は深くできないというほど刻んだ手塚に、の母親がおずおずと近づいてお礼を言い始めた。


だが、手塚の耳には母親の言葉など右から左へと抜けている。
じっと睨みつけるように見つめたは、何が楽しいのかニコニコと笑うばかりだ。



「手塚さんにはご迷惑ばかりをかけてしまったのですけど、」


「すみませんが。今夜、さんをお借りしてもよいでしょうか?」



の母親が話しているのを遮るように手塚が言う。
驚く母親に、尚も重ねるように手塚は言って頭を下げた。



「どうしても彼女と話したい事があるんです。お願いします。」



手塚が顔をあげると、困惑した母親の隣でが小さく笑って目を伏せた。



















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