つきせぬ想い 最終章
実家からの帰り道。車の中で、携帯が鳴った。
「あ、。電話、出て。」
胸ポケットから電話を取り出して、私に差し出すから慌てる。
「で・・でも。」
「跡部からや。が出ても、大丈夫。」
携帯を見ると。確かに、跡部景吾の文字。躊躇いながらも、電話に出た。
「もしもし。」
『お前・・・か?』
「うん。」
『とうとう、捕まっちまったな。アイツの執念には抗えなかったか。』
「跡部君。」
『悪かったな。お前の居場所・・・教えちまった。人生・・・変えちまったかもしんねぇ。』
「ううん。感謝・・・してる。」
『そっか・・・。なら、いい。忍足に伝えてくれ。仕事の件は了承された。
明日からでも来いってよ。』
「仕事?」
『なんだ、聞いてないのか?忍足は、俺の下で働くことになった。
お前のために、家を捨てたんだぜ?愛されてんな、お前。』
「嘘・・・・。」
『ふん。社宅にも入れるように手配してやった。二人で2LDKありゃ、充分だろ。
社宅っていっても、マンションだ。
しばらく落ち着くまでは、我慢するんだな。じゃ。またな。』
「まって、跡部君っ」
切られた電話。侑士は、いつもの笑みを浮かべながら「何やって?」と首をかしげる。
「跡部君の下で働くの?」
「ああ。了承されたんか。そりゃ、良かった。のヒモにはなりたくないしなぁ。」
「忍足の家は?捨てたって・・・本当?」
私の声は震えていた。心臓が、激しく鼓動を刻んでいる。
「ん?ああ、そんなこと。たまたま俺が、本家の長男やった・・・いうだけや。
俺の代わりなんて、いくらでもおんねん。俺としては、やるだけのことしたし。
こんなやる気のない奴が後を継ぐより、 よっぽと忍足の家も発展するやろ。」
「けどっ、そんな簡単なことじゃないんでしょ?だからっ・・・あの時、別れたんじゃなかったの?」
キキッと車が止まった。気付けば、公園脇に車は止められていた。
サイドブレーキを引いて、侑士が私の方に体を向ける。
「そう・・やな。あの頃の俺には、何の力もなかった。子供やった。
道は一つしかない・・・って思い込んでた。
大人になって。いろんな道があることを知ったんや。
その道が、脇道にそれてても。細い道でも。険しい道やったとしても。
行こうと思えば、どんな道でも進んでいける。だから・・・ええねん。
俺は、お前と。新しい道を歩くことに決めた。それだけのことや。」
「侑士・・・。」
「俺も、お前も。遠回りしたけど。ちゃんと、道はひとつになった。それで、ええやろ?」
「ごめんね。ごめん・・・侑士。」
私だけじゃなかった。彼も、多くのものを失って。それでも、私を望んでくれている。
こんなにも、必要とされているのに。なにを不安に思うことがある?
侑士の手が伸びてきて、くしゃっと頭を撫でられた。
「謝ることなんてない。今度、謝ったら・・・その口、塞ぐからな。
さてと、就職先も決まったし、なんか美味しいもんでも食うか?」
「ん・・・私が作るよ。」
滲んだ涙を隠すように、明るく話す。
「ええっ?、料理・・・できたっけ?」
「失礼な。これでも、就職してからは一人暮らししてるんだから。」
「あははは。そりゃ、楽しみや。」
侑士も、明るく笑う。
再び、車は走り出す。
二人を乗せ、新たな道に向かって。
「忍足さん。お客さんが、薬のことを相談したいって。」
「はーい。」
伝票をチェックしていたボールペンを胸のポケットに戻して立ち上がる。
忍足・・・と呼ばれるのにも。やっと慣れてきた。
大型のドラッグストアに転職して2ヶ月。季節は、晩秋になっていた。
婚約を破棄して。弁護士にも間に入ってもらい、すべてが片付いたのは夏の終わりだった。
そう。ちょうど、結婚式を予定していた頃。
それから。彼の誕生日。10月15日に籍を入れた。
師走も間近なのに、今年の冬は暖かい。
懐かしいポプラ並木も、今年は残った葉が多いようだ。
「ここ来るの、久しぶりだね。」
「そうやなぁ。っていうか、休み自体が、久しぶりやろ?跡部が働きすぎなん。
ちぃーっとも、休まんから。俺まで、休めん。」
侑士は、ブツブツ文句を言いながら、枯葉を踏みしめて歩く。
中途で入社したものの、跡部君と組んで、すっかり仕事に慣れている。
6年間、彼と共にテニスをしていたのは無駄じゃなかったと。
あの、気難しい跡部と付き合えるんは貴重やで?などと、笑っているけれど。
本当は、ものすごく努力してるの。傍にいるから、分かる。
侑士と再会してから後。私たちは何度も、このポプラ並木を歩いた。
私は何度も泣いて。侑士とケンカもした。
くじけそうになる度に。傷つけあう度に。
私たちは、ここに来て。
別れたあの日を思い出した。
ポプラを見上げるたびに。
心が落ち着いた。
やっぱり・・・侑士が好きなのだと。もう二度と、別れたくないと思えた。
『気持ちって・・・つきることがないな。』
侑士は笑って。ここに来る度に、そっと私を抱きしめてくれた。
「。ほら、手ぇつなご。」
差し出された大きな手に、私の手を重ねる。
ふたりの薬指に光る、おそろいの指輪。
ずっと。歩いていこう。
遠回りをしたけれど。これからは、ふたりで歩くから。
どんな道でも歩いていこう。
繋いだ手を、大きく振りながら。空を見上げた。
鮮やかに染まったポプラの隙間から、柔らかな日差しが降り注いで。
私たちを祝福してるみたいだった。
「つきせぬ想い」
2004.12.12
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