Winter Bells 〜後編〜
「痛い・・・。景ちゃん、腕が・・・」
の声に、やっと腕を離す。
「。お前、なんでそんな格好で来たんだ?制服で来いっ!」
「だって。一度帰って、景ちゃんが部活している間、けっこう時間あるし・・・
だから私服で行こうって。」
「私服で来るにしても、もうちょっと考えて着て来いっ」
「・・・・似合ってなかった?」
途端に、がしょぼんとする。
「景ちゃんと過ごすクリスマスだから・・・選んだんだけど。可愛くなかったね・・・。」
まいった。なんで、こうなるのだろう。景吾は頭を抱える。
どうしてこう、には上手く自分の気持ちを伝えられないんだろう。
遊びの女になら、いくらでも上手いことがいえるのに。
にはただの不器用な男になってしまう。
「違う。」
「いいの。慰めてくれなくていいの。ゴメン。もう・・・着ない。」
「違うっ!」
力まかせに、の両腕を掴む。
潤んだ瞳のが、景吾を見上げてくる。
「お前は、俺だけのもんだ。俺以外の誰にも、んな姿・・・見られたくねぇんだよ。分かったか?」
それだけ言うと、腕を突き放して、さっさと歩き始める。
は、ぼーっと、景吾の背中を見つめていた。
「おい。ぐずくずするなって言ってるだろ。早く、来いっ」
「うんっ」
こぼれた涙を拭って、は景吾の隣に走り寄ると、
へへ・・・と笑いながら、そっと景吾の肘のあたりをつまんで歩く。
「バカ。みみっちい掴み方してんじゃねぇよ。おらよ。」
の前に差し出された大きな手。
景吾を見上げたら、とても優しい目をしていた。
その手に小さなの手を重ねると、ぎゅっと握りこまれて、
そのまま景吾のポケットに突っ込まれた。
「どうする?車を呼ぶか?」
「ううん。できたら・・・歩きたい。景ちゃんと一緒に。」
「ふん。寒いぜ。」
「寒くないよ。景ちゃんが、いるから。」
「そうかよ。なら、好きにしろ。」
「うん。」
が、嬉しそうに景吾の腕に擦り寄った。
クリスマスイブの夜。二人で歩くのなら、悪くない。
景吾もの手を、きゅっと握り直して歩き始めた。
どこからともなく・・・ベルの音がしてきた。
「ねぇ、景ちゃん。ベルの音がしたね。」
「近くに教会でもあるんだろ。ミサでもしてんじゃねぇか。」
「ふーん。ねぇ、行ってみよう。」
「はぁ?冗談だろ。」
「行こうよ。ねっ。」
可愛いにお願いされたら、頷くしかない。
二人は、音を頼りに住宅街に入っていった。
しばらく歩くと、明かりが見えた。
近付いていくと、それはやっぱり教会だった。
住宅街の中に、ひっそりとある小さな教会。
キャンドルがたくさん揺れていた。
ドアは開け放たれて、ミサが行われているらしい。
綺麗なベルが鳴り響く。
「素敵・・・」
が、うっとりと見つめている。
「入ってみるか。ああいうところは、誰でもうけいれるんだろう。」
「あ・・・ううん。ここから見てるだけで充分。」
二人は遠目に教会を見つめながら立っていた。
「そうだ。」
思い出したように、がカバンを景吾に差し出す。
「なんだ?」
「景ちゃんへのクリスマスプレゼントが、この中に入ってるから出して。」
「はあ?」
「だって、片手は景ちゃんが握ってるし。」
景吾は、コートから握ったの手を出して離した。
急に外気に触れて冷たくなる手、それが寂しくて・・・二人は顔を見合わせてしまう。
は、慌ててカバンの中を探る。
そして、小さな赤い包みを取り出すと「はいっ」と差し出した。
景吾は、受け取ると、その場で包みを開けて、掌に取り出した。
それは、ガラスのビーズで作られた星のストラップ。
わずかな明かりにも、キラキラと輝いている。
「星・・・か。」
「あのね。景ちゃんが、一番の星になりますようにって、願いをこめて作ったの。
結構・・・上手くできたと思うんだけど。」
「お前が作ったのか?」
「うん。頑張ったでしょ。」
が不器用なのは、昔から良く知っている。
けれど、目の前のストラップは、とても綺麗にできていた。
彼女が、どんなに苦労して、これを作ったのか・・・景吾には伝わった。
「俺はな、お前に願い事なんかかけられなくても、1番になるんだよっ!!」
また、憎まれ口を叩いてしまう。本当は、嬉しいのに。が、愛しくてたまらないのに。
なのに、は笑っていた。
「うん!景ちゃんが、1番になるんだよっ。絶対!」
「・・・。俺からもプレゼントがある。目え、つぶってろ。」
「ホント?嬉しい!」
「いいから。早くしろ!」
「はーい。」
無邪気に返事をすると、が目を閉じた。
に貰ったストラップを大切にポケットに仕舞うと・・・同じポケットから包みを出してくる。
は目を閉じたまま、ドキドキしていた。
景吾からのプレゼントはなんだろう。
自分の髪に手が触れたのを感じた。そのまま手が、首の後ろにまわっていく。
首の後ろで景吾の手が動くから、くすぐったくて身を竦めた。
離れていく手。
また、景吾の手が伸びてきた。同じように首の後ろで何かしていた。
感じた・・・冷たい感触。
「よし。いいぞ。目を開けろ。」
は、ゆっくりと目を開けた。自分の首元に触れて・・・胸を見た。
そこには・・・星が揺れている。星のネックレス。
「景ちゃん・・・。」
「偶然だな。俺も、星にした。まっ、なんとなく目に付いただけだけどな。」
「・・・綺麗。」
「当たり前だ。そこら辺の安物と一緒にするなよ。」
小さな星の中に埋め込まれて輝いているのは、正真正銘のダイヤモンドだ。
こっそりゲーム感覚で遊んでいる、株取引で儲けた自分の金で買ったもの。
は、景吾の手元を見た。
景吾は、忍足から貰ったネックレスを人差し指でくるくる回している。
始めにしていたのは、忍足のネックレスを外していたのだと分かった。
「あ・・・それ。」
が、手を出すと。景吾が、ニヤッと笑った。
一瞬の出来事。
景吾は忍足から貰ったネックレスを握りこむと、それっ・・・と暗闇に放り投げた。
「きゃっ!何するの?ど・・・どうしよう。探さなくちゃ。」
「バカッ。探す必要ねぇだろ。俺のプレゼントだけじゃ不満なのか?」
「そういう問題じゃないでしょ。人から貰った物・・・捨てちゃうなんて。忍足君に悪いよ。」
「あーん?お前、忍足のプレゼントが、そんなに大事なのか?」
「違うけど。でも、貰った物だし・・・」
景吾は、困っているの頬を両手で押さえると、しっかり視線を合わす。
「何度も言わすなよ。お前は俺のものだ。他の男に貰った物を身につけていいわけねぇだろ。」
「景ちゃん・・・。」
「そのネックレスは、外すなよ。忍足には、俺が言っといてやる。だから、気にするな。」
「本当?」
「ああ。」
が、安心したように微笑む。
そのまま、の顔を上に向けた。いつまでたっても穢れない、綺麗な瞳を見つめる。
また、ベルが鳴り始めた。
静かに流れてくる賛美歌。
景吾が、唇を寄せると・・・が瞳を閉じた。
優しいキス。
幸せな・・・クリスマスイブだった。
後日。
「忍足君。落ちたよ。」
が、足元に落ちたペンを拾って忍足に差し出した。
「おーきに。あれ?それ・・・」
ペンを受け取った忍足が、じっと、の胸元を見ている。
何だろうと、自分の胸を見て、はっとした。
景吾に貰った、星のネックレスが外に出てきていた。
あれから何かにつけて『ちゃんと、つけてんだろうな。』などと、
景吾に胸元を覗き込まれる日々だ。
「ちゃん。俺があげた、雪の結晶はどこへいったん?あれ、選ぶん苦労したのに。」
「え?景ちゃんに聞いてないの?景ちゃんが、忍足君に言っとくって・・・。」
「はあ?なんも聞いてないけど。まさかっ」
いいタイミングで、の後ろから景吾が歩いてきた。
「跡部!お前、俺のあげたネックレス、どうしたんや?」
「ネックレス?ああ、あれか。捨てた。。んな野郎と、話してんじゃねぇよ。さっさと、来い。」
「捨てた?今、捨てたって言うたな。」
「ゴメンね。ごめんなさい。忍足君。本当に・・・」
「ええねん。分かってる。ちゃんが、悪いんやないことぐらい分かってるから。」
「でも・・・」
オロオロする、。
ふてぶてしく笑っている景吾は、腕を組んで仁王立ちだ。
「跡部!大人げないでっ!」
「あーん。悪かったな。子供で。まだ、未成年だからな。おい、。行くぞ。俺に、世話を焼かすなっ。」
すまなそうにしている、の腕を強引に掴むと、忍足に背を向ける。
「ごめんねぇ。忍足君っ」
がしつこく振り返って言うが、景吾が無理矢理、顔を正面に向けてしまう。
「なんちゅうやっちゃ。」
忍足のつぶやきに、宍戸が突っ込む。
「お前も・・・大人げないぜ。」
「俺も、まだ子供やん。未成年やし。」
「・・・・・。どうでもいいけどよ。あんま、跡部を怒らすなよな。
俺らにまで、とばっちりがくんだからよ。」
いいたいことを言うと、宍戸が離れていく。
小さくなる景吾との後姿を見ながら、忍足がつぶやいた。
「なんや、ふたりとも、あんまり可愛いから・・・つつきとうなるねんな。」
はあ。あのネックレス。結構、高かったんやけどな。
そんなことを思いながら、冬の日は暮れていく。
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