宿り木の下で  〜前編〜












中学の頃、越前君の身長は私と変わらなかった。
全校集会や体育祭、身長順に並ぶ時は決まって隣にいた越前君。



『やっぱり身長は欲しいよね。』



文化祭準備のために向かった倉庫で、棚の上にあるダンボールに手が届かなくて呟いた。
当然のことながら同じぐらいの身長しかない越前君にも手は届かない。
だけど越前君は棚に手をかけたと思ったら、軽々とよじのぼってダンボールを片手で降ろしてしまった


上から私にダンボールを手渡すと、忍者のごとく飛び降りてきて無表情のまま呟く。



『別に。身長なんかなくたって困らないけど?それとも背の高い男が絶対条件なわけ?』
『そ、そうじゃないけど・・・』



お愛想笑いで誤魔化したのは、懐かしい思い出。


あれから直ぐにアメリカへテニス留学をしてしまった越前君とは三年も会っていなかった。





「アンタさ・・・全然変わってないんだ。」



高校生になっても数センチしか身長の伸びなかった私を上から見下ろす人。
アメリカから戻ってきた越前君は別人のように大きくなっていた。



「越前君が伸びすぎたんじゃない?」
「そ?」



またしても同じクラスになった私と越前君。
だけど身長は全く違ってしまい、今では最前列と最後尾とに離れてしまった。


身長が伸びただけならまだしも、越前君は物凄く格好よくなっていた。
もともと整った顔立ちで、勝気な瞳は魅力的だった。
だけど身長が低いことがネックになって、そうモテる人ではなかったはず。
今では転入早々から『青学のプリンス』と呼ばれるようになっていた。





図書室で上の棚の本を取るべく奮闘していたら、後ろから長い手が伸びてくる。
簡単に私の欲しかった本を引き抜くと懐かしさを覚える声が落ちてきた。



「これでいいの?」
「ありがとう、越前君。」


「ふーん、こんなの読むんだ。俺、古典は読む気がしない。」
「それは越前君が苦手だからでしょう?中学の時も、古典だけは苦手だったじゃない。」


「古典なんてアメリカにないから。」
「そりゃないよね。」


「期末、ヤバい気がする。」
「そっか。」


「だから教えてよ。」



越前君は古い本をパラパラと捲りながら、なんでもないことのように言った。
唖然とする私を見下ろし、彼らしくなく微笑むと本を差し出す。



「これからアンタの届かない所のものは取ってあげるからさ、いいよね?」



いいよねと訊ねているようで、決定事項のような強い物言いに思わず頷いた。
その日から、私は越前君に古典を教えることになってしまった。


自分の期末に向けたノート整理もかねて、越前君が理解しやすいようにまとめる。
それを昼休みに説明するのが日課になってしまった。


期末までは二週間足らず。
その間、ほぼ毎日のように越前君と肩を並べた。



「暗号文に見えてきた。」
「そっか。暗号を解くと思えば、こういう読み方の記号も楽しく思えない?」


「思えないけど。」
「思うの。病は気からじゃないけど、思いこめば楽しくなるんだって。」


「・・・はぁ」



盛大な溜息をつく越前君を宥めつつ教えていく。
クールな大人の顔をして、案外に子供っぽいことを言う越前君との会話は楽しい。
時には私の手元を覗き込む彼の大きな肩が触れたりして、赤面してしまう自分を隠すのに苦労したりもした。





明日が期末という日、私は越前君が苦手そうなポイントをまとめたノートを彼に渡した。
中を見た越前君が目を丸くして、次にはフッと唇の端で笑った。


クールな王子は笑わないと噂されてるみたいだけど、私の前では少しだけ笑う。
中学から同じクラスの人間が少ないうえに、いつも隣にいた私にだから見せてくれるのだろう彼の笑顔。
それは私の気持ちをとても温かくしてくれた。



「それを見直しとけば赤点はないと思うよ?」
「さんきゅ。」


「じゃあ・・・頑張ってね。」



これで最後か。
思えば、湧いてきてしまう寂しさ。


だけど彼はただのクラスメイト。
そのうえテニスで名を馳せた青学のプリンスなんだもの。
私なんかが想いを寄せて、どうにかなるような人じゃない。


自分に言い聞かせて背を向けたら、その背中に越前君の声がかかった。



「ねぇ、俺が平均点以上取れてたらさ・・・お礼するよ。」
「お礼って?」



少し離れて場所から見上げた越前君は自信ありげにノートを振ると笑った。



「お礼はお礼。たぶんできると思うからさ、24日は空けといて。」
「24日って・・・クリスマスイブ!?」



慌てる私をよそに越前君は桃城先輩のいる校舎に向かって走り出していた。





こんなに緊張して古典のテストを受けたことがあっただろうか。
回答欄を埋めながら「ここは教えたよね」「ここ覚えてるかな」「あ・・これは覚えてないかも」と、
越前君のことばかりを考えていた。


テスト終了の鐘が鳴った時には、全身の力が抜けたほど。
つい振り返ってしまった私は越前君と目があった。


彼は私に気付くと指でピースをしてみせる。
それに続いて四本の指が立てられ、最初のピースも含めて『24』という意味だと理解した。
つまりは自信があるということなんだ。


戻ってくるテストが楽しみ。
弾んでしまう気持ちが抑えきれなかった。





なのに・・・翌日から越前君は登校してこなかった。



テニスの関係で渡米したのだと聞いたのは人づてで、
約束しようといった越前君からは連絡一つこないまま終業式を迎えてしまった。




















宿り木の下で 前編

2007/12/13




















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