校門から見上げた学校は、あの頃のまま。
何ひとつ変わっていないことに、瞳で微笑みあって。
二人は並んで校門をくぐった。
約束 エピローグ
今日は二人で街に出ていた。
手塚が贈ったダイヤモンドの指輪は、の指には大きくてサイズを直してもらった。
それを受け取りにいったついでに、
学校へ挨拶に行く・・・という手塚と共にも青学へとやってきたのだ。
校舎へ続く道を歩けば、グラウンドの土の匂いがして懐かしい。
遠くからは部活をしている生徒達の声やボールの音が響いていた。
「テニスコート、覗いてみる?」
「ん?いや、今日はいい。今度、大石たちに連れて来られることになっているんだ。」
「そう、楽しみね。」
「ああ。」
四年の月日が嘘のように、穏やかな会話が紡がれる。
二人の間に流れる空気は柔らかくて、
そっと足元を気遣っての背に添えられる手塚の手も優しい。
本屋で再会した、あの日から。
手塚は一日もを離さない。
翌日にはの両親の元へ挨拶に行き、彼女の両親を狼狽させた。
その翌日にはを自分の両親のもとに連れて行った。
そして、再会を果たした翌週には。
手塚と両家で顔合わせを済ませた。
『まるで新幹線に乗ってるみたい。』
と、が呟けば。
『今まで我慢に我慢を重ねてきたんだ。もう、一分も待てない。』
と、真顔で手塚が答え、は言葉を失った。
手塚は日本とアメリカ。両方に拠点を置くことにした。
これからも離れ離れの時間は多い。
は仕事を辞めてアメリカに行くべきか悩んだようだったったが、手塚は望まなかった。
彼女の夢は大切にしたい。
たとえ、一年の半分以上を離れて暮らしたとしても。
共に生きると誓い、の元に帰る場所がある。
それは、儚い約束を胸に会えなかった四年とは比べ物にならない幸福だ。
手塚は結婚を望み。
も応えた。
若い二人だったが、長い月日を乗り越えてきた事情を知ると誰も反対はしなかった。
の実家近くにマンションを探し、ふたりで暮らすための準備も始めた。
日本にいられるのは2ヶ月ほど。
その間に引越しまで済ませよう・・・という早業だ。
「おお。手塚!いや・・・立派になったな。サインでも貰っておこうか。」
職員室に顔を出せば、お世話になった先生方が集まってきた。
手塚は几帳面に挨拶をして頭を下げている。
は職員室の入り口に立って、邪魔にならないように見ていた。
本当は外で待っている・・・と言ったのだが『駄目だ』と引きずられるようにして職員室まで来た。
テニス部の監督がに視線を寄こして「彼女は?」と聞いた。
目立たなかったは、記憶に残っていなかったようだ。
だが、隣にいた教師が「あれは・・・確か、じゃないか?」と声をかけた。
2年、3年と担任だったから、さすがに覚えてくれていたようだ。
は入り口で頭を下げる。
「彼女は私のフィアンセです。」
手塚は、ほんの少し微笑んでを見つめながら紹介した。
集まった先生方も『おおっ』と、どよめいたが。
も驚いて、恥ずかしさのあまり赤面して下を向いた。
「やるなっ、お前。」などと。
バシバシ背中を叩かれながらも、手塚の笑顔が消えることはなかった。
結局、は手塚の隣に並ばされて、散々質問攻めにあった。
手塚の体に隠れるようにして、赤い顔をした彼女が微笑めば。
その笑顔につられる様に手塚も微笑む。
「まったく・・・のろけに来たんだろう?」
「お幸せに!」
次々と声をかけられて、やっと職員室から開放された。
静かになった校舎を歩いていると。
たくさんの思い出が、二人を包む。
懐かしい昇降口。靴箱。階段。廊下。教室の匂い。
ふと。
「図書室に行ってみよう」と手塚が言った。
も賛成した。一番の思い出は、図書室にあるから。
中には、まだ生徒がいるからと。
靴を履いて、外から図書室にまわった。
窓から図書室の中を覗き込む。
生徒は少なくて、自分たちが二人で過ごした奥の方の窓からは誰も見えなかった。
「あ・・・見て。一番上の段。あの時、手塚君が取ってくれた本がある。」
「ああ、本当だ。懐かしいな。」
窓から見る図書室。
もう、学生服を着た二人はいない。
けれど。大切な人は、こうやって隣にいる。
この先も。ずっと。
「」
後ろから声をかけられて振り向けば、手塚の顔が近かった。
あ・・・と思ったときには重ねられた唇。
何度か啄ばむ様にキスをして。
二人は顔を見合わせて笑った。
その日の空も。抜けるような蒼だった。
「約束」
2005.05.04
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