you are my sunshine 〜最終話〜









一日一日、カウントダウンしていく日々。
いつも、は柔らかく微笑んでいた。


会うたび透きとおっていく彼女。
この世で背負った無駄なものを捨てていき、身軽に美しくなっていく。
病室に射し込む光りに溶けて、今にも消えてしまいそうなほど綺麗になっていた。



「国ちゃん、余程・・・暇なのね。」
「暇で悪かったな。」



重症の病棟にはいるが、集中治療室よりは穏やかに過ごせる個室には移っていた。
手塚は枕もとの椅子に座って、相変わらず何事もないような他愛ない会話を交わす。
は顔色も良く、酸素マスクも外されていた。
元気そうに見えるのに・・・と手塚の胸は苦しい。



「光クン、元気?」
「元気だが・・・昨日は玄関に粗相をしたから叱った。すると、拗ねた。」


「そうなんだ。トイレの場所、一発で覚えたお利口さんなのに。ね、その怖い顔で叱ったんでしょう?」
「普通の顔で言って聞かせただけだ。つまんで、トイレに押し込みはしたが。」


「普通の顔も怖いから。可哀想に・・・光クン、怖かっただろうな。」
「怖くて悪かったな。」



手塚が腕を組んで目を逸らすと、は楽しそうにクスクスと笑った。



「話しても息切れしなくなったんだな。」


「うん。調子はいい。調子がいいからこそ、手術するんだって。」
「そうか、」



二人は黙り込んだ。
手塚の頭の中にあるカレンダーには、もう印がついている。それは、



「今日・・・だな、」
「うん。」



手塚は手術前のに会いたくて、朝一番に病室を訪ねてきたのだ。


交わす会話、どれもが彼女が残す最後の言葉になるのかもしれないと思ってしまう。
いや・・・そんなことがあってなるものかと心の中で打ち消してを見つめる。



「約束してくれ。必ず、戻ってくると。そして、俺の試合を見に来るんだ。」
「強引な・・観戦要求だね。」


「言い出したのは、お前だぞ?」
「ふふ、そうでした。そうね、見たいわ。ブラウン管を通してじゃない、国ちゃんの勇姿!きっと、もっと好きになるわ。」



そう言って、は東から差し込んでくる新しい光りに目を細めた。
の口から初めて出た『好き』という言葉に、手塚は心臓を鷲掴みにされたような気持ちがした。



「それならば、尚更に見て欲しいと思う。だから・・・約束してくれ。必ず、俺のもとに帰ってくると。」
「国ちゃん?それって・・・」


、約束だ。」



手塚は頷いて小指を差し出した。
みるみる瞳に涙を溜めていくも、ゆっくりと小指を立てて差し出してきた。


二人の小指と小指を絡めると、が小さな声で指きりげんまんの歌を唄いはじめる。
手塚も小さく共に唄った。



「指きった、」



涙で頬を濡らしながら、が言って指を離そうとした。
けれど手塚は離さずに。
繋いだ小指のまま、もう片方の手での体を引き寄せ抱きしめた。



「国・・ちゃん?」
「約束を破るのは許さない。」


「うん。私・・・頑張る、ね?」
「ああ、頼む。頑張ってくれ。」



指きりが何の保障にもならないことぐらい二人は知っている。
頑張ると言っても、頑張る術がない事だって分かっている。



それでも、心は強くなるはずだから。
最後のギリギリのところで、想いは・・・きっと愛する人を救ってくれるはずだから。



の体を強く抱きしめて、祈りにも似た気持ちで手塚は約束をした。










ファイナルのセンターコートには、表情一つ変えずにサービスの構えをした手塚の姿があった。
満員の観客席も息を詰め、物音一つ立てず手塚の姿に見入っている。


高々と上げられたボールが相手コートに鋭い角度で打ち込まれると、ドッと場内が湧いた。



「15-0」



サービスエースを決めて、手塚はガットの歪みを軽く直しながら観客席に目をやる。
自分が用意した席は空席のままだ。


一つ息を吐き、集中力を切らさないよう気持を奮い立たせる。


そして、再びサービスの構えにはいった。



「30-0」
「40-0」



次々とポイントを重ねていく手塚に場内からは大きな拍手が送られていた。


これで決まる。
大きく深呼吸をして、手にしたボールを強く握り締めた。


そうして、もう一度。
手塚は大切な人のために空けておいた観客席に目をやった。



そこには・・・
色の白い小柄な女性がキムラに付き添われて座っていた。



眩しそうに瞳を細め、手塚が自分の方を見ているのに気づくと子供のように大きく手を振った。
だが隣に座るキムラに注意されたらしく肩をすくめた
今度は遠慮がちに小さく手を振って微笑む。



手塚はレンズの奥にある瞳で頷いて、空にある太陽に向かって高いトスを上げた。



勝利を君に。










「何故、もっと早くに来なかったんだ。」
「あのね。出がけに光クンが『僕も連れていってくれぇ』って暴れてね。」


「光が、そう言ったのか?」
「いやいや、言いはしないわよ?でも、目がね、訴えてたわけよ。」


「で?説得していて遅れたとでも言うつもりか?」
「そのとおりなんだけど。おまけにグレた光クンが玄関に粗相したのよ。ね、キムラさん?」


「おう。それも、俺の靴にな。で、説教してたら遅くなって。」
「ついでに渋滞にも引っかかって。」


「で、試合終了間際にやってきたと?」



手塚は眉間に皺を寄せ、腕を組み仁王立ちだ。
とても優勝を決めた選手の顔とは思えない不機嫌極まりない表情だった。


キムラは両手のひらをあげると「あ、俺は用事が」と逃げてしまった。
微妙な沈黙が落ちる中、はおそるおそる手塚を見上げる。



「あの・・・最後だったけど、とっても素敵だったよ?カッコ良かった。」
「ろくに見ていないと思うが?」


「ちゃんと見たわよ!さ・・最後の2ポイントだったけど。
 国ちゃん素敵だった。お日様の陽射しの中でキラキラ輝いてた。」



夢を見るような瞳で、うっとりとが言う。
手塚は僅かに表情を緩め、の頭をクシャッと撫でた。



「で?もっと好きになって貰えたのだろうか?」
「もちろん!」



満面の笑みで答えたの頬が日に焼けてピンクになっていた。
その色が愛おしくて、そっと頬に触れた。



「なに?」
「日焼け・・・している。」


「え?本当に?」
「ああ。」



あはは、と。
が火照る頬を押さえて明るく笑った。
彼女の笑顔はお日様のようだ。



手にした恋人に手塚は思う。





     
you are my sunshine.




















「you are my sunshine」

2006.03.12



















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