You belong to me. 最終話
「ね、これ、コートに置いてってくれる?」
「え?ラケット?あ、リョーマ君!」
竜崎にラケットを押し付けて走り出す。
なんだか分からないけれど、気になる事は自分の目で確かめるのが一番だ。
校門を出て直ぐに小さな背中を見つけることが出来た。
後ろから駆け寄って、逃げられないよう名前も呼ばずに肩を掴んだ。
薄く折れそうな肩にも驚いたけど、振り返ったの顔を見て・・もっと驚いた。
「なんで泣いてるの?」
ハッとしたように顔を背けると手で涙を隠そうとするから、素早く手首を掴んで顔を覗き込む。
そんな俺の手を振り払おうとするけれど、の力で俺から逃れられるはずがないじゃん。
「ね、どうしたの?」
「な、なんでもないの」
「何でもなくて泣きながら帰るわけ?理由、言いなよ。」
「本当に何でもない。リョーマ君には・・関係・・ないから。」
関係ないにカチンときた。
本当に俺とは関係ないのかもしれない。
でも俺には関係がある。
ギュッと掴んだ手に力を込めた。
が僅かに眉を寄せたけど緩めずに言ってやった。
もう計算も何もない。
「には関係ないかもしれないけど、俺には大有り。
好きな人が泣いてたら気になるでしょ?フツウ。」
の瞳、これ以上大きく出来ないってぐらい見開いてた。
大きな瞳からポロポロと雫がこぼれて頬を流れていく。
泣いてるときにナンだけど、とても綺麗だと思った。
その涙が俺のものだったらって、そう思う。
「で、なんで泣いてるの?」
「・・・好き」
「好きだよ。恥ずかしいから、何度も言わせないで欲しいんだけど。」
「私が・・好き」
「そうだけど。ね、理由は?」
違うのと、が首を横に振る。
何が?って、イラついてる俺に向かって消え入りそうな声が呟かれた。
「私が・・・リョーマ君を好きなの。」
一瞬、キョトンとしてしまった。
俺のこと好きって言ったよね。
通り過ぎる生徒達が物珍しげに俺たちを見ていくのが分かる。
ここじゃマズイかと、の手首を引っ張って学校に向かう。
引きずるようにして部室の近くにある倉庫の裏へ行き、を振り向くと同時に抱きしめた。
予想したとおりの大きさ。
俺のために合わせてきたみたい。
腕の中に心地よく収まった体を抱きしめて、お気に入りだった髪の香りを吸い込んだ。
棒みたいに突っ立ってるだけの姿も初々しくて可愛い。
「どうして泣いてたの?俺のこと?」
「リョーマ君にはカノジョがいるって・・・聞いて。」
「誰、それ。本人にも覚えがないんだけど。」
「さっき・・・一緒に」
「えっ、竜崎?」
思わず抱きしめてた体を引き離してしまった。
はまた泣きそうな顔をして俺を見上げてる。
うるうるの瞳で見られるのは悪くないけど、なんか信じられない話でビックリした。
「あの人は、オヤジが世話になった人の孫。
オヤジ繋がりで色々と頼まれたりしてるだけだけど。ふーん、そんな噂になってたんだ。」
「違ったの?」
「何度も言わせないでよ。もう言わない。」
何度も好きだと言わせるのは勘弁して欲しい。
これはこれで恥ずかしいんだから。
視線を逸らせば、も真っ赤になって俯いた。
二人の間に落ちる沈黙も微妙に甘い。
「You belong to me.」
「なに?」
呟けば、が赤い顔を上げて訊いてきた。
「You 、belong、 to、 me. 調べれば?」
小さく頷いたが可愛くて、もう一度抱き寄せた。
ヨシ、捕まえた。
* * * * *
「ね、お願いだから気をつけて帰ってよ。なんかボーッとしてるけど、大丈夫?」
そうリョーマ君に心配されるほど、のぼせた私の動きは頼りなかったらしい。
だって全てが急転直下。
こんなに劇的な変化を体験した一日は、生まれて初めてだった。
登校した朝には思いもしていなかったこと。
バスの中で、そっと自分の唇に触れた。
二度目に抱きしめられた時、
リョーマ君は耳元で「可愛いね」と囁きながら瞼に唇を寄せた。
それがキスなのだと分かった私が慌てふためくのを可笑しそうに笑ってから、
次には顔を傾けて私の顎をすくった。
瞬間で閉じた瞳の後を追うようにして重ねられたのは、リョーマ君からの唇へのキスだった。
そこから後は恥ずかしくて顔が上げられず、クスクス笑いしているリョーマ君に好き放題キスされた。
唇は一回だけだったけど、額や髪やこめかみに何度も。
そしてリョーマ君いわく『生まれたての子猫みたいな歩き方』と揶揄されるほど、ふらふらになってた。
思い出しては赤面し、なにがなにやら分からないうちにバスは家の近くに着く。
バスを降りると夕焼けに染まる空の美しさが目にしみて、とても優しい気持ちになった。
直ぐに家に帰るのも勿体無い気がして、
ポケットから携帯を出して登録したばかりのアドレスを呼び出してみた。
『越前リョーマ』
ア行だから、アドレスの一番最初に出てくるの。
せっかちなリョーマ君が全て自分で登録してくれた。
『俺、寝るの早いから。9時半頃に電話して?それ、登録するから。』
私の返事も聞かずに決めると、私の頭を撫でて部活にいってしまったリョーマ君。
きっと今夜の9時半までドキドキして落ち着かないよ、私。
「!」
呼ばれて顔を上げれば、お姉ちゃんが手を振っていた。
ちょうど大学から帰ってきたところらしい。
家がもう見えているぐらいの距離を二人で歩く。
ふと、英文科のお姉ちゃんなら意味が分かるかもと思った。
You belong to me. 僕に属するじゃ、ちょっと違うよね。
「お姉ちゃん。You belong to meって、どういう意味?」
「ええ?何、突然。」
「あの・・。そう、歌の歌詞にあって」
「You belong to me. あなたは私のものって、ことよ。」
は俺のもの。
リョーマ君の声が聞こえた気がして。
ボッと赤くなった私は勘の鋭いお姉ちゃんに質問攻めにされてしまった。
You belong to me
2006.09.30
ミニ連載にお付き合いくださってありがとうございました。
これでも短編のつもりなのですが、短編が4話はないと終わらないということに
気づいた次第です。
You belong to me. は、昔昔に好きだったアーティストの歌詞です。
意味を教えてくれたのは英文科に通っていた従姉妹でした。
その当時に高校生だった私は、その意味にキュンとしたものです。
懐かしく思いつつ・・・
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